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人生で一番愛した男性の名前

これまでの人生で一番愛した男性がいた。

この先もっと他の誰かを愛すると思うが、それでも彼だけは、これからも胸の中の宝箱にそっとしまっておこうと決めている存在だ。
私にたくさんの愛情を与えてくれて、そしてまた私も彼にたくさんの愛情を与えた。今こうやって私が自分のことを好きでいられるのは、彼が与えてくれたたくさんの愛情のお陰である。

彼の名前は、◯◯くん。
(※明言は避けますが、一般的な男性の記入例で用いられる、例えば浦島や桃や金の続きにくる名前です)

会って2回目のデートで食事に行った。当時の私は何もかもがどん底で、自分のことが大嫌いで、笑うことをすっかり忘れてしまっていた。しかし彼との会話はすべてが楽しく自然と笑みがこぼれた。久しぶりに頬の筋肉に疲れを感じ、その時初めて自分がしばらく笑えていなかったことに気づくほどだった。
彼は本当に無垢な表情で笑っていた。それは笑い慣れている人の笑顔。そんな彼を見て「彼は幸せになる人だ。幸せにしてあげたい」と思ってしまった。おそらく、これが私が落ちた瞬間。
そしてお酒もほどよく回った頃、彼がぽつりとこう言った。

「僕の両親、不倫なんだよね」

人はふと相手に心を許す瞬間、自分の弱い部分や他人に言えない秘密を打ち明けることがある。
それは相手のことを少しだけ信じても大丈夫だと思ってくれた証拠。

「どういうこと?」

優しく、丁寧に、かつ自然な声音で、続きの言葉を促した。

すると彼は、父親には前妻ともう一人子どもがいること、妻子がいる状態で同僚であった女性(後の母親)と出会い不倫関係になったこと、そして前妻とは離婚し、不倫相手と再婚したことを教えてくれた。
彼自身はその事実を高校生の頃に初めて知らされたそうだ。

内容とは不釣り合いなくらい、明るく語ってくれた彼。
彼のご両親の話を聞いて正直驚いた。けれど、私には彼の人間性がより奥行き深いものに見えた。こんな話を会って2回目の私に打ち合けてくれるなんて、この人なら心を許せるかもしれないと、そう思った。

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あの夜の後、私たちは順調にデートを重ね、数か月後に正式にお付き合いすることになった。そしてある時、ふと気になって彼に尋ねたことがあった。

「◯◯くんって、名前の由来とかある?」

すると彼は言った。

「両親がつけたんだ、みんなから愛されるようにって」

この言葉を聞いた時、はっとした。
彼のご両親は社内不倫だったから、同僚や親族、すべての人に祝福される状況ではなかったのだろうと、そして生まれてきた子どもは親しまれる存在、愛される存在でいてほしかったんだろうなと...あくまでも勝手な想像だけれど、そう言っているように聞こえた。

「政治家みたいな名前だよね」と二人で冗談を言って笑っていたけれど、事実、覚えやすくて呼びやすい名前で、呼んでいると愛着が湧いてきて、私は好きだった。

そう、好きだった。けれど別れた。

好きだけではハッピーエンドにならない、そんな恋愛をするようになったら大人になった証拠なのかな。

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ワイドショーや週刊誌で不倫ネタが扱われる度に、ふと考えることがある。確かに不倫はいけないことだ。相手を傷つけ、道理に反する行為。とはいえ、真実は本人同士にしかわからない。知らない赤の他人が首を突っ込むべきではないのではないかと。

何も知らない他人が勝手に騒ぎ立てることで、当事者の子どもはもちろん、世の中にいる彼のような立場の人たちが傷つくことだってある。彼の両親が、彼が物事の分別がつく年齢まで、自分たちの不倫の事実を隠していたのもそのことがあったからかもしれない。

親がどんな人間であろうとも、子どもの人格には関係のないこと。だからどんな子どもも生まれてくる時は祝福されるべき存在であってほしい。そして私たちが出会う人それぞれ、さまざまな背景や事情を抱えているということを改めて認識しなければならないと思う。


「名は体を表す」と言うけれど、名前の通り、彼は本当に愛されて育った。近くで見ていてそのことは如実に感じられた。
だからきっと、彼のこれからの人生も明るいはず。
遠く離れた場所で生活している彼が、今も幸せでいてくれればいいなと、そんな願いを込めてこの話を締めくくろうと思う。


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