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6月 その1

6月1日

今日はアンネに習って自分の最近の気持ちを分析しようと思う。

最近よく、お母さんいなくて寂しいでしょと聞かれる。私は笑って、話題を変えるようにしてきた。なぜなら、あまり考えないからだ。お母さんが好きじゃないからとかではないと思う。もちろん好きだけど、ただ思い出さないんだよね。寂しさはきっとあるけどそれに焦点を当てることがない。時間がないからなのかも。それに、お母さんが家にいるときは私に怒っているか、自分の眼の痛みを訴えてるかどっちかって感じだし。ところで、毎日掃除やベッドを整えることをしなくても生活は普通にできるんだって気づいたよ。

ここの数日で考えたんだけど、私の人生がつまらなくて、日記もつまらない物になってきているのが嫌。でも、面白い人生ってどんなものなの?答えにつまった。本当にさ。私はどんな楽しい人生を望んでいるの?アンネの人生が面白かったと言っても、実際には特に何か毎日おきていたというわけじゃなかったよね。ピーターとのロマンス以外は。だからといって好きな人を作りたいと思わないし。アンネ本人からしても、自分の人生を楽しいとはきっと思っていなかっただろう。人ってみんな何かを望んでいるのに違いない。。。じゃあ、私の理想の人生を想像してみるね。

住みたいところは。。。わからない。アメリカかな?日本はとにかく嫌。でも怖い所は嫌だ。アメリカは怖い。とりあえず大きな家に住みたい。家族みんなに自分の部屋があるくらいの。私の部屋は、テレビみたいにすごくかわいいのがいい。壁に絵やポスターが貼ってあるの。ベッドにはカーテンをつけたい。かわいい犬も飼いたい。ペーターは今のままのやんちゃでいいけどせめてちゃんと手は洗ってほしい。相変わらず悪さをしたり私のものを盗んでいてもかまわない。それは変だって?そうしないと、日記に鍵をかける必要がなくなるでしょ。自分の部屋のドアにも鍵をかけられるようにしたい。親の性格はそのままでいいけどお母さんはもう少し明るく、正義感を持ってほしい。

一回もライブに行ったことないのも残念に思っている。この間テレビでバックストリートボイズのライブが写っていたとき、すごく幼い子も来ていた。あと、小さいことだけど、家に雑誌を置きたい。ちょうど今朝、絵を描こうと思って、その題材にできる絵を探したんだけど家にいいものが何もなかったの。綺麗な女優なんかが写っている写真がほしかったんだけどね。

こういうものがある生活ができたらいいな。でも、結局、どのような人生を送っていても慣れると何か新しいものが欲しくなるだろうね。また自分の日記がつまらないと思えたときにこれを思い出さないと。人はみんなそれぞれの人生があるから面白くなるの。だよね?それにしても何か変わったこともしたいな。。。

話変わるけど、ユキはもう普通にブラをつけている。自分で気持ち悪くないのかな?今度聞いてみたい。裏切られた気分が少しある。彼女は私をおいてひとり大人になっていくみたいで。彼女に対して申し訳ないけど避けたい気持ちもあった。

夜、お父さんは銭湯に行っていた。私はなぜか寂しくなって、気を紛らわせようと、綺麗なワンピースを着て音楽をかけて部屋中をぴょんぴょん跳ねた。側から見て馬鹿っぽいかもしれないけど気分は確実に上がった。

6月3日

放課後、お父さんが大きいショッピングセンターに連れて行ってくれた。迷いそうになったけどやっとたどり着いた。行ったことなかったけどユキとカレンに勧められていた所だ。すごく気にいった。いっぱい買ってもらえた。新しい靴と、青いスカートと、オレンジのキュロットとシャツも。新しい日記帳も選んだ。日本にはなかなかいい日記帳ってないんだよね。オーストラリアにはあったけど。

夕方、家に戻るとユキがお泊まりに誘ってくれた。お父さんはお母さんとは違って、もちろんOKしてくれた。すごく楽しかった。最初は、ユキが手にいれたメアリケートとアシュリーのパリへのパスポートという映画を観た。気に入った。観ながら、双子のどっちがどっちかを当てようとした。そのあと、ユキの部屋に行き、私が持ってきた暗闇で光る星を天井に貼り付けようとした。高いので、ベッドから床に飛び降りながら貼った。いっぱい笑った。電気を消して、暗い中作り話か歌い声か何かをテープレコーダに録音した。

<今考えて、中学生でこんなことで一生の思い出を作るのがなんとも自分たちが無邪気でかわいかったと思う。スマートホンやインターネットが普及してなかった時代、子供は今より子供でいれたに違いない。想像力は確実にその方が育まれたのだろう。大人でも処理に悩む情報量に今の子供は押しつぶされているのではないかと時折不安に駆られる>

最終的に、いつものようにベッドと布団に寝ながらおしゃべりをした。やっと、ユキがブラをつけることをどうとらえているかを問い詰めた。ユキは、多くの他の子もつけているから恥ずかしいと思わないと言っていた。背の高い子は特に。あえて言えば、逆に自分だけ浮かないようにつけることにしたと。それから、自分が背が高いことがどんなに嫌かを愚痴こぼした。私は、私たちがこういうことでも話し合える親密な仲であることを嬉しく思えた。やっぱり完全に理解はできなかったけど。学校の子はさておいて、親に知られることはどうでもいいわけ?シャツの下から透けるから分かるでしょ。それじゃなかったらまだいいかもしれないけど。

6月10日

この頃の自分の感情をよりうまくまとめられるようになったかも!とにかく呑気で、心配が全くない気軽さを感じてるの。すごくいい気持ちだけど、どこか寂しさもある。すべてアンネの本を読んでからだよ!すごい力だな。
<その気持ち、大人になってから何度思い出してあの頃に戻りたいと思ったことか。。。せめて、自分でも当時、その貴重さを実感し記憶に焼き付けることができたのを幸福に思える。>

6月12日

学校から帰った後にベッドの上にカーテンをつけてみようと試みた。古いシーツを山ほど見つけて、よりよいものを探して、何とか天井にくっつけた。すごく綺麗に仕上がった。その時、ユキから電話あって、チャットでロシアの女の子と友達になったと話した。羨ましかった。呼んでほしかったな。

いつか、ユキとチャットで会ってみたい。知らないふりをして、14歳ぐらいの男子だと自己紹介してさ。彼女が好きだと言って。ユキの反応をただ見るために。それにしてもメル友ほしいなあ。なんで作れないんだろう。

よる、12時までバスケットボール・ダイアリーズというドラマを観た。バスケ少年が不良になっていく話。<正確には、麻薬に手を染め出してつぶれていく中、主人公がそれを脱する過程を描いたドラマ。>怖い部分や気持ち悪い部分もあったけど気に入った。多分、友情のテーマがよく描かれていたからだと思う。少し羨ましかった。私は独りでも幸せといつも言っているけど、本当は友達がいっぱいいるという状態が想像もできないんだもん。人生をやり直せたら、友達はいっぱいほしいと思うな。

6月13日

夕方、ロシアに電話掛けた。お父さんが掛けるはずだったけど帰りが遅かったから私が指定の時間に自分でやった。お母さんはとても落ち込んだ声で出た。お父さんは友達の家でサッカーを観戦してると言うと、なぜかさらに落ち込んでいた。私は全く理解できなかった。なんで私とお母さんは滅多に分かり合えないのかな。私は通話の間、なぜか涙が流れていた。たぶん、お母さんが可哀想だったからだと思う。こんな風に育っちゃったから。それと、私のお母さんがこの人だという思いからかもしれない。お母さんが楽しく笑っている時が好き。いつか昔そうだった。変わり果ててしまったのが寂しい。

夜、床に入ったとき、すごく幸福を感じた。窓を開け、音楽を掛け、本当に清々しかった。ベッドの上にカーテンがあるというだけで嬉しさが増した。

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