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いわゆる『英語習得成功体験』には共通点があるのではないだろうか?

Introduction
世の中には数多くの英語の教材があります。玉石混合ですが、多くは熱意と考えをもって作られた良著だと思います。
しかし、実績のある教材や勉強法をしっかりやりこんでも必ずしもうまくいくわけではありません。

それはなぜでしょうか?

私はうまくいくか行かないかの差は、学習者本人が「脳に何を覚えさせるべきか」に気付いているかどうかにあるのではないかと考えています。
(※ハウツウ記事ではありません。でも何かの役に立つかもしれません。)


知識で言葉は話せるようになるか

外国語を学んでいると、次のような思い込みが生まれてきがちです。

①文法などの決まりに則って論理的に文章を組み立てていくことに熟達していけばそのうち自然で素早い発話ができるようになるだろう

②単語帳をしっかり覚え、意識して使っていくようにすればそのうち正しく使える語彙、正しく理解できる語彙が増えていくだろう

実はこの二つは明確に誤りであるといえます。
正確には、外国語を身に着けるためにはある前提条件が必要になります。

それが前述の「何を脳に覚えさせるべきか」に気付いていることです。

確かに気づいていなくても「英語で英語を学ぶ」であるとか、「英語を話しまくらなければいけない場に身を置く」といった方法であれば強制的に脳が正しいものを学習しやすい環境に置かれるので成功率は上がります。
しかし、それらを実行するには多大な労力・精神力・時間、そして場合によっては金銭的な負担を負う覚悟が必要になります。

さらにはそれをしたところで、
「ゴルフや野球を覚えるのに傘を持ってプロのスイングのガワだけを真似して練習してみてもほとんど意味はないが、クラブやバットを買って素振りを始めれば身につく可能性が出てくる」
という程度のことにすぎません。

それだけだと、できるようになるかは運やセンス依るところがどうしても大きくなってしまいます。運やセンスに頼らずにスイングを身に着けようと思ったら、動きの意味やコツをつかむために意識すべきポイントを知っている必要があります。


言葉を作るのは意識?無意識?

言語を学ぶコツとは何かを考える前提条件として、言葉を話す上では無意識的なプロセスが重要になるという話をします。

言語学、認知科学、神経科学、さらには失語症治療の現場からの知見によると、人間の言語処理は無意識下で行われる脳の自動処理に負うところが大きいそうです。

例えば1980年代の終わりころから、多くの認知科学者によって人間の単語認知過程として無意識下で文字単位の処理が行われているモデルが提案されています。

例としてRoelofのWEAVEモデルを下に示します。
これは中央に書かれた「escourt」というインプットが文字でなされた認知プロセスの模式図で、上側が書字→意味認識、下側が書字→音韻認識のプロセスを示しています。
当然、我々が「escourt」という文字を見たときこのような分析は意識に上りませんので、これは無意識のプロセスについて言及したものです。

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https://pure.mpg.de/rest/items/item_102470/component/file_102471/content
(Levelt, Roelofs, Meyerによる1999年の論文から引用。)


この種のアイデアが最初に提案された当時(1980年代)は反応時間測定といった方法のほかにこのことを実験的に確認するすべがありませんでしたが、脳のfMRI解析が可能になっている現在、脳の活性化領域を直接観察することによって上記モデルを裏付けるような結果が報告されています。
そのような論文の一つの著者、Dehaene本人の著書による表現を引用すると以下のようになります。

実際には、文字単位の一連の高度な分析が脳内で生じており、私たちは単にそれに気づいていないだけなのである
(「意識と脳————思考はいかにコード化されるか」著:スタニスラス・ドゥアンヌ、訳:高橋洋、株式会社紀伊國屋書店)
■元論文:https://www.unicog.org/publications/Dehaene_MaskedWords_NatureNeuroscience2001.pdf


『無意識』に何かをさせるには

繰り返しになりますが、重要なのはこのプロセスが無意識であることです。

無意識で機能するということは、英語を話すには脳の中に英語の生成に最適化されたニューラルネットワークを形成する必要があるということです。
それがなければ毎回意識的にして脳のあちこちに保管されている音やら文字やら訳語やらの情報をかき集めてきて、それをワーキングメモリ上に並べて分析をしなければならなくなります。

それではとても実用的な速度での文生成や認識はできません。

ニューラルネットワークの形成、というと難しく感じますが具体的にやることはシンプルです。
最近スタンフォード大学から発表された研究報告に、それを身近に感じるための大きなヒントがあるので少し見てみましょう。

幼少期にポケモンにはまった人は、脳に「特化した領域」が出来ている:
研究結果
https://wired.jp/2019/09/08/brain-region-for-pokemon-characters/ )
子どものころ熱心にポケモンをプレイした人たちは、数百種のポケモンを区別することに特化した独自の脳領域を発達させている。──そんな論文が、2019年5月に学術誌『Nature Human Behavior』に掲載された。
(中略)
「どの画像でも、ポケモンのキャラクターに反応する明確な活動パターンが、脳の同じくらいの領域にみられました」と、グリル=スペクターは言う。
(中略)
データを分析したところ、仮説の通り、ポケモンプレーヤーはみな脳の同じ領域に、キャラクターを識別することに特化した新たな部位をもっていたのだ。(※)

『「ポケモンマスター」11人(平均年齢29.5歳)』を対象に行われたこの実験ですが、「ポケモンマスター」たちはポケモンを見分けるために特殊な訓練を積んだわけではなく、単純に幼少期にポケモンを熱心にプレイしただけです。

すなわち、月並みな話になりますが、脳に何かを覚えさせようと思ったら、それに適した刺激を繰り返し与えることが重要になるのです。


言語生成のために脳が覚えるべきことは何か?

当然ながら、英語を話す回路は『文法事項を素早く処理する回路』や『訳語を素早く取り出す回路』とは一致しません。
これは母語話者が文法からスタートして作文することができなくても、話したり書いたりすることからも明らかです。

では、そのようなニューラルネットワークができやすくするには、何を意識して勉強すればよいのでしょうか?

それを論ずるにはまた前述のRoelofやDehaeneの報告を引用して考察を進めたいのですが。。。長くなりすぎたので次回に回そうと思います。

最初に述べた「何を脳に覚えさせるべきか」のヒントとしては「英語で英語を学ぶ」、「英語を話しまくらなければならない環境に身を置く」ことをすれば脳が勝手に覚えること、です。


__________________________________最後に

自己満足みたいな文章になってしまい申し訳ございません。
このような乱文をここまで読んでくださった方がもしおられましたら本当にありがとうございます。

また、本文中で引用した学問分野は好きで覗かせていただいているだけで、専門に勉強したことはありません。
誤解を発信することは本意ではありませんし、私も正しい知識を知り、広めたいのでもし詳しい方がおられましたら是非ご指摘や補足などいただけると嬉しいです。

次回以降はもう少し役に立つ話に入っていきたいと思います。
また、今回のようにあまり役に立たない回は雑学として楽しんでいただけるよう精進しますので、機会があればまたよろしくお願いいたします。

最後に、みんなのフォトギャラリーから r_r_r_r_rさんの画像をお借りしています。素敵な画像をありがとうございます。

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