人生の最期に華を添える仕事

介護業界の仕事に就いたのは今から十数年前の丁度40歳を迎えた時。

時代背景としてはリーマンショックで職が無く、ハローワークに求人探しに行っても検索する端末を待つのに1時間待ちはザラだった。

そもそも、当時のハローワークの求人でさえ、社会保険が完備されていない求人が沢山出ていた。
そんなところに面接に行っても、明らかに”ブラック”な匂いがプンプンしてた。

失業手当の受給期間も終わりを迎えようとしていたある日、1件の求人を見つけた。
有料老人ホームの営業担当の募集だった。
しかも、要件にヘルパー2級取得者と書かれている。

偶々だったが、前職のアホ社長に
「これからは介護の時代だ!お前がヘルパーの資格とって講師になれ!」
ってアホなこと言われて取得していた。

まさか、それがこんなところで役に立つとは…

当時は未だ営業職を希望する人間でヘルパーの資格を持っている奴なんて居ないと思って、面接に臨んだら見事に受かった。

そりゃ、ヘルパーの資格を取得するときに実習では介護現場に入ったけど、全くのド素人。
最初の研修で1か月間、現場に入らせて貰った。

右も左も分からず飛び込んだが、当時の職場の人達にも助けられて無事1ヶ月の研修を終了した。

その間には担当させて貰ってた男性の方が、天に召されることも有り、

『生きるとは何か?』

を改めて考えさせられた。

ホント、ヘルパーの資格を取得するときに強く言われた、『QOL(Quality Of Life)』の意味を改めて考えさせられた。

営業職に就き、最初は上司に座学で介護業界の仕組みをレクチャーでして頂き、そこから暫くは二人で営業周り。
上司と言っても10歳年下だったんだが、この方との出逢いが現在まで俺が介護業界で仕事をしているきっかけとなったと言っても過言ではない。

正直、営業の仕事では人に負けることはない位自信を持っていたが、この方の仕事の進め方、地域戦略どれをとっても理に適っており脱帽した。
それだけでなく、人望も厚い方。
偶々だけど、下の娘と上司の娘さんが同い年だったのでプライベートな話でも共通点があり、一緒に仕事をさせて貰って楽しかった日々だった。

その後独り立ちして、一人で営業に回っていた際に中々仕事をくれない病院があった。
その病院は施設からも近いし、出来れば仕事のパイプを繋いでおきたい先だった。

ところがある日、珍しく担当者に呼ばれて相談を受けた。

頂いた看護サマリーを読むと容易に”面倒臭い案件”と容易に想像できた。
内容には暴力、暴言行為有とのこと。
その対象者はどうやら元企業の社長で何となく想像は付いた。

持ち帰って、受け入れるかどうかの相談をしていると、ケアマネジャーが頂いた情報から

「もしかして、この方って意思疎通が取れないことがジレンマなのかも?」

と言い出した。
ケアマネジャーの考察ではこの方は癌により言語障害を持たれており、恐らく看護師との意思疎通が上手くいってないのでは?との解釈だった。

施設長も「ならば、1回面談に行ってみましょうか?」となり、二人に委ねた。

面談から戻った二人から、「想像通りでした!こちらが意思疎通がうまくいってないでは?とお聞きしたら笑顔で返してくれました!」と言うことで、この方を受け入れることが決定した。

すぐさま受け入れ態勢を整えるために、施設長から現場のリーダーにこの方の情報を落とし込み、職員に周知がなされて受け入れを待った。

俺はキーパーソンの娘様と契約を行う。

その時娘様は…

「本当に無理なお願いだと思いますけどよろしくお願いいたします。」

と何度も頭を下げられていた。

その方が入居され、時々現場のスタッフから直接

「穏やかないい表情されてきましたよ!安心してください!」

って、いい情報も挙がってきた。

時より来館される娘様もお父様の表情が柔らかくなったと喜んでおられた。



しかしながら、約半年経過しした頃、その方は天寿を全うされる…


部屋の片付けに来られた娘様が最後に俺のところに態々出向いてこられ、

「あの時は本当にありがとうございました。○○さんにここの施設に入れて貰えなかったら、父はあんな穏やかな最期を迎えることはきっと出来なかったと思います。
本当に最期に親孝行ができて幸せでした。

ありがとうございました。」

とご挨拶に来られた。


これが、俺の『天職だと感じた瞬間』。


そして、改めて『QOLとは何か?』を考えさせられる瞬間でもあった。


勿論、これは俺一人の仕事の成果ではない。

看護サマリーを読んで気付いたケアマネジャーが居て、それを面談に行こうと言った施設長が受け入れる決断をして、現場のリーダーがスタッフに情報を落とし込むという連携が取れていたから…

こういった、チームワークの賜物である。

それと同時に売り上げや利益を追求する仕事も大切だが、人に寄り添って、その結果が『感謝』と言う形で帰ってくることも知った。

人が最期を迎える…

このことは誰にだって避けては通れない。

しかし、その最期のひと時に少しでも華を添えて送り出してあげる仕事が介護の仕事の本当の意味ではないかと、その時知った。





#天職だと感じた瞬間

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