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胸焼け性別発表ケーキ

だいたい妊娠13週〜15週くらいになると、赤ちゃんの性別が分かるようになる。
より確実に判断できるのは、20週前後らしい。
見分け方は何も難しいことはなく、白黒のエコー写真を見て、股のところに大事なものがついているかついてないかだ。
産まれるまで性別を聞かない、という選択をするお母さんもいるが、20週を過ぎた私は名前の候補を考えたかったので、次の検診で先生に聞こうと決めていた。

2020.8.22
検診当日。
硬いベッドに横になり、まるまるしてきたお腹をベロンと出して、生暖かいジェルを塗られる。
この頃私は前置胎盤気味で(胎盤が下がり、内子宮口を覆ってしまうこと)このままだと帝王切開の可能性が出てくると言われていたが、お腹が大きくなる過程で胎盤も上がり、体調は良好だった。

バーコードを読み取るスキャナに似たプローブで、胎児の様子を見る。
モニターに出た無彩色の赤ちゃんは、頭の場所はかろうじて分かるが、手や足は先生に説明されないと分からないくらいの解像度だった。
写真としての解像度ではなく、発育の解像度が低いので(なんといっても絶賛細胞分裂中なのだ)どうしても曖昧な形となる。
伸びしろがあると言えよう。
先生は画面をキャプチャして、印刷したエコー写真をくれる。

「あのう、性別は分かりますか?」
「うん、女の子だね。」

やっぱりそうか。
何となく女の子の予感がしていた。
性別を聞く前は、本当にどちらでも構わないのでどうか健康で産まれてきて下さいと、日々願っていた。
決まったら決まったで、今後のお買い物準備が具体的になるので楽しいものだ。
この我が家の一大ニュースを、すぐに夫に知らせたかったが、浮かれた私はあるイベントにして伝えることにした。

ジェンダーリビールケーキだ。
言い換えると性別お知らせケーキ。
これは、ケーキの中身で女の子か男の子か知らせる方法だ。
例えば、
「イチゴが出ると女の子で、ブルーベリーが出ると男の子だよ。」
と、先に夫に伝えておいて(このときの付き合わされる夫の気持ちを今考えてみたが、私と同じテンションで楽しみにしてくれて本当に良かったと思う。はよ教えてくれよ、と言われなくて良かった。)
そうして十分にもったいつけたのち、いざ、ナイフを入れるのだ。

私は検診の帰り、張り切ってケーキの材料を選びに行った。
そうだフルーツはメロンとマスカットにしよう。
一から生地を作る時間はなかったので、美味しい方が良いだろうと、血迷ってスポンジの100倍くらいの質量がある大きなバームクーヘンをくり抜いて作ることにした。
なんで?
3枚にスライスしたのち、まあるくくり抜いた中央に“女の子”の合図と決めたメロンを念入りに仕込み、たまにつまみ食いしながら、周りには7分立てくらいの生クリームをたっぷりと塗り、艶々としたメロンとマスカットをデコレーションする。
手作りしたboyとgirlの飾りは、誇らしげにピン!と、背伸びしていた。
これぞ自己満足の権化である。

「性別が分かったよ。」とだけ伝えてある旦那さんが、るんるんで帰宅した。手には花束。
いよいよケーキ入刀だ。

「……ガール!女の子?!」

ケーキの断面から顔を覗かせたメロンを見るや否や、彼は嬉しそうな顔でこう言った。
小さな家族で作り上げた幸せは、小さな部屋隅々まで行き渡った。
あたたかい安寧を切り分ける。
こうやって私の父や母も性別が分かったときはドキドキしてくれたのだろうか。
まあ、うちは三姉妹だったので父親は男の子が欲しかったのかな、と今でも思う。
生まれてしまったものはしょうがない。

ああでもない、こうでもない、服は姪っ子のお下がりが使えるね、など話しながらフォークを運ぶ手が進む。
だが生地を"例のもの"にしたおかげで激重のカロリーである。
ケーキの土台はスポンジじゃなきゃいけない理由がここにはある。
しだいにお互い、うっぷと胸焼けしてしまい、
「また、明日にしよっか」
と、食べ残しにラップをかけ、切り分けた幸せを明日へしまうのだった。

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