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【新連載・ロマンス・和風ファンタジー小説(オマージュ)】あなただけを見つめている……。 第一部 クロスロード  第十九話 クロスロード

 あのコロコロとした子犬の千輝がなぜかまるで狐と犬とオオカミが混ざったような姿でそこにいた。
「ちきちゃん! どうしたの? お手は?」
「ぴぎ」
 その聖獣のような姿で相変わらずぴぎと鳴くとお手をする。
「ちきちゃんだ~」
 步夢は脱力して座り込むと千輝を抱きしめる。おひ、と当騎が慌てる。
「どうやら彼の地の聖獣の子が落ちてきたのですね。どんな字をあげたのですか。その子は光の巫に仕える神獣ですよ」
「それは、優衣が……。千に輝くと書いて千輝」
「まぁ。光の巫女にちょうどいい名前ですね。步夢、あなたの神獣です。優衣の神獣はまたどこかで見つかるでしょう。大事になさい」
「はぁい。って、この姿直らないの? 優衣」
「確か、錫杖で出し入れしていたような」
「ああ。こうか。って髪の毛~~~~~~」
 長い髪の毛はそのままだ。
「步夢、優衣いらっしゃい」
 沙夜が起き上がって呼ぶ。
「母が髪の毛を結ってあげましょう。ここを出るときはそれで出るといいわ。日史は少し借りますよ。医者が目が覚めたと言えば不審がられないでしょうから」
「はい」
 母親に髪を結ってもらいながら步夢も優衣も幸せそうだ。当騎はそれだけでよかった。涙は見たくない。母との再会で当主の力も戻り、これからの冒険にも心強い。だが、強ければ強いほど步夢は自己犠牲心が増大する。気をつけないといけない。自分もいつの間にか姿が元に戻っていた。自分は闇であるから千輝がしたのでも誰がしたのでもないが、誰かが待っているのだろうと思うと不思議な気がした。あの闇の神に仕えるのか。当騎にはまだ邪心が残っている闇の神しか覚えがなかった。純粋な闇に戻したアユとトウマ。あの要領で闇の神も変えるのか?
 謎だらけだ。しばらく古文書を読みあさろう。ついでに步夢も誘えばごろにゃんできる。その年頃の男の子思想に日史の突っ込みが入る。
「だから、ごろにゃんはだめ」
「どーして日史には届くんだ-」
 がっくりうなだれる当騎である。
「知らないよ。宝珠を通して聞こえるんだから。特に当騎の邪な男の子の概念はね」
「ちっ」
 当騎が舌打ちすると沙夜がほほほ、と笑う。
「今世がちょうどいいぐあいにねじてれているようね。步夢も素直じゃないから」
「おかあさんひどーい」
 思いっきり甘えながら步夢は言う。まるで幼子のようだ。
「さ、二、三日検査入院して帰りますから、あなたたちは早く帰りなさい。千輝、元に姿にお戻りなさい」
「ぴぎー」
 千輝はそう言うとみるみる小さくなって丸っこい子犬に戻った。
「ちきー、ありがとうねー」
「ぴぎ」
 步夢が結い終わった髪を気にしながら千輝に近づく。千輝はなぜか習慣となったのかお手をする。
「お手、じゃないのにな。ちき、帰りにお菓子買おうか。神獣の子なら月齢関係ないよね。ね。当騎」
「そうかもな。じゃ。帰りにペットショップ寄るか」
「やった。当騎大好き!」
「ぴぎ!」
 千輝と步夢が当騎に抱きつく。それを微笑ましく見る仲間達である。この二人がこうであれば仲間内も穏やかなのだ。痴話げんかが一番たちが悪い。そうならないうちに……。皆の思考は一致した。日史を置いて帰る。
 帰りながら、母に結ってもらった髪をなでなでする步夢である。
「よかったな。お母さんにしてもらって」
「うん!」
 步夢はうれしくてしょうがないようだった。確かに親に恵まれない前世がほとんどだったから、こうしてしてもらうことは重要なのだろう。親の愛をたっぷり受けて向日葵の笑顔にあふれるようになってから彼の地に向かった方がいい。当騎はそう考えた。優衣と目が合う。優衣もうれしそうに步夢を見ていた。同じ思いらしい。アイコンタクトしていると步夢に首をぐきっと曲げられる。
「こっちしかむいちゃダメ」
「わかっている。お前だけを見つめてるから」
「私もあなただけ見つめている……」
 新たな役目、光の巫と闇の巫の継承はすんだ。次はなにをするのか。いずれにしても対として過ごす步夢と当騎の道はクロスし、まっすぐ重なったのだった。

あなただけ見つめている……。第一部 クロスロード 了


あとがき
あっという間の一部完ですが、番外編がこの後あります。幸薄い日史君へ日頃の感謝を込めてお嫁さんサンバ。出会いが待っております。うちの二次の中で恒例となった日史君とお嫁さんの情景も番外編ということでそのまま乗せてあります。そのイラストも描いてもらってます。お楽しみに。今日はオールスター。楽しみ~♪

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