社会は言葉でできている

昨年の9月、アメリカの英語辞典『Merriam-Webster Dictionary』が「they」の単数使用を認めました。この用法として、

—used to refer to a single person whose gender identity is nonbinary
—used to refer to a single person whose gender is intentionally not revealed
(Merriam-Webster "they"より引用)

・性自認がノンバイナリー(男性にも女性にも分類されない)である単数人
・意図的に性別を明記しない単数人

であるということが述べられています。元からtheyには単数の用法が存在しましたが、近年これが急増したことに伴い、性別多様化の時代への対応としてこう明言されたのです。もしもこれまで、自分の性自認に疑問も持っている方がhe/sheどちらかの主語を使用しなければいけない度にモヤモヤした気持ちを抱えていたとしたら、この変化はとても素晴らしいことだと思います。

言語とジェンダーに関する研究はフェミニズム運動とも深く関わっており、性の問題意識を受けて変化した言葉は日英語共にたくさんあります。
・看護婦→看護師
・スチュワーデス→キャビンアテンダント
・policeman→police officer
・fireman→firefighter
・chairman→chairperson

こうやって変わってきた言葉もある一方、まだまだ性差別的言語(sexist language)と呼ばれるものは存在します。「女流作家」や「女医」「女王」と言った言葉は男性が前提であると示していることから差別的だとされています。しかし私たちは、小さい頃からこれらの単語をあまりに自然に聞きすぎたため、違和感を覚えないでしょう。もちろんこれは、こういった職業に就くのは男性が当たり前だった時代が事実として存在するので、仕方のないことかもしれません。ですが、まずは私たちが日常で頻繁に聞くこれらの単語を脱性差化(degendering)することで、根本の意識が変わっていくのではないでしょうか。

レイプで子宮摘出になっても「いたずら」だと思いますか

社会は言葉でできているということをお伝えしましたが、これと同じでいじめをなくすには「いじめ」という言葉をなくすことが必要だと思っています。恐喝、脅迫、暴行、窃盗です。また、報道機関では強姦が起こった際に相手が女児だと「いたずら」という言葉を使うことがあったと聞き、驚愕しました。「被害者の立場に立った時、強姦や強制わいせつと書くのは字面的にキツイからソフトな表現にする」らしいのですが、レイプはいたずらではありません。罪の意識が薄れてしまう原因だと思います。

言葉から社会は変わっていく

私たちは、1日に大量の言葉を使い、多くの情報に触れて生きています。その一つ一つの言葉が変わることは、一人一人の意識を変え、社会の変化にも繋がってくると思います。いじめという言葉がなくなるだけでいじめ自体がなくなるわけないじゃん、と思うかもしれませんが(もちろんそれだけでなくなるとは考えませんが)想像以上に言葉というのは社会の構造に密接に関わっているのです。人間は「自分の知っている単語」でしか会話をすることは出来ません。社会の変化に伴って消えていった言葉、新しく生まれた言葉はたくさんありますよね。それは逆方向も可能だと思うのです。みんなで言葉をアップデートし、より良い社会を作る手助けになればと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?