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オンライン旅行会社分析⑦ OTA業界1位のBooking HDとは?第2回


今回も引き続き " OTAの覇者・Booking HD "

 前回はBookingHDの売上の中身をみていきました。売上の成長性は鈍化しており、その点ではエクスペディアとほとんど大差ない感じでした。ただし、ビジネスモデルの違いや戦略の差がある事は確認できたと思います。そのような違いが収益性や効率性にどのように影響を及ぼしているかを今回は見ていきたいと思います。

↓前回はこちら


収益性 = " 営業利益 " をみてみる

 まずは収益性をみていくために、本業の儲けをあらわす営業利益に重点を置いてみていきたいと思います。

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 営業利益はここ10年で5倍の50億ドル(≒5500億円)にもなっています。

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 営業利益 " 率 " でみても、この10年でなんと10%も向上し現在は36%と大変収益性が高いです。エクスペディアが7%程度でしたのでその差は歴然です。

 なぜこのように営業利益率が高いかを分解てみていきましょう。まずは営業利益の源泉となる " 粗利率 " をみていきます。

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  粗利率はこの10年で約40%も向上しており、現在は100%として扱っています。なので2018年期から粗利率(原価)の表記がなくなりました。
 これこそまさにAgencyモデルの拡大によるものと考えられます。Merchantは基本「仕入れ」が必要ですので、どうしても原価(Cost of sales)が必要。しかしAgencyは特に仕入れる必要がなく、自社のサイトに載せてもらうだけなのでコストがかからないという事です。ここがエクスペディアと大きく異なる点だとも言えます。

 では主費用となるマーケティング費はどうなっているのでしょうか?

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 マーケティング費用比率(対売上)はこの10年で約15%も増加し現在は33%にもなってます。この増加具合はエクスペディアと大差ないですね。より多くのシェアを獲得する為に業界では多くのマーケティング費用をかける必要があったと読み取れますね。

 結果的にコスト構造がどう変化したかも見ておきましょう。

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 マーケティング費用を増加させても原価率が低下したおかげで結果として営業利益率が向上しているのが読み取れます。他にも人件費や販管費も増加していますが全て吸収できてますね。まさにビジネスモデルチェンジが功を奏した結果であるといえますね。

 続いて収益性の最終形態であり企業価値を決めるフリーキャッシュフロー(FCF)創出力をみていきましょう。

 まずはフリーキャッシュの源泉でもある営業キャッシュフロー(営業CF)をみていきます。

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 この10年で約10%も向上し現在は37%と大変高いキャッシュ創出力です。

 それでは、この高いキャッシュ創出力があるBooking HDのFCFをみていきます。

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 FCFはこの10年で5倍も増加し現在は50億ドル(≒5500億円)にもなっています。FCFマージンでみてもこの10年で10%も増加し、なんと現在は34%にもなっています。業界的に大きな投資が要らないからというのはもちろんですが、それにしても34%とは凄まじいFCF創出力ですね。エクスペディアが11%程度でしたので、その差は3倍。

続いて、効率性 = " ROIC "

 つづいて効率性をみていきます。効率性は個人的に最も重視する " ROIC "をベースに見ていきたいと思います。(重視するのはROAやROEの欠点を補っていると考えているから)

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 ROICはこの10年で大きな変化なく現在27%と大変高効率です。近年は低下気味でしたが大きく回復しました。エクスペディアが7%程度でしたので効率性でもBookingが圧倒的に高いですね。

 このROICがどのように創出されているかをROICを分解してみていきましょう。

ROIC=(1-税率)×営業利益率÷投下資本
ROIC=(1-税率)×営業利益率×投下資本回転率

 

 営業利益率は収益性のところで確認したので、" 投下資本回転率 "をみていきます。

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 投下資本回転率はこの10年で30%も低下しています。ということは、営業利益率が向上したおかげで10年前と同等のROICをキープ出来たという事がわかります。
 でも、なぜ低下したのかを投下資本回転率を分解してみていきたいと思います。

投下資本 = 有利子負債 + 純資産 ≒ 固定資産 + 運転資本
投下資本回転率 → 固定資産回転率 、 運転資本回転期間

 まずは、" 運転資本回転期間 " をみていきます、

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 運転資本回転期間はこの10年で25日も改善しマイナス47日。エクスペディア同様にマイナスとなっていますので、成長すればするほどキャッシュを創出できる状態であった事がキャッシュ創出力を高めた一因であるとも言えます。 
 運転資本回転期間が改善しているという事は " 固定資産回転率 " が悪化していると考えられます。確認してみましょう。

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 固定資産回転率はこの10年で30%も低下し現在114%何故低下してしまったのかを固定資産の中身をみて確認しましょう。

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 この10年で長期投資が大きく増加してます。つまりは " カネ余り状態 "で効率性が悪化したといえます。近年はそれがやや減った事で改善されたというわけですね。あれだけ高いキャッシュ創出力で大きな投資も不要であるのと、業界的に成長が鈍化したことで新たに大きく投資する場所もないためにカネ余りになってしまっている感じがします。
 この状態だからこそ、このキャッシュを効率的に使う為により多くの会社との資本提携や戦略的パートナーシップを拡大しているのかもしれませんね。

ここまでで

 今回を通じてBookingとエクスペディアの違いが浮き彫りになったと思います。ビジネスモデルの違いが収益性や効率性に大きな差をつけているのだと理解出来ました。同じ業界でも、選択するビジネスモデルで大きな差が出来るということを示す良い例だと思いました。
 次回はオマケとして、エクスペディアとBookingの各項目を横並びに見て理論株価的に現在のような5倍もの時価総額差がつくかをみてみたいとおもいます。(オマケなので内容は薄い気がします。。)


今回は以上となります。ありがとうございました!

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