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【新連載・ロマンス・和風ファンタジー小説(オマージュ)挿絵あり】あなただけを見つめている……。 第二部 次代の姫  第三話 闇の神の願い

前話

「当騎! 古文書を食べないで!」
「う~ん……。むにゃむにゃ~」
「ちょっと寝ぼけて抱きつかないの! 相変わらず直らないんだから」
 昔も寝ぼけて抱きついていた。自分もそうだったかは内緒にしておきたいところだ。
「あ? 誰?」
「むーよ! 婚約者を忘れたのっ!」
「俺、誰?」
「はぁ~? ふざけないで! 当騎でしょ?」
「とうきって誰? わからん」
 步夢は愕然とした。こんな時に記憶喪失? 步夢は大声で一番の知恵者を呼び出す。
「おじぃちゃん~~~~~! 当騎が記憶失った~~~~~~~~ぁぁぁ!」
 しばらくしてどたばたと吉野神社の人員がやってくる。
「とうきおにいちゃん! きのう、あーたんにむーちゃんのお話ししてくれたこと忘れたの?」
 綾音が首に抱きつきすごい表情で近寄る。
「当騎お兄ちゃん! また?」
「当騎様!」
「当騎! もしや。闇の球の封印が解かれていたかっ」
 一の長老が聞いたことのないモノの名前を出す。
「なによ。それ。吉野神社にそんな不明物ないはずよ」
「いや、あーちゃんにも秘密にされて一の長老が連綿と伝えてきた闇の神の宝物があるのじゃ」
「きいてない~~~~~」
 步夢は半泣きになりながら叫ぶ。気づけば当騎と綾音が固まってくっついていた。その当騎のすがたがものぬけのカラに見える。
「あーたん」
 綾音も不安そうだ。
「大丈夫。あーちゃんはひーちゃんの子でしょ? 闇には引っ張られないわ。当騎は闇の巫なの。でも正真正銘に認められる前なの。私もね。おじいちゃんが解決してくれるわ」
 步夢が綾音を慰めていると一の長老が箱を出してくる。ひもが解かれていた。步夢はずれている箱の蓋をあける。
「これが、闇の球」
 なにやら光がうごめいている。
「この閉じ込められている光が当騎なの?」
 一の長老に聞くために顔を向けて球から視線をそらした時、当騎の声がした。
「俺はここでもいい。むーは食われる。ここへくるな」
「冗談じゃないわよ! 結婚不履行で訴えるわよ。私もそっちへ行く!」
 步夢の輪郭がぱっと光ると步夢は意識を失っていた。
「姉様!」
「おお。優衣殿か」
「何か嫌な気がして急ぎましたの。姉様は?」
「この球の中じゃ」
 黒い光と白い光が絡まりながら動いていた。

「馬鹿! 何で来るんだ!」
「知らないわよ。行きたいと思えば吸い込まれたんだもの。ここどこ?」
「闇の神の心臓部分だ。今は眠っているからいいものの。目覚めていたら光の巫のお前は消えているところだったんだぞ!」
『消えはしまい』
「誰?」
『誰とは水くさい。闇の神だ』
「当騎。今眠ってるって!」
「いや、生気がない。眠っているはずだ」
 闇の神の力を感じ取れる当騎がそう言うのだからそうなのだろう。ならば、この闇の神は?
『眠っていても意識体が動く。今ならまだ、それができる。だが、私の心臓はもう少しで止まる。そこで……ひとつ、頼みがある』
「何?」
「こら。馬鹿正直に応じるな!」
『さすがは闇の巫。疑うか』
「むーはわたさん!」

次代の闇の神の姫


『わかっておる。この子を育ててほしいのだ』
 目の前に赤児が浮いていた。朗らかに笑っている。
「可愛い」
 步夢が胸に抱く。
「むー! 簡単に流されてるぞ! 前の闇の神だったらどうするんだ!」
「この子に罪はないわ。育てるなら育てる。この子を真っ正直な当騎と私の子としてまっすぐに純真な人間に育て上げるわ。愛情たっぷり注いで。当騎が嫌なら、シングルマザーでもいいわよ?」
 ちら、と当騎を見る。苦虫をかみつぶしたしたような顔をしていたが、観念して当騎が表情を緩める。
「負けた。結婚しよう。步夢。そしてこの子を俺たちの子として育てよう。周りがなんと言ってもお母さんの声で収まるだろう」
『ありがたい。育ててこの子を彼の地へ連れてきてほしい。正式な次の闇の神となる』
「光の神は交代しないの?」
『それは知らない。光の神は光の神として考えがあるのだろう。それにあちらの方が眠りが深い。そなたの言葉を信じているのだ』
 步夢の脳裏に光の神に約束した時の声がよみがえる。
「わかった。私が戻って約束を守る。当騎はこっちかもしれないけれど」
「むーの行くところが俺の行くところだ」
「当騎……」
 步夢と当騎が見つめ合う。間に挟まった乳児が鳴き声を上げる。
「おー。よしよし。泣かないのよ~」
 步夢が腕を揺らしながら鼻歌で子守歌を歌う。
『そう。その子守歌を覚えている者が神の子を育てられる。さぁ。戻れ。ここに捕まると抜けられなくなる』
「どうやって……、って、みんないる」
 気づけば吉野神社の倉の中だった。
「姉様!」
 優衣が抱きついてくる。
「気を取り戻したのですね」
「あれ? 赤ちゃんは?」
「あかちゃん?」
 周りは不思議そうにする。綾音があそこ、と指を指す。乳児が空に浮いていた。
「いらっしゃい。あかちゃん」
 優しい声を出して步夢が腕を伸ばす。すぅーっと降りてきて乳児は步夢の腕に収まった。
「闇の神になる私たちの子よ。ってこの子男の子? 女の子?」
「それは日史に見てもらおう。体調の善し悪しもついでに」
 当騎が乳児の頬をぷにぷにとつついている。きゃっきゃと乳児ははしゃぐ。
「私たちって。姉様、まさかっ」
 優衣が恐ろしいと言う顔をする。
「馬鹿ねぇ。何想像してるの。私たちは預かったの。何もしてないわよ。当騎が引きずり込まれたのは意図的だったみたい。私もね」
「姉様達はどこまでスケールを大きくしたらいいんですかっ。十六歳ですよ! 母様に育てて頂いた方がどれほど自然か」
「どっちに治しても処女受胎になるわねぇ」
 呑気な步夢にみな、ため息をつく。
「引き取ったということにすればいいじゃないか。吉野家に捨てられていたとか」
「それ、この子が聞いたら傷つくわよ」
「そこはそれ。お前がごまかせ。せっかく数学頭があるんだから」
「ひきょーものー」
 いつもの痴話げんかが始まって周りは辟易する。気づけば征一達も来ていた。
「お前ら、いつ産んだのだ?」
「さっき」
「馬鹿、真に受けるだろうが!」
「ほう。当騎はいたいけな少女にそのようなことを……。成敗!」
 征一の手刀が落ちてくる。それを止める当騎。
「違う。拾い子だ。預かったんだ。こんな一日や二日で産めるわけないだろーがっ」
「そうか」
 あっさり手刀を解いて乳児をのぞき込む。
「おお。可愛い子だ。むー似でよかったな」
「失礼な」
「何か?」
「いいえ。一の長老様、その危ない物体は吉野神社の奥底に隠してください。二度と手にすることがないよう」
「まぁ、よいが。それより祝言じゃのう」
 一の長老はそっちに意識が向いている。
「ウェディングドレスしか着ないもん」
「それなら、国に保存したドレスが……」
「ししょー。ちきちゃんも!」
 メンバーが狭い倉の中に収まっている。
「窒息するからみんな外ー」
 步夢がメンバーを押し出す。それでも当騎を見る目はうれしそうだった。こんなに早く子育てが来ても当騎との子となればうれしい。当騎も優しい眼をしている。父親の目だ。何度も見てきた目。
 当分は子育てで大学どころではない。高校に素直に通おう。步夢は思いながら我が子となった乳児を見つめていた。


あとがき
挿絵を見だし画像にするかと考えたのですが、やはり、暗いよね、と思って挿絵にしておきました。DELIーEさん。どーしてお団子頭を二つ作ってくれないの?一個になってあきらめました。どういうプロント文でなっていたんだろう。あとで見ておきます。今日は座骨神経痛もでて疲労してるのであとがきはここまで。ここまで読んでくださってありがとうございました。ファンタジーは難しいねぇ。

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