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日和見の病床読書「くもをさがす」西加奈子・著

─2023年7月、甲状腺がんで手術入院の中に読んだ書籍の感想やら自分の話を連ねた徒然な話。特にためにはならない文章ですが、入院中におすすめできる本です。

西加奈子さんは移住先のカナダで乳がんに罹患。病の発覚、その治療プロセスや、友人からのサポート、日本とカナダの医療やカルチャーの違い、ご家族のこと、愛猫のことを綴ったエッセイ集。

書店でまず最初に目に留まる、本の帯に書かれたひとこと。
「カナダでがんになった。あなたに、これを読んでほしいと思った」
これ、まさに私に言ってるやん…(西さんに感化されて関西弁)と手に取らずにはいられなかった。入院中に読もうと真っ先に決めた1冊だった。

ただ購入時、少しの不安も頭にはあった。
西さんの人生は、どう見てもキラキラしている。
海外(イラン)に生まれた帰国子女の過去があって、温かいご家族がいて、ご家族の理解もあってカナダでこの数年移住生活をしていて、家族の関係もしっかり続いていて、可愛いお子さん(Sくん)もいて、誰もが評価する有名作家さんで社会的にも地位があって、周りに多くの友人・サポートも得られる人の本。
これを読んで、なんでもない40代シングルの自分が辛くならないか?SNSを見ている時のように、ないない尽くしな自分を追い込むことになったら立ち上がれるだろうか?
しかし結論から言うと、そんな想いは微塵も感じない1冊だった。

がんと1人、異国の地で向き合い、自分自身と折り合いをつけながら、納得できる解にたどり着くプロセスを、惜しまずに分け与えてくれた。
私は、乳がんサバイバーではないけれど、「がん」と告げられて一人背負う時のじわじわ増していく重み、転移の不安、術後に残る傷との向き合い方。一つも他人事ではなかった。そしてその過程で、えぐられる心の痛みも、周囲からの自然なサポートも共感の連続だった。

私自身、40代後半で若い時のように友達も豊富にはいない、そしてなんだかんだでパートナーも不在。だが、この本を手に取った後から入院までの間、周囲に病気を告げると、「温かい」としか言いようのない優しい手や言葉を差し伸べる人が多くいることに気づいた。実際、私だって最終的には救われていた。
ある20代の女子は猫好きな私のために猫の短歌集をプレゼントしてくれた、今大事な国家試験に向けて猛勉強中なのに。
ある70代の女性は入院前に新宿高島屋にお惣菜を買い出しに行き、数名を招いた食事会を主催してくれた、まだこの数ヶ月の付き合いなのに。
ある50代の女性は自分も40代に大腸がんを患い、その時に「なぜ私だけがんになるんだ」と自分を責めて追い込んでしまった話を我が家に訪れて話してくれた、この落ち込みはあるあるなんだと教えてくれた。
一緒に仕事をする40代の男性は、入院当日に「あなたは世の中でいなくてはならない人なんで神様も応援してるよ!」なんて歯痒いメッセージで送り出してくれた、そんなこと言う人だと思わなかった。

すみません、気がついたら西さんの本の感想になっていませんが笑、西さんが特別な人だと実感した訳ではなく、病気によって気付かされる人生や、小さな日常の機微を、病気をすると人は同様に体験するもので、それを西さんが深く、そして事実として丁寧に綴ってくれたことが、とても嬉しかった。

自分の体と心の変化、自分を取り巻く環境の中で感じ取りたい良質なものはなにか、西さんが感じた一つひとつに「共感」しながら噛み締めて読んだ1冊でした。
どんな病にかかった人でも、今にも倒れそうな心に添え木となってくれる本です。


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