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旅行記録 2024/08/30-京都

 さてさて困ったことになってしまった。東海道新幹線の運休によって、代替案としてサンダーバードで敦賀、そこから北陸新幹線にて東京へと向かうことに変更となったが、果たしてこれは上手くいくのだろうか。もしかすると人混みによって席に座れないかもしれない。それよりひどければ、群馬の山中あたりで新幹線が止まるかもしれない。そうなっては大惨事、車内にいるしかなくなる。おそらく、そのころには外は豪雨。東京の何か所かには大雨や土砂崩れの警戒警報が出ているというし、おそらくは、中央線は遅延するだろう。そもそも東京へとたどり着けないかもしれないし、たどり着けても家に帰ることができないかもしれないのだ。そんなとき、いったいどうするか。考えていてもらちが明かない。ここは覚悟を決めようと朝早くに祖父母の家を発つ。昨日にも歩いた道を再び手を振り歩くというものは少し不思議な気持ちになるが、もたもたとしていれば電車に間に合わないかもしれない。電車が遅延しているかもしれない。「もしも」に備えて、早めに動かなければ。
 ほぼ予定した時刻に京都駅に到着。残念だが土産物を買う時間もない。昨日買ったものは、フリースクールに顔を出すときにはすでに消費期限が切れることが分かったので、家族で消費した。サンダーバードへの乗り換え時間は20分ほどあるが、この時間にはどの土産物屋もやっていないとわかった。東京駅で買ったものを土産と称して渡すのはどうにも後味が悪い。いっそのこと、これまでのことを洗いざらい話して、土産は買えなかったと真実を話すのが一番いいだろう。
 そう思って京都駅から、しばらくしてやってきたサンダーバードに乗って北陸へ向かう。解剖合宿であったり家族旅行であったりと毎年日本全国へと向かうが、九州・四国・北海道へは行ったこともなく、北陸は未知の世界だった。その他の土地も「行ったことがある」くくりではあるが、東北に至っては「飛島」という島と山形県に若干滞在した程度。未だに関東以外は未開の地であるようなもの。そんな未知の世界に行けるというのであれば喜ぶが、今回は通り抜けるだけ。窓から外が見られれば良いが、新幹線では窓際の席は確保できていないため、その席の人の意向によってはカーテンが閉められるかもしれない。よって、僕が楽しみにしていたことはまた別であった。阿賀神社へ行ったとき、琵琶湖が見えなかったことがどうにも悔やまれるのだ。サンダーバードは湖西線の線路を通るというから、もしかすると琵琶湖を見ることができるかもしれない。沖ノ島や竹生島をも見ることができるかもしれない。そうした期待のもとに、やがて来たサンダーバードに乗り組んだ僕は片時も窓から目を離さない。幸い、座席は進行方向右側だ。
 しばらくして。見覚えのある駅を過ぎる。山科駅、遂に京都を抜ける。山一つ越えれば、そこはもう琵琶湖のすぐそばのはずだ。今思うと、大津あたりに入ったのだろう。不意に右手に水が見えた。最初は小さい。対岸がすぐそばに見える。最初は川かと思ったが、次第に対岸との距離は離れていく。そこに来て確信するに至った。これが、琵琶湖だ。しばらくして島影のようなものが見えてくれば、その確信は現実味を帯びてくる。ここが琵琶湖ということは、奥に見える島らしき影は沖ノ島か竹生島ということになる。竹生島は浅井姫が住まわれ、沖ノ島には今参局が流されようとした。共に僕の興味の対象であった。ことに沖ノ島は、もし日程が合えば5日目に向かう選択肢としてあったのだから、それを見ると頭の中が名残惜しさで溢れかえるかのよう。もう少し大原を満喫すればよかった、猪らしき動物が狛犬としている建仁寺にも行けばよかったなどという思いが堰を切ってあふれ出す。台風が来るまでに家に帰りたいという望郷の念と、そのやり残したことを悔やむ気持ちは両立し、言葉にできない感情へと昇華した。その気持ちに折り合いをつけるいとまもなく、電車は粛々と進んでいく。
 さて、琵琶湖が視界から消え、トンネルを幾つもくぐったころ。車内アナウンスが終点到着を告げる。さて。もうのんびりとしていられる時間は終わった。敦賀で与えられた乗り換え時間は15分前後。それ以内に人でごった返していると予想される改札を抜け、購入した席まで行かねばならない。そうしてホームへ出れば半ば予想通りの人混み。こんなところで時間を使っていてはいけないのだからと、乗車後急いで自分たちの席へと急ぐ。通路にも人が大勢いる。通り抜けるのも一苦労だ。

敦賀駅の一場面

 後で考えていたところ、ひと車両の通路には3から40人ほどがいたのではないかと思う。つまり、400人ほどが敦賀‐東京間を席に座ることなく過ごしたというわけだ。その大半は外国人だった。僕たちは前日夕方のうちに指定席券を購入したからよかったが、旅先の外国でそんな目にあったとしたら機敏に動くことはできないだろう。だから、その日の全席指定の新幹線に自由席乗車券で乗るという発想は僕たちを驚かせた。そんな考えは、僕たちには全くなかったのだ。座席に座ることができなくても、一刻も早く東京に帰ることが重要だと考えるのであれば、この手段は最適だった。ことに、今は台風の影響でいつ北陸新幹線が止まってもおかしくはない状況。この方法を咄嗟に思いつくとは、ただものではない。

車内で空いている場所などない

 実際、このあとの新幹線は一度動かなくなった。そのことを考えてみれば、彼らの手段は状況に即した素晴らしいものだ。もしもこういった場面に出くわしたならば、ぜひ真似してみたいものだ。まあ、新聞紙か何かを床に敷いて座るのが一番だが。
 東京到着後、なんとか地元に帰り着いた僕たちは泥のような眠りについた。このころレイセン達が車に閉じ込められていたというのに、暢気なものだ。それにしても、疲れた。もう少しだけ、眠っていよう……

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