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農家さんの炊き出しには、僕が表現したいことの全てが詰まっている

#元気をもらったあの食事
#大切にしている教え

料理人として生きている中で、最も興奮する瞬間の1つが、最高に素敵な生産者さん(作り手)との出会いです。
現時点の僕にとって、
料理人とは、つくる側のヒトとたべる側のヒトを行き来する、いわば橋渡し役のような存在だと感じています。

例えば何気なく手に取った野菜でも、肉でも、魚でも、当たり前だけど生産者さんがいて、そこには僕らの知らない魅力だったり、込められた想いや、想像を超える苦労など、それぞれの食材にバックグラウンドがあります。
もちろん盛り付けるお皿や包丁、お客様が使うテーブルやカトラリー、流れるBGMなど、お店を構成する全てがそう。

僕たち料理人は、日々手にする食材にちゃんと向き合うことでそのバックグラウンドを知ることができ、そして、その喜びや感動をお店に来たお客さんに“伝える”ことが出来るという特権を持ち合わせています。

僕は、この特権を最大限に楽しむべく、素材を大切にしているレストランを基準に働く場所を選ぶことで、幸いにも生産者さんのもとを訪れる機会に恵まれました。

長野県・安曇野市 農家さんのカーボロネロ畑

好奇心で埋め尽くされ、何から何まで質問をし続ける僕に対して温かく受け入れてくれる生産者さんばかりで、数えきれない程の気づきと学びをいただき、感謝してもしきれません。

中でも特に印象に残っている出会いが、岡山県のオリーブ農家さんです。
庭師の方と、車関係の会社を経営されているお2人による共同経営で、兼業でオリーブの栽培、そしてオリーブオイルの搾油と販売まで行われています。

兼業と言っても、その質へのこだわりは尋常ではなく、岡山の特性を最大限活かし、すべてを手摘みで収穫、そして少数のレストランとの完全契約販売を行うことでその年のオリーブオイルを売り切る仕組みを構築し、常に最高品質を保ち続けています。(油はさまざまな要因から酸化するため、日が経つにつれて劣化し続ける)

僕はそこで、オリーブの収穫を手伝わせていただく機会をいただきました。
人生で初めて足を踏み入れるオリーブ畑と、その収穫。
早朝4時、真っ暗闇の中、ライトを照らしながらオリーブを1つ1つ採り始めました。
生い茂る葉っぱとほとんど同じ色をしているオリーブの実は見つけるのも大変で、とても集中力のいる作業、、、
ただ、農家さんとお話しながら収穫をするその時間はとても幸せで、オリーブとお話に夢中になっていると、気付けば辺りはすっかり明るくなっていました。
それからお昼頃まで収穫をして、広い畑にたくさん植えられたオリーブの木は、そのほとんどが葉っぱだけを残していました。

オリーブの木の下で。

このくらいで終わりにしようか、と農家さんの合図で、荷物を置かせていただいていた小屋に向かいました。
すると、収穫前の暗闇では何も置かれていなかったテーブルに、手作りのおにぎりや豚汁、クラムチャウダーなど、岡山の食材をふんだんに使用したたくさんの炊き出しが、、、。

「よく頑張りました。ありがとう。好きなだけ取って、たくさん食べてね」

こちらこそありがとうございました!!!という気持ちで一杯でしたが、お言葉に甘えさせていただき、農家さんと僕ら料理人が輪になってテントを囲み、初摘みのオリーブオイルをたっぷりかけた豚汁やおにぎりを夢中でかきこみました。

搾りたて、無濾過の
エクストラバージンオリーブオイル

僕らはレストランで、お客様に届けたいビジョンを描いて、食材選びから仕込み、仕上げから盛り付け、そしてお客様の口に運ばれるその瞬間まで本当にたくさんの要素に集中して、お客様にとって最高の空間を創り上げるために全力を尽くします。
だからこそ、厨房に張り詰める緊張感は凄まじく、
どんなに小さいミスでも、自分のせいでお客様の大切な空間を台無しにしてしまうかもしれないという恐怖感から、最初に描いていたはずのビジョンから意識が遠のいてしまうことがあります。

つまり、”お客様にどうなってもらいたいか”、“何を届けたいか”という想像よりも、目の前のことで精一杯になってしまう瞬間があるということです。

ただ、農家さんと炊き出しを囲む空間がもたらしてくれた、心にじんわりと響くあの感触。
まだうまく言葉にできないけれど、オリーブに込められたバックグラウンドを体感しながら口にするオリーブオイルは、舌の上だけではなくて、心にまで沁みわたってきました。

あぁ、そうだった!
この感覚を伝えたくて、料理に向き合っているんだ。

いつまでも未熟な僕にとって、料理人として、人として向き合うべき課題がたくさん生まれ続けると思います。その中で、何かを乗り越えようと夢中になっているとき、どうしても忘れてしまいがちな、自分の原点
そして、料理人として目指している生き方であったり、描きたいもの。

僕はあのときの“炊き出し”を思い出すことで、本当に大事なものを忘れずに生きていきたい。

(僕の料理人としての生き方についてはこちら)

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