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中山間地の高校生と社会人の越境学習〜 #佐久間ダム際ワーキング キャリア教育プログラム2023冬 レポートと考察

2023年12月7日(木)、静岡県浜松市天竜区佐久間町の佐久間ダムと静岡県立浜松湖北高校佐久間分校で開催された #佐久間ダム際ワーキング キャリア教育プログラムにモデレータとして参加しました。2022年12月以来、既に3回目(社会人のみの越境学習を含めると4回目)となるこのイベント。その体験記と考察を共有します。


1.#ダム際ワーキング とは

#ダム際ワーキング  の定義は以下の通りです。

ダムおよび近隣のカフェや宿泊施設などで仕事しつつ、自然の中でリフレッシュする新しい働き方。

#ダム際ワーキング 公式サイトより

今回のような越境学習(日常を離れ、組織や立場や地域を超えて交流して学習する取り組み)イベントももちろん、企業組織の業務合宿や商談、個人ワークや読書などをダム近くの公園やダムのある町の施設などで実施する行為も #ダム際ワーキング ととらえることができます。

今回は僕たち浜松の企業(静岡放送 浜松総局、あまねキャリア、NOKIOO、電源開発 佐久間電力館ほか)に加え、U-29.com(ユニークドットコム)を運営する東京の株式会社ユニークも企画に協力してくれました。

2.いざ佐久間ダムへ!社会人参加者同士でランチ&ダム散策

というわけで佐久間ダムに向かいます。僕たちはオフィスのある浜松市から東名高速、三遠南信道を乗り継ぎ愛知県新城市を経由して佐久間へ(最短ルートです)。
ちなみにこのルート、2つのダムの近くを通りダム好きの僕は毎回寄り道したい誘惑との戦いです。

ダムへと誘う素掘りのトンネルがこれまた堪らない非日常感たっぷり。訪れる人の感情を揺さぶり、魅了します。既に越境学習は始まっている!

佐久間ダム手前の素掘りトンネル。アドベンチャー感がたまらない!

集合場所は、佐久間電力館電源開発株式会社(J-POWER)が運営する施設です。麓の駐車場にクルマを停め、紅葉がキレイな坂道をてくてく。

佐久間電力館に向かう坂道。紅葉が見頃でした

電力館の前には #佐久間ダム際ワーキング ののぼりが!迷うことはありません。

#佐久間ダム際ワーキング ののぼり

佐久間電力館の研修ルームをお借りし、社会人参加者同士のランチ&交流タイム。地域の旅館で手配したお弁当を美味しくいただきながら、1人ひとり自己紹介をします。

浜松市のみならず、静岡市、川根本町など県内他都市、そして愛知県や東京都や埼玉県など首都圏から約20名に参加いただきました。
企業ビジネスパーソン(経営者も担当者も)、行政職員、町会議員、フリーランス、地域おこし協力隊、大学生など顔ぶれもカラフル。まさに越境学習です!

社会人参加者のランチ&自己紹介タイム

お互いの人となりが分かり、既に打ち解けムードに。会話も弾みます。
#佐久間ダム際ワーキング の我らがリーダー 静岡放送 浜松総局 大見拳也さん が挨拶と趣旨説明を。

#佐久間ダム際ワーキング リーダーの大見拳也さん。佐久間町出身者です

#ダム際ワーキング のような地域を巻き込んだ取り組みには、地域のファシリーダー(ファシリテータ+リーダー。僕の造語)役の存在が欠かせません。大見さんも、そんな地域ファシリーダーの一人。大見さんはこんな人です↓(僕の講演スライドの抜粋)。

佐久間町と川根本町の #ダム際ワーキング のファシリーダー、大見拳也さんと髙梨太さん

右は、川根本町(長島ダム)での #ダム際ワーキング の中心的存在、髙梨太さん。髙梨さんも今回の佐久間のイベントにこの後駆けつけてくれました。

3.中山間地域の行政間越境交流の意味も

川根本町長島ダムは、2022年4月に全国初の #ダム際ワーキング スポットを開設しました(長島ダムふれあい館(既存の施設)の一画に電源とWi-Fiを整えたワーキングコーナーを設置。および研修室を #ダム際ワーキング 目的で利用可能に)。ただ、場(ワーキングスポット)は出来たものの、佐久間町のキャリア教育のようなコトを継続的に興すことは出来ていません。 

その一方、佐久間町はコトは興すことはできているものの場がない。来訪者が合間にちょっと仕事をしたり、オンラインミーティングをするのには難儀する。

今回、川根本町からは髙梨さんのほか、副町長、観光商工課室長、長島ダムふれあい館担当者(静岡市から出向)、町議会議員が参加してくれました。ダムを有する中山間地の行政間の越境です。なお「視察」ではなく(一緒に)「参加」いただきました。

場はあるがコトを興せていない川根本町(長島ダム)と、コトは興せているが場がまだない佐久間町(佐久間ダム)。この2町の越境・交流はお互い「あるもの」「ないもの」を知ることができ、意義深いと感じました。

また、今回のイベントには愛知県設楽町設楽ダム(建設中)を舞台にした地域活性に取り組む、空かおりさんも参加してくれました。空さんは、豊根村の新豊根ダムのJAZZフェスを企画運営するなど、ダム軸の地域活性の実践者であり僕たちの同志でもあります。


ダムのある中山間地同士の地域間越境#ダム際ワーキング ファシリーダーの共演が佐久間ダムで実現!

この後、一行はダムを眺める展望台を散策。雄大な景色を堪能しました。

佐久間電力館の展望台から佐久間ダムを眺める

所属も地域も立場も異なる参加者同士、肩を並べて同じ景色を見る。雄大な景色を眺めながら、目先の仕事をいったん忘れ少し先の未来に思いを馳せる。そんな景色の変化が生まれるのも、#ダム際ワーキング ならでは。

恒例のダムバック記念撮影。この後に駆けつけた参加者も5~6名います

4.高校生との越境学習。世代も立場も超えたフラットな対話の景色

社会人参加者同士のネットワーキングを終え、麓の静岡県立浜松湖北高校佐久間分校に移動。

いよいよ生徒と社会人とのグループディスカッションが始まります。
今回は体育館での開催。60名近い全校生徒と先生方、20名近い社会人参加者が一堂に会します。社会人参加者からは「懐かしい」の声も。

静岡県立浜松湖北高校佐久間分校の体育館にて

今回のテーマは「よりよい人間関係をはぐくむには」
モデレータ2名とパネリスト3名(U-29.comメンバーの20代ビジネスパーソン3名)によるトークライブを聴いた後、高校生と社会人混合のグループワーク(対話)を行います。

社会人参加者によるパネルトーク。今回のテーマは「よりよい人間関係をはぐくむには」
モデレータの沢渡あまね(あまねキャリア)と
モデレータ兼パネリストの吉田遥那さん(NOKIOO)。ともに浜松勤務
パネリストの山田晃嗣さん、田村まりさん、齋藤美紀さん。3名とも東京の企業に勤務

沢渡あまね吉田遥那さん(NOKIOO)が司会進行をし、パネリストの山田晃嗣さん田村まりさん齋藤美紀さんがそれぞれ自分ストーリーをお話しし、そこから対話を深めます。僕以外の4名はこんな人たちです↓

成功、挫折、ギャップ、葛藤、どん底、這い上がり……そして今の自分
それぞれのものがたりと、その中でどうやって人間関係を築いてきたか、自分と向き合ってきたか。4名のストーリーが心を揺さぶります。自己開示してくれることに感謝

山田晃嗣さんの3か条
田村まりさんの3か条
齋藤美紀さんの3か条
吉田遥那さんの3か条

ここからはグループワークです。高校生と社会人参加者の混合グループで、いま聞いた話から感じたこと・考えたこと・悩みなどを対話します。

高校生と社会人の越境学習グループワーク開始!

同じテーマの、同じ話を聞いたからこそ、立場が違う初対面の人同士での対話が成り立つ同じ景色を見るって大事です。

川根本町から参加の髙梨太さんが率先してファシリテート
川根本町の副町長 秋元さん、浜名湖ツーリズムビューロー事業部長 伊藤さん、フリーランスのデザイナー判治さんと高校生。カラフルなメンバーでの対話

体育館に座って、輪になってのグループワーク。そこには上下関係も、しがらみもありません。まるで焚火を囲むようにして、皆が同じ目線で対話できるこの雰囲気……なかなか素敵です! 体育館ワーク、アリだな。

皆が同じ目線で、フラットに対話をする景色

こちらは先生チーム。大見さんが加わり、ファシリテート。先生同士の越境も良いものですね。
先生だって言いたいこと、語り合いたいことがあるさ、にんげんだもの

先生チーム with 大見拳也さん

グループワークを終え、発表タイム。手挙げ式で、何グループか話し合ったこと、考えたこと、感想などをプレゼンテーションしてもらいます。

プレゼンテーションした内容に対し、モデレータとパネリストがコメント。同じ景色を創っていく時間です。

高校生と社会人(平野さん(あまねキャリア/Relic))が発表する様子。
協力して同じ景色を創るあたたかなひととき

以下、発表内容とコメント(一部)です。

相手に過度な期待をしない
自分を理解してもらうために働きかけが大事
勝手に自分のキャラクターを決めない
相手を察することは難しいと理解しておく
自分から前提を合わせておく
「人によって違う」を根底にもつ
1人ではできることに限りがある
生活の質(QOL)を大切にする
相手の良いところを褒める
感謝の気持ちを持つ
相手の意見をまず聞く
常に笑顔を心がける
偏見(こう思われているだろう)は捨てて、話してみる
思い込みは捨てる!飛び込んでみる!
失敗を恐れて何もやらないよりはやったほうがいい
失敗を許容する文化を創っていこう
お互いの意見を最大限尊重できるように対話をしていく

#佐久間ダム際ワーキング キャリア教育プログラム2023冬 高校生と社会人のグループワークより

最後に、僕(沢渡あまね)から以下のコメントをして締めくくりました。

・自己開示をしよう。自らの開示が相手の自己開示、そしてフラットに対話できる土壌を生む
・相手の良いところを言語化しよう(日本人は悪いところを指摘する傾向が強いが)
・「ヘルプシーキング」(一人で抱えこまず、助け合う所作)を大切に
・「対話」をする習慣と文化を

北欧(デンマーク、スウェーデンなど)では「リビングラボ」と言って、行政・企業・学生・市民などが立場を超えてフラットな対話をし、課題解決や価値創造をする共創の取り組みが盛んです。
僕は北欧の良いカルチャーを日本の組織や地域に取り入れていきたいと考えていて、この #ダム際ワーキング もリビングラボの入り口っぽいものとして機能したら嬉しいです。
(僕の組織変革、社会変革は、社会人一年目のスウェーデンでの体験と日本のカルチャーに対して感じた違和感が起点なのです)

静岡県立浜松湖北高校佐久間分校の生徒と社会人参加者全員で、ダムのDのポーズ

5.地域の課題解決をテーマにしない方が良い

ここからは振り返りです。
終わった直後、川根本町から参加の髙梨太さんがこんなコメントをくれました。

「地域の課題解決をテーマにしていないのが良いと思った」

今回のテーマは良い人間関係の構築地域(佐久間町や中山間地)の課題解決とは何も関係ないテーマです。

髙梨さんいわく、地域の課題解決をテーマにすると「〇〇がないから不便」「文化が閉鎖的」などネガティブな話にしかならない。なおかつ、地域の高校生は地域をそこまで悪いとは思っていない。むしろ好意的であり、楽しんでいる(後述します)。

地域の課題解決とは何の関係も無い、キャリアやコミュニケーションなどをテーマにしたほうが前向きかつフラットな学び合いの対話ができる。

これは僕たちにとっても大きな学びでした。

以下は僕の所感です。
地域課題の解決をテーマにした越境学習やワークショップは、全国各地で山のように開催されています。もはや語り尽くされたテーマでもあり、目新しさも実効性も薄い(これは髙梨さんも指摘していました)。

なおかつ地域課題解決テーマのイベントやワークショップは、他都市の参加者にとって参加するメリットが薄い。なぜよその土地の課題解決のために、わざわざ会社や個人の時間やお金を使ってまで参加して議論しなければならないのか。

他都市の参加者も自組織や自身の課題解決や学習の利を得られる
結果として、地域の知の創生や地域活性にもつながる。それがWIN-WINかつ持続可能なワーケーションおよび越境学習の形態であり、そのためにも地域課題解決をテーマにしない方が良いと実感しました。

リーダーの大見さん、そしてモデレータとパネリストで記念撮影

6.若手は地域に対して好意的。若手へのエンパワーメントそして対話を

今回の高校生との対話を通じて、高校生は地域を好意的にとらえていることが分かりました。

地域を好きで誇りを持っているし、より良くしていきたい、もっと好きになってもらいたい。そんな気持ちが、各グループのディスカッションと対話から言葉と態度で伝わってきました。

「むしろ社会人(オトナ)たちが地域に対して卑屈になり、勝手にネガティブなイメージを植え付けていっているのではないか」

僕自身もいくつかの地域で、行政・地域住民・他都市の企業の人たちとの社会人だけの対話の場に居合せたことがあります。そこでは、次のようなネガティブな言葉が飛び交います。

「この地域は〇〇だから△△できない」
「だからこの地域はダメなんだ」

漂うのは「どこにも行けない」(by 村上春樹)、えも言われぬ諦めムード

地域の課題解決や地域活性に取り組むにしても、これからは若手をエンパワーする。それはただ単に、若手だけのチームを組むとか、若手だけに意思決定権を委ねるということではありません。若手との共創チームで、なおかつ若手と年長者、ひいては他地域の仲間と越境し、フラットな対話を重ねて課題解決をしていく。いわば、越境型、共創型のチームプレイがカギだと確信しました。

さて私たちは、対話が出来ているでしょうか。越境型、共創型の体験や能力開発がどれだけできているでしょうか。

最後は社会人参加者の振り返りタイム

プログラムの最後は、分校の会議室での振り返りタイム。
社会人参加者が全員集合し、一人ひとり今日の感想と学んだことをコメントします。以下、一部を抜粋して掲載します。

「対話って難しい。でも対話できるよう成長していかなければならない」
「素直な高校生との対話を通じて、固定観念や「こうあるべき」から解放されることができた」
「自分の子とは普段ここまでフラットに対話をすることは出来ていない。今回、高校生とのフラットな対話を通じて自分の子の気持ちが(間接的に)分かった気がする」
「失敗を許容する文化、褒め合う文化を創っていきたい」
「聴くことがいかに大切か、実体験を通じて腹落ち出来た」
「自地域や自組織では、見えない上下関係や力関係が邪魔をして本音を言い合うことはなかなかできない。他地域や他組織の人たちとだからこそ、言えたこと、聞けたこと、分かったことがたくさんある。越境の価値が分かった」

#佐久間ダム際ワーキング キャリア教育プログラム2023冬 社会人参加者の振り返りコメントより

パネリストの1人、齋藤さんはこんなツイートをしてくれました。
「佐久間と浜松が好きになった」って言ってもらえて感激!

吉田さんの行き帰りを含む丁寧なアテンドも後押しし、良い地域体験(UX)をしてもらえたようで嬉しいです。

皆さんのコメントを聴いていて、この越境学習プログラムはなによりのアンラーニング(学習棄却の意。固定観念を捨て去るための学び)であり、フラットな対話と共創のトレーニングの場であると僕は確信しました。

県内の他都市である、川根本町の行政の皆さんにも「視察」ではなく「参加」いただき、他の参加者と同じ目線でフラットに対話いただいたのも良かったと思っています。

今回の越境学習プログラムでは越境学習のみならずアンラーニング、対話の場、行政間連携、地域活性などさまざまな意義を持つことができました。
企画協力、運営協力、及び参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました。これこそ越境と共創の賜物です。

これからもダムのある中山間地で、#ダム際ワーキング を通じて新しい地域の景色、学びの景色を越境で創っていきたいと思います。

皆さんの地域や組織でも、#ダム際ワーキング を是非!

佐久間ダムの天端にて。ダムはさまざまな人々の悩みも夢も受け止めてくれる

7.#ダム際ワーキング に関する記事と書籍

#ダム際ワーキング に関連するニュース記事や書籍をいくつか紹介します。

▼TBSテレビ、静岡放送のニュース記事(動画あり)

▼WORKMILLの特集記事。全国の #ダム際ワーキング に適するダムの紹介も

▼日経クロステック/日経アーキテクチャ 2023年10月特集記事

▼#佐久間ダム際ワーキング 公式サイト

▼書籍『「推される部署」になろう』―序章に #ダム際ワーキング の解説有

▼書籍『新時代を生き抜く越境思考』― #ダム際ワーキング の解説章あり

8.僕たち(あまねキャリア)について

僕たち、あまねキャリアは普段はこんな活動をしています。
#ダム際ワーキング やワーケーション、地方創生、越境学習の講演や対談も喜んで行います。

▼企業間オンライン越境学習プログラム『組織変革Lab』