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掌編小説

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2021年8月の記事一覧

かすれた声【掌編】

かすれた声【掌編】

「ごめんね」
 許す許さないの前に、そのハスキーボイスが気になるよ。
「風邪ひいたの?」
「いや、昨日クーラーつけっぱなしで寝たから」
 つけっぱなしのクーラーの生み出した声が、思いがけなく私の琴線に触れてしまう。抱いていた怒りは、彼の寝ぐせをつい指でもて遊んでしまうほどの愛おしさに変わってしまった。
 これじゃあ、また同じ繰り返しだ。我に返って寝ぐせから指を離す。一歩下がる。
「許さない」
「ご

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リスケのちラムネ【掌編】

リスケのちラムネ【掌編】

 ラムネを買ったのは何年ぶりだろう。透き通った青色のラムネ瓶。夕焼けの空にかざせば、何か特別なものが見えるような気がする。そんな期待を抱きながら、私は河川敷のベンチに腰掛け、夕焼けを待っている。
 今月のスケジュールを埋めてやろう。あの人が入り込む隙間がないくらいに埋めてやろう。そう思い立った私は、スケジュールのアプリに予定を入力した。
「ラムネを買って夕焼けを見る」
 これが今日のスケジュール。

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