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はんきゅうでんしゃ!

カン、カン、カン、カン…
「はんきゅうでんしゃ!」

* * *

今から20年くらい前、私の親戚は伊丹に住んでいた。
阪急電車の線路沿いのその家に遊びに行くたびに、家のそばを通る電車を眺めるのが私のお気に入りだった。



その家のそばには踏切があって、電車が通るときはいつも「カン、カン、カン、カン…」踏切の音が鳴る。

そうすると私は、遊びを切り上げてパタパタパタパタ…と走っていき、線路に面した窓の前にくる。
2階の窓から下を覗くと、ちょうど通過する阪急電車の屋根が見える。

踏切の音、電車の音、小豆色にぴかぴか光る車両。
何が好きだったのか今では覚えていない。
だが、幼稚園に入るか入らないかの小さな私は、でんしゃがくるならみなくちゃ!ともはや習慣のように、毎日窓から電車を覗いていた。

***

そんなことを思い出したのは最近。
マイルの有効期限がもうすぐ切れるから!と慌てて取った大阪旅行の行きがけの飛行機が、大阪伊丹空港だったことがきっかけだった。

伊丹といえば、はんきゅうでんしゃ。

その旅程には余裕があったので、伊丹空港からバスで阪急伊丹駅に向かい、懐かしの阪急電車に乗ることにした。

***

はんきゅうでんしゃが通るたびに眺めていた子どもは、鉄道がなんとなく好きな大人へと成長した。

「鉄子」と名乗れるほど立派なものではない。「鉄道がちょっと好き」。いわば「にわか」。
関東の地元から大阪まで、半日かけて東海道本線を乗り通そうと計画していた(が、期限の近いマイルを優先した)程度のにわか。


思春期の鉄道好きっぽいエピソードといえば、中学時代、夏休みのポケモンのスタンプラリーで2回全駅制覇をしたくらい。
むしろただのポケモンヲタクである。

しかし大学生になって、就活が終わった勢いで青春鉄道で北海道を一周したときに、私は鉄道が好きなんだ!と自覚した。
この旅もきっかけはポケモンである。

親戚の家がどこにあるのか覚えていなかったのだが、せっかくなら、と調べてみることにした。
幸いにもランドマークを覚えていたので、Googleマップで見つけることができたが…駅の近くだと思っていたのに違った。
3歳児の記憶はあてにならないようだ。

阪急電車を途中下車して、駅から歩くこと10分ほど。
線路沿いの道は記憶にないはずなのに、どこか地元と雰囲気が似ている気がした。
住宅街だからかな?

そして、記憶(とGoogleマップ先輩)を頼りに、それっぽい住宅の前へ。
その家の前、ちょうど2階の窓から見下ろせそうな位置には、踏切があった。

そうかここか……と思い、写真を撮るなどする。
しかしこれは…阪急電車と家のツーショットがほしいよなぁ…
待つか。

と思った矢先だった。

カン、カン、カン、カン…

(はんきゅうでんしゃ!)

慌てて良さそうな位置に移動し、スマホのカメラを構える。
でんしゃが来るときのワクワクは、およそ20年が経っても変わらないものだ。

やってきた小豆色の車体は、驚くくらい記憶の通り。
身長が倍くらいになった私の目の前をごうっと通り過ぎていった。

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