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DXを謳うIT関連企業から「明日必着」で請求書を「郵送」してくれと言われた件

(Twitterで呟いたところ、軽くバズったため記事化しました)
(この記事を受けた、反響をまとめた記事も追加公開しました。この記事の一番最後から飛べます)

火曜日の朝。前の週に、私が講演に登壇した東京のIT関連企業から以下のメールを受信しました。

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私は唖然としました。なぜならこの講演のテーマは「DX」であり、参加者(このIT関連企業の顧客)にバックオフィス業務のデジタル化推進を促す内容だったからです。

・DXテーマの講演の請求書を
・明日必着で原紙を郵送しろと
・前日の朝に突然メール連絡してきた
・IT関連企業

この4行だけでも、この企業の対応は矛盾だらけだとお分かりいただけると思います。私は、即座にPDF化した請求書を添付の上、以下のレスをしました。なお、講演開始前に猛スピードで書いたため、言い回しが雑です。

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・私は浜松で仕事をしている
・1人事業主であり、事務対応リソースがない
・連日(この日も)複数の講演で追われており、突発的な事務作業依頼に対応できない
・多拠点生活者であり印刷環境がない

私の事情はこの担当者もよくご存じだったはず。連日講演予定でスケジュールが埋まっており、登壇の日程をずらしてもらったくらいですから。

まもなく以下のレスが届きました。

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なんと!嬉しい一言!
感謝と応援のメッセージを返信し、やり取りを終えました。
今回、柔軟に対応してくれた担当者には感謝しかありません。こういう、正しい問題意識をもって行動してくれる担当者が増えていって欲しいものです。

なお、私は法的にもデジタルで代替できる書類であるにもかかわらず、印刷や郵送を伴う事務作業を課す企業(基本は毅然とお断りします)には「事務作業サーチャージ」を課金。実際にお支払いいただいた例もあります(最大5万円)。

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「アナログな事務作業にはコストがかかる」

その認識を、先方の社内(担当部門、経理部門、ほか)に持っていただく必要があります。そのためにも、「事務作業サーチャージ」の一行を明示しています。

「銀行や携帯電話キャリア各社も、紙の通帳や利用明細の郵送は有償オプションにしはじめていますし」と説明すると理解を得やすいです。ちなみに。
ここ、試験に出ます!

私は、特にIT企業には毅然と接しています(IT企業出身者だけに)。

デジタルで代替できる作業、多くの他社はペーパーレスで進めている作業を、自社の決まり事や慣習でアナログなやり方で相手に強いるやり方は、IT企業の社会的責任としていかがなものでしょうか。

悪気なく自社の古いやり方が、相手に本来業務以外の稼働負担やコスト負担を強いる構造はアンヘルシーです。

ましてやテーマが「DX」「働き方改革」などの案件であればこそ、看過する訳にはいきません。

この問題、単に「相手に(自社の担当者にも)間接コストや事務コストを発生させる」「手続きが面倒」「生産性低下」で済ませられる話ではありません。

企業の広報、人事、ひいては経営に直結する由々しき問題ととらえています。


■広報の観点(企業ブランドに影響)

IT企業なのに、DXを謳っているのに、事務手続きがペーパーレスになっていない。その時点で、取引先や顧客に対するブランドイメージの低下につながります。
どんなに広報部門やマーケティング部門が頑張って、「DX」「デジタル化」など自社のイメージアップをしても、現場の社員から「紙の請求書を郵送しろ」などと言われた瞬間に台無し。水の泡。

企業ブランドは、その企業らしさを社員や業務プロセスが体現し続けることで維持向上できるものです。広報部門やマーケティング部門だけが頑張れば良いものではありません。

とりわけ、見積もり、請求、契約のような業務は、顧客や取引先や採用候補者とその企業とのファーストコンタクト(初期接点)になりがち。その企業の印象を左右する、言い換えれば「その企業がイケているかどうか」を体感するタッチポイントだということです。
事務手続きの煩雑さは、その企業に対するエンゲージメント(帰属意識や本気度)、ひいてはブランドイメージを大きく左右するのです。

その認識を、この企業の経理部門や監査部門は持っているのでしょうか?


■人事の観点(採用、定着、エンゲージメント、エンプロイアビリティ、ダイバーシティ&インクルージョンに影響)

人事の観点でも大いに問題ありです。
電子データのやり取りならば一瞬で終わるような、見積書や契約書や請求書のやり取りに現場の担当者が忙殺される。手戻りする。本来の業務が進まない。そのような企業で、プロとして健全に成長したい意欲のある人が働きたいと思うでしょうか? 勤め続けたいと思うでしょうか? 採用と定着に不利に作用します。

イケていない仕事のやり方は、そこで働く人たち(含:派遣社員、ビジネスパートナー)の組織に対するエンゲージメント(帰属意識や愛着)に悪影響を及ぼすのです。

同業他社は、事務手続きが少なくペーパーレスかつ自動化されていて(あるいは誰かが代行してくれて)、事業部門の担当者は素早く顧客や取引先とつながって、素早く本来の仕事に集中できる。それだけ、本来の仕事の経験値が蓄積されるスピード、プロとしての成長スピードも早い。これは、その人の雇われうる力、すなわちエンプロイアビリティにも影響します。

古い仕事のやり方しかできない人材は、その会社以外では通用しない残念な人材になってしまいます。

・好条件で転職する力を奪われます
・転職せずとも、いまの勤務先が好条件で雇用し続けたい(または再雇用したい)と思わなくなります

人生100年時代、エンプロイアビリティは個人にとって死活問題です。
なおかつ、エンプロイアビリティの低い人材を温存/量産し続ける組織に、良い人材は集まりません。つまり、組織にとっても死活問題なのです。

また、紙ベース、判子ベース、郵送ベース、対面ベースの仕事のやり方は、そこで働く人たちと関係者をオフィスなどの場所に縛り付けます。

・育休明けの時短勤務者などが活躍しにくい
・テレワークしにくい
・パラレルワーカー(副業)など複数の顔を持つ人が活躍しにくい
・他地域の人たちが参画しにくい

すなわち、ダイバーシティ&インクルージョンも阻害します。

■経営の観点
ここまでの説明で十分でしょう。

・生産性低下
・ビジネススピード低下
・利益率低下
・ブランド力低下
・人材採用定着力低下
・エンゲージメント低下
・エンプロイアビティティ低下
・ダイバーシティ&インクルージョン阻害

経営に対するネガティブインパクト大なりです。

以上、自社のビジョンに反したやり方を悪気なく押し通す、経理部門(のみならず管理部門)の問題、それを放置する経営の問題を説明しました。

えっ!?
「監査部を説得できない」
「監査法人や税理士がアナログなやり方を強要する」
ですって!?

だったら、監査部と闘ってください。
監査法人や税理士と正しく揉めてください。

それでも社員や取引先の生産性やモチベーションを下げる、古いやり方を強要するような監査法人や税理士はクビにしなさい!

事業会社は事業をしてなんぼです。それを、古いやり方で妨げる輩は、組織の成長を妨げる邪魔ものでしかないですから。

闘え。

追記)ただこの問題、つきつめると残念な霞が関、時代の空気を読まない我儘な税務関係者などが元凶だったりもするから悩ましく闇深い。。。

これらの問題と管理部門を含めた各組織(機能)の理想像は、書籍『バリューサイクル・マネジメント』で立体的に解説しています。

▼書籍『バリューサイクル・マネジメント』
https://gihyo.jp/book/2021/978-4-297-12016-0

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このようなテーマを、沢渡及び他社の組織変革推進者とディスカッションされたい方は『組織変革Lab』にご参加ください。毎回(毎月)熱い議論が交わされています。

▼『組織変革Lab』
https://cx.hamamatsu-ws-lab.com/

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まずは半径5m以内から、組織の景色を変えていきましょう!

※後日追記:この記事を受けた反響を以下にまとめました↓