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とある雪の日の情景

二人は、クラスで席がとなりどおしでした
でも、特に、何があったということはなく
けれど、特に、仲が悪かったわけでもありませんでした

雪がたくさん積もった日の放課後
フセさんが雪玉をつくって、タカナシくんに投げました
そのことに怒ったわけではありませんでしたが
タカナシくんも雪玉をつくって、フセさんに投げました
フセさんは、タカナシくんが雪玉を投げてくると思っていたので
軽くよけることができました

フセさんは、タカナシくんがさらに雪玉を投げてくると思い
雪が積もっている校庭へ逃げていきました
タカナシくんは、フセさんを追いかけて行きました
フセさんとタカナシくんは、積もった雪の上で
追いかけたり、追いかけられたりしました
ワイワイ、キャーキャー、言いながら、楽しそうでした
二人とも、息が上がるくらい走りまわっていました

そういったことがあって、それまで、特に、何もなかった二人に
ほんとにちょっぴりですが、変わったことがありました
タカナシくんは、フセさんのことを
ちょっといいな
と、思うようになりました
フセさんは、タカナシくんのことを、前とおんなじに
付き合ってみてもいいかな
と、変わらずに思っていました
だから、ほんのちょっぴり変わったというのは
タカナシくんの方だけでした
それでも、やっぱり、特に、何があったということは、ありませんでした

タカナシくんにとって、そのことは
ささやかながらも、中学時代の数少ない、いい思い出になりました
フセさんにとって、そのことは
そんなこともあったんだったなあ
と、雪が降ると必ず思い出す、とっておきのいいできごとになりました

二人は、もう、お互いの顔をよく思い出せなくなってしまっているのですが
それでも、そのことは、いい思い出として
それぞれの心の中に、いまも残っています

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