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#小説

『誰も持っていないキーホルダーの作り方』

 まず油揚げを買ってきます。がんもどきでもいいです
 机の上に置きます。椅子の上でも構いません。
 後は認識するだけです。

「これはキーホルダーなんだ」と

 
 自由の女神?エッフェル塔?ちっぽけな作り物なんて要りません。実物そのものをキーホルダーにしましょう。なんならヨーロッパやアメリカ大陸をキーホルダーにする事だって可能です。
 この制作方法の素晴らしいところは、質量を持たない物もキーホル

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散文詩『合金とアルミ』

散文詩『合金とアルミ』

 透明な箱に緑の文字が張り付けられているそのすぐ横で、僕は千円札を店員に渡しコンビニの喧騒に耳を傾けていたのだが、ふと、透明な箱の中で小山を築いている惨めなジャックポットに視線を取られ、そこに一枚の異質な硬貨を認め息を飲み、鼠のような笑みを口端に浮かべ「誰だこんなところにスロットのメダルをいれたのは?」と辺りを見渡しこそはしなかったが、X氏の後姿を脳裏に描いて、このメダルが――その見たような見ない

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散文詩『wash me away』

散文詩『wash me away』

 河原に腰掛け、集めた小石、端の方から一つ取っては、スナップ効かせて川面に投げる。
 失った友。
 去った恋人。
 亡くした親のことなどを想い。
 秘蔵の平べったい石コレクションを、夕陽で味付けされた赤スープに向かって、ひたむきに投げ続けていると僕は――

 石一つ投げるたびに僕は――自分の体積が少し失われていくかのような感覚になって――つまり僕は、石一個投げると、石一個分の僕が、川面を跳ねて跳ね

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落語詩『萼』

落語詩『萼』

えー毎度馬鹿馬鹿しいお笑いを一席
紫陽花に一粒の露がありましてぇ
そいつが朝日を浴びてきらきらと輝いております
光沢のある透明とでもいいましょうか
空の色まねをしている紫陽花の萼をお座布に
落語家のように座っておりますとそこへ
一寸ばかりはあろうかという蝗がやってまいりました
だいぶ歳古い蝗のようで
気門からしゅーしゅーと息を漏らしながら
命からがらといった様子でよじ登ってきて
露のおります萼の上

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散文詩『コンクリートの地平線』

 枕に涙腺を埋葬した。もう泣くことなんてないだろうから、涙腺は死んでいい。笑顔が浮かぶ――

 小さい頃砂場で遊んだ友達皆の笑顔。水色やピンクのスコップで、穴を掘り、山を盛り、あれはまるで……一人一人が自分の墓を作っているようだった。緑に塗装されたコンクリの壁が砂場を囲っている。塗装はでこぼこしていて、所々剥げていて、でも僕らにはそれが地平線だった。実際にそこに陽が沈んでいくのを何回も見たからね。

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散文詩『Coffee diver』

散文詩『Coffee diver』

飲みかけのまま冷めている
踊らない会議
人生が50分失われた実感
マスクに滞留する溜め息
走塁拒否のボールペン
全身の細胞が複数個壊死
葬列するゴルジ体

飲みかけのまま冷めている
置き去りの缶
スペースコロニーの模型
缶の中透かし見れば
三分の一が黒く
三分の二が黒い
その境目に国境はなく
シームレスな闇
夜と宇宙くらい馴染んでいる

『えー、ですから来期こそは』

喉を焼き尽くすほど
熱い闇

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