見出し画像

【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第7話)#創作大賞2024


★第6話はこちら



★始めから読むならこちらから




「君の将来のためにも、能力のことはあまり公にしないほうがいいと思う」
小芝井がテーブルに放り投げた空の牛乳パックを、片桐は自分の横にあるゴミ箱に投げ入れた。
「でも、代弁を依頼してくる人って本当に困っている人が多いんですよね。逆に、興味本位の奴の依頼は断ってるんですよ俺」
そういうところちゃんとしてるんで、となぜか照れながら小芝井は言う。

「犬は言葉を伝えてくることが多いけど、猫はイメージを伝えてくることが多いから、そこを俺なりに解釈して依頼主に教えてやるんです。あそこが痛いとか、こういう不満があるとか。でね、飼い主も思い当たる節があったりするから、ほとんどの人が泣き出すんです。ブワァーッて。そんなことを思いながら過ごしてたんだね、気づいてあげられなくてごめんねって。で、それを見て俺も泣くし、横では佐野くんが冷たく笑って……じゃなくて、目頭を押さえてやっぱり感動してるんですよ。なんかね、そういうの見てると、なんにも苦じゃないんです。……それでも、やっぱりダメですか?」
上目遣いに見られ、片桐は一瞬たじろぐ。

「君の言いたいことはわからないでもない。でも、一度貼られたレッテルはなかなか剥がれないよ。たまに人助けをするくらいならいいだろう。でも、あまり調子に乗りすぎると、必ずそういうものを排除しようとする勢に行く手を阻まれる。見えないもの、証明できないものを理解しろと言われても、世の中の大半の人は受け入れられない。拒絶反応を示すんだよ。そうなったとき、傷つくのは君だよ」

 沈黙が流れる。永遠と思われるような間。先に視線を逸らしたのは片桐だった。どうしてだろう。自分は同じ特殊能力者として何も間違ったことは言っていない。後輩がインチキとかペテンというレッテルを貼られて苦しむのを見たくないから、真剣にアドバイスしているのに。

「先輩はどっちなんですか?」
小芝井は無理矢理片桐の視界に入ってこようとする。
「どっちって?」
「俺の今言ったこと、嘘だと思ってますか?」
 真剣な眼差しを向けられ、片桐は戸惑った。
「まあ、にわかには信じがたいよね」
 言ってから後悔した。

「そうですか」
「あっ、いや……。そうじゃなくて」
立ち上がり、リュックに手をかける小芝井の腕を思わずつかむ。あ、ダメだ。光の膜の放つエネルギーに当てられ、一瞬強いめまいが襲ってきた。

「じゃあ、今度依頼が来たら先輩も一緒に付いてきてください。分かりますから」
 どこか挑発的な物言い。パッと突き放すように小芝井の腕から手を離したことが気に触ったのかもしれない。

 片桐は深い罪悪感に見舞われた。違うんだ。本当は分かってるんだ。僕と君とは同胞だ。本当の意味で君を理解できるのは佐野でもH高の山本さんでもない。この僕なんだよ!
「わかったよ。付いてく」
片桐はそう言うのが精一杯だった。

 小芝井は挑発的な顔にフッと笑みを湛え、
「今日は帰ります。みんなによろしく」
そう言うと、リュックを片方の肩にかけて颯爽と部室を出ていった。


#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門


★続きはこちら


サポートしていただけたらとっても嬉しいです♡いただいたサポートは創作活動に大切に使わせていただきます!