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神田沙也加さんへのラブレター ~なぜ僕は自殺を選ばないのか~

 神田沙也加さん、初めまして。
 僕はあなたと同い年の黒羽翔と云います。

 あなたの亡くなった原因は何だったのか、事故だったのか、事件だったのか、自殺だったのか、私には分かりません。
 メディアはあなたが亡くなった後も、あなたのことを好き勝手に報道しています。真実は分からないし、赤の他人に過ぎない僕があなたの真実を知る必要も無いと思っています。あなた自身が真実です。
 そして真実はあなたと共に逝ってしまいました。

 三浦春馬さんや竹内結子さんなど、芸能界で多大に活躍されていると思われていた方々が自ら命を絶つことが最近は増えてきたような気がします。
 ただ、三浦春馬さんも竹内結子さんも、僕とは世代が違うこともあって、僕自身はあまり深い思い入れは持っていませんでした。
 ファンの方々の悲しみはとても大きなものに違いありません。
 私も仕事で訪問したお客様の自宅にお邪魔すると、有名な芸能人の写真を部屋に飾られていた方々を何度も目にしてきました。この中には、三浦春馬さんを始めとした既に亡くなっている芸能人や解散したバンドやアイドルのポスターもあった例は枚挙に暇がありません。
 たとえ自分はその芸能人に興味無くても、その他の多くの人々にとって、その芸能人や有名人は、生きる喜びや希望を与えてくれる存在であることが多いことは、僕もよく知っています。

 思えば僕も昔は、引退した堀北真希さんやアナウンサーの中田有紀さんの大ファンだったことがあって、彼女達の写真集やカレンダーを買って部屋に飾っていた時期がありました。
 しかし彼女達が他の男性と結婚していくと、僕は手の平を返して写真集をブックオフに売り捌いたり、彼女達のインタビューが載った雑誌を紙ゴミの日に捨てたりして鬱憤を晴らすと、彼女達よりも若くて可愛い女性芸能人に興味を移して、使い捨てのように消費していくだけです。
 僕のような男性は結構多いと思います。
 例えばモーニング娘。が流行った後、彼女達が年取ったらAKB48に移って、それにも飽きたら坂道シリーズの女の子を消費する。
「そんな生き方が一番幸せなんじゃないか」と、ソフト・オン・デマンドの高橋がなり社長が自身のYoutubeで仰っていたのを見たことがありますが、これは残念ながら、言い得て妙です。
 芸能人をある種使い捨ての消耗品程度にしか考えていない、あまり善良と言えないファンも一方では多いのではないでしょうか。
 尊敬する宮台真司先生の話でいう「感情の劣化」です。

 僕は映画やテレビドラマが好きで、シナリオ公募によく応募しています。
 沙也加さんと同い年の僕は今年で35歳です。
 例えば「フジテレビヤングシナリオ大賞」は年齢制限があるので、今回で最後です。
 35歳まで芸能界の最前線で頑張った沙也加さんに対し、同い年の自分はまだ土俵にも上がれていないというのは情けない思いもあります。

 一方で、自分も映画界やドラマ界を目指している身で言うのも変ですが、僕は芸能界そのものをあまり良く思っていません。
 先ほども既に触れたように、芸能人達は若い時だけチヤホヤされて、年を取ったらポイ捨てされるように見放されていく面があります。
 そういう現実があるのが芸能界という認識を僕は持っています。

 僕が神田沙也加さんを初めて知ったのは、フジテレビの朝8時からやっていた『情報プレゼンター とくダネ!』と云う番組で、沙也加さんがデビューすることを紹介していたコーナーでした。当時は未だSAYAKA名義だったでしょうか。番組に出ていた芸能リポーターが「SAYAKAさんは人気になる要素を全て持っている」と評していたことが今でも強く印象に残っています。今からもう20年前のことです。
 神田沙也加さんと同い年の僕は当時中学三年生ぐらいで、14歳か15歳だったと思います。
 ですが、番組を視聴していて、芸能リポーターの意見を全面的に支持して楽観的にSAYAKAさんを好きになれるとは思えませんでした。

 僕は凄く冷めた目でSAYAKAさんのニュースを見ていました。

 何故、あなたを冷めた目で見たのかは、当時の僕自身も理由はよく分かっていませんでした。
 ただ、冷めて見ていたのです。
 当時の僕では、その理由を言語化して説明出来なかったでしょう。
 でも今ならその理由が説明出来ます。

 それはメディアが「SAYAKAは人気である」「SAYAKAは人気になる」に誘導していたことに、未成年の僕でも気付いていたからです。

 僕は学生の頃、テレビの天気予報を全く信用していませんでした。現在の天気予報より精度が低かったせいもありますが、特に嫌いだったのは台風の予想です。昔の台風の進路は必ず関東地方にぶつかるように天気図を書いていました。その理由は警戒して欲しいという善意が報道する側にあったからでしょう。
 しかし「メディア」と云うのは「視聴者に不安を煽るもの」という認識が学生の頃に既に出来上がっていたことは間違いのない事実で、テレビ離れやメディアに不信感を持つことこそ常識である現在の価値観が、SAYAKAさんのデビューする頃には、既にその萌芽が芽吹いていたのです。

 つまり、あなた自身の評価ではなく、あなたを取り扱う既存メディアへの不信が、図らずもあなたを苦しめることになったのでしょう。

 事実、あなたはいくら頑張ってもなかなか評価されず、同い年の北川景子さんや石原さとみさん、沢尻エリカさん、上野樹里さん、杏さんなどと比べると、人気になるまでに凄く苦労したように見受けられました。
 それは間違いなく、有名な神田正輝さんや松田聖子さんの娘である事実、俗に云う「親の七光り」が、大きなハンデとしてあなたの足枷になっていたからです。
 だからこそ「アナと雪の女王」が大ヒットした時、「親の七光り」と非難する者は誰も居なかった。あなたが努力してきた、苦労してきたことを皆は忘れていなかったのです。

 僕は「ライトニングヴァンパイア」という小説を書いています。
 脚本家志望でもある僕は「ライトニングヴァンパイア」がもしもドラマや映画になったら……とよく妄想します。
 すると「このキャラクターは神田沙也加さんに演じて頂こう」「神田正輝さんにも出演してもらって、親子で共演させよう」そんな妄想をしながら、楽しく執筆してきました。
 何故なら、神田沙也加さんが僕と同い年なら、神田正輝さんは僕の父親と同い年だったからです。
 たとえ一度も会ったことがなくても、同じ時代、同じ時間を生きてきた。そんな思いがあるからこそ、僕達は芸能人に夢を託せるのでしょう。

『素晴らしき哉、人生!』と云うクリスマス映画があります。
 人生に絶望した男が、「自分が居なかった世界」を天使に見せてもらうというお話です。

 あなたが亡くなった後、改めて「人が生きている」ということがどれだけ素晴らしいことなのか痛感しました。
 あなたが生きているからこそ、「このキャラクターを演じて欲しい」とか「親子共演させたい」なんて妄想が出来ました。
 ですが、あなたはもうこの世にいないので、このような妄想をすることも難しくなってしまいました。

「一人の人間が生きている。それがどれだけ偉大なことなのか」

 神田沙也加さん、あなたは僕達に死を以ってこれを教えてくれました。

 だから僕は生きていこうと思います。

「一人の人間が生きている。それがどれだけ偉大なことなのか」

 黒羽翔、僕はあなたに生を以ってこれを示したいからです。

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