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早期のステロイド塗布治療は食物アレルギーの予防に繋がるのか?

いつき博士です。
アレルギー患者教育向けサイト
を運営しています。

食物アレルギーの予防については
いまだに確立された方法はありませんが
実はアトピー性皮膚炎との関連に注目した
研究は盛んに行われています。

今回はアトピーを発症した乳児への
早期のステロイド塗布治療
食物アレルギーの予防効果を示すか?
という研究を一緒に見ていきましょう!



0.そもそもアトピー性皮膚炎は予防できるのか?

2014年に日本の研究グループから
出生後早期からの保湿剤の使用有無で
アトピー/湿疹発症率が変わるのか?

について報告がありました。

以前の記事で詳細を紹介しています!

PMID: 25282564

この研究報告では
保湿剤を塗った群の方が
アトピー/湿疹発症率が低かった
という結果が得られています。

あくまで予防という観点ですが
保湿の重要性が改めて実証された
試験であったと思います。


1.一方で、食物アレルギー予防の場合は?

2016年に海外の研究グループから
早期のステロイド塗布治療が
アトピーの予防に有用か?

について報告がありました。

PMID: 27273433

この研究報告では
保湿剤とステロイドの間で
食物アレルギー予防効果に差はなかった
という結果が得られています。

この結果から
保湿剤や弱いステロイド剤を
炎症を起こしている患部のみに塗布しても
食物アレルギー予防には不十分
という可能性が考えられました。

そこで治療ステップを上げることで
予防まで実現できるのでは?

という仮説が立てられます。

では、検証していきましょう。


2.試験概要

今回は日本の研究グループが
乳児アトピー性皮膚炎発症に対して
患部+非患部へのステロイド早期治療は
食物アレルギーを予防できるか?

について試験を実施しました。

前向きRandom Control Trialであり
症例数650例と大規模で行われた
比較的信頼性の高い試験と考えられます。

2-1.試験デザイン

◆対象◆
 乳児(生後7-13週)
 かゆみを伴う湿疹あり(一定基準を満たす)
◆介入◆
 従来治療群:保湿剤+患部のみ抗炎症剤塗布
 治療強化群:保湿剤+全身抗炎症剤塗布    
◆評価◆
 有効性→食物アレルギーの発症有無など
 安全性→体重、身長など

●保湿剤→ヘパリンクリーム
●抗炎症剤→ステロイド
 低力価(medium)
   :アルクロメタゾンジプロピオン酸エステル0.1%
 中力価(strong)
 :ベタメタゾン吉草酸エステル軟膏0.12%
  >顔全体      →低力価ステロイド
  >頭皮と顔以外の全身→中力価ステロイド

患者背景を以下に示します。

従来治療群と治療強化群の間で
ベースラインはほとんど同じです。

2-2.結果(有効性)

続いて有効性の評価です。
主要評価項目である
即時型鶏卵アレルギーの有無
強化群で有意に低い結果となりました。

また鶏卵白身IgE陽性の乳児の割合も
強化群の方が従来群よりも低い結果です。

2-3.結果(安全性)

次は安全性の評価です。
医師により発育不全と診断された乳児は
医療スタッフによる適切な哺乳により
全員が改善しています。

生後28週時の体重は
従来群より強化群の方が
全体的にわずかに低かったようです。


3.いつき博士の考察

食物アレルギーを持つ赤ちゃんの
4人に3人は「アトピー性皮膚炎を合併」
していると言われています。

あくまで2つは別々の病気ですが
場合によっては、ある特定の食べ物で
アトピー性皮膚炎が悪化することもあります。

2014年に発表された
保湿剤という比較的使いやすいアイテムで
アトピー性皮膚炎を予防できるという報告は
アレルギー患者さんにとって朗報でした。

一方、食物アレルギーは課題がありましたが
ステロイドによる治療強化という選択肢が
新たな道を開いてくれそうです。

ただし、ステロイドという薬は
強さも様々で使い方にも注意が必要です。
世間的に危険な薬という印象もあります。

上手に使うことができれば
副作用を回避しながら
アレルギーで苦しむ方を助けてくれる
非常に貴重で大切なお薬です。

正しい情報を持って適切に使用できるよう
困ったことがあれば薬剤師に相談してください!
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ステロイドのリスクベネフィットについては
以前の記事で詳しく解説しています。
こちらも参考にしていただければ!

<参考文献>
アレルギーポータル
・Horimukai K, et al. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014 Oct;134(4):824-830
・Schneider L, et al. Study of the Atopic March: Development of Atopic Comorbidities. Pediatr Dermatol. 2016 Jul;33(4):388-98