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自由のケーキマン

わたしはとってもズボラな性格だ。

店の袋が有料化してから、エコバッグを取り出すほどのものではない近場の買い物だと割と素手で持ってしまう。
例えば、コンビニで飲み物を買った時。
小さなおやつ。
本屋で一冊だけ買った時なんかも、車まで手で持つことがままある。

きちんとお金を払っているし、やましいことは何もないけどやっぱり人の目が気になることがあるから素手で持ってる場合は堂々と店を出てる。
万引きじゃありません。
買いましたと主張を込めて。

そんなガサツなわたしがこの前ケーキを買いに行ったときに、とある男性を見かけた。

そのお店はわたしの家からも近い場所にある。
「お持ち帰りのお時間はどのくらいですか?」と聞かれて「5分くらいです」と答えると、いつも保冷剤をケーキの箱に一つ入れてくれるのが申し訳ないくらい。
とても美味しく店だから、誕生日やクリスマスは絶対にそこで買う。

見かけた男性は恰幅が良くてちょっと強面だった。
しかしそんな彼には、背格好なんて全く気にならないようなインパクトのある特徴があった。

手のひらにケーキをのせてた。
お盆に料理を載せて運ぶウェイターよろしく。
夢かと思った。
もちろん、ケーキ屋のケーキだから銀紙が下に敷いてあるはずだ。でもスーパーやコンビニのケーキとは違って透明の覆いがあるわけじゃない。
丸裸のケーキだ。
失礼とは思ったけど、視線がはずせなかった。
そのまま彼はケーキ屋の真前のマンションのエントランスに消えていった。

わたしもすぐ帰るのに冷やしてもらうのは心苦しいことはある。
特にこの季節。
冷やさなくてもすごく寒い。

あの男性も多分同じ。
家が近いゆえの奇行。
お持ち帰りのお時間は30秒くらいだろうし。

なんだか、それを見て少し感動してしまった。
保冷剤いりませんではなくて、箱いりませんと言える勇気。
店員さんはどうやって渡したんだろう。
そのまま持って帰る実行力。
本当にすぐに食べるんだろうな。

正直この時期・この時勢、褒められたことじゃないし衛生的にやめた方がいい。お店の人も絶対にすごく困ったはずだ。客がいいと言っても、何か問題が起きたら大変だし。

ただあそこまで自分の振る舞いができるのは、本当に自由な人間だなと思った。
自由を象徴して掲げるものは松明じゃなくてケーキだったんだ。

まあ、客観的に見て素手でお菓子を持ってるのはあんまりよろしくないこともわかった。流石に裸のお菓子を持ってたことはないけど。
今度からコンビニでプリンを買うときは、たとえ一個でもケチらず怠けず「袋ください」と言うことにする。
自由には責任が伴う。ああいうふうに見られたくないと自分が思ったことも理解した。

自由のケーキマンは、意図することなくわたしの悪癖“怠惰”を矯正してくれた。
取り出しやすいエコバッグを携帯しよう。


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