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なんでもいいはなんでもよくない

今年もこの日が来た。ヴァレンタイン。軍人の結婚は禁じられた時代に密かに結婚式を執り、吊るされた聖ヴァレンティノの記念日だったが、今はチョコを飛ばし合い、レストランとモーテルが儲ける節日になった。私もティーンだった頃は『ヴァレンティノの精神を曲解すんじゃねえ!』『バレンタインを商業化するな!』『堂々と抱き合ってんじゃねえ!』『氏ねよ!氏ねぇぇぇぇいーっ!!!』と喚いたが、昨年は童貞のまま30歳の誕生日を迎え、異能を手に入れた私は1ミリの嫉妬も不快も感じておらず、コンビニで慎重な表情でチョコレートを選ぶ少年少女を見かけた際は微笑ましい気持ちになり、祝福の言葉を送ってあげたいぐらいだ。もういいんだ。恋がしたい者はどんどん恋して、したくない奴は自由にやればいい。だからあしたは充実な一日を過す予定のあなたも、嫉妬と劣等感に燃えているルーザーどもに同情の一かけらも必要がない。どんどん街に出て、抱きしめ合い、キスしてくれ、独身者のサングラス割れるぐらい輝け、愛で世界を照らすんだ。

なお、私はそれなりに体鍛えているのでスタイルがよく、ルックスもイケメンで日本人の知り合いが「おれは君だったらもうナンパしまくってたわ~」と言われたことがあり、ルーザーではないと自他から認められていると言っておく。

そこで、あしたの店と部屋はもう予約した?また?その時の気分で決める?あなたがそれでいいのなら私も何も言わないが、『下調べを怠ったカップルはバレンタイン当日に別れた』という諺があってだな……わかった、気分屋のあなたに、これまで数多くの男と女とデートしてきた私がひとつ、心得を伝授しておこう。

「どうでもいい」「なんでもいい」などは、絶対に言わない方がいい。もし相方がそれらの言葉を多用している場合、早めに別れることを薦める。

「いきなり何を言い出すの?それだけで別れるなんて……過激すぎますわ!」

まあ聞いてくれ。「なんでもいい」、それは自分の選択権を捨て、相手の選択に身を委ねるの意志を表明することばだ。だが現実では、それを言う連中ほど一番なんでもよくない。それところか「それぐらい教えなくてもわかるでしょう?」「恋人なら察してね」の意図満々で、あなたがテレパシストの如く彼らの考えを当てることを期待している。もし期待を外したらとんでもなくキレる。「どうでもいい」「なんでもいい」。軽率な言葉一つで恋人が喧嘩し始め、友人同士が殴り合い、バンドが解散し、バスケットボール部が崩壊する。私も昔はよく口に出して親父にキレられたことがあり、もう死んでもた使わないと決めた。明白な意思を持て。

それでは、軽率な言葉で大変な目に遭ったカップルたちを見てみよう。

CASE 1

「やめッ」BLAM!BLAM!  銃声は二回、衝突音、ガラスの破裂音。
ジョージアはカウンター裏に隠れ、声が漏らさぬよう手で口覆いながら耳を立てた。目の前に灰金色のポニーテールのウェイトレスはこめかみに穴を開けられ横たわっている。彼女は一分前までだで生きていた。

「ジョ~ジィ~、出ておいて~」妻のリンはふざけた口調で夫を呼んだが、当然応じるつもりはない。およそ二分前、妻が車に忘れ物と言い、外に出ると、帰った際はジョージアの護身用S&W拳銃を手に持っていた。サバゲ―で鍛えられたジョージアは咄嗟に頭を下げ、銃弾が空を切って後ろ席の客に命中した。

 それから悲鳴が聞こえ、レストランはパニックに陥った。リンはで当たり次第に客と従業員を撃ち、ジョージアは混乱を乗じてカウンター裏に這いた。僅か一分で、このレストランはマフィア襲撃に遭ったような有様だ。

「ジョージィ……貴方のせいだよ……バレンタインだから好きなものなんでも注文していいと言いながら、パスタにしたら貧乏くさいだの、ツナのタルタルステーキにしたら生魚は食えるもんじゃないといちゃもんつけてよぉ……あんたはその、人に選ばせような言い方しておいて実は一番意見が多い……もうまっびらだ。出てきなよ、弾を腹いっぱい食わせてやるわ」

これはなんでもいいけど実際なんでもよくなかった夫に対して妻がキレたタイプの案件です。では次のケースも見てみましょう。

CASE 2

ーーフィラデルフィア某所

「今回のヴァレンタインディナー、私が腕を振るってご馳走してあげるわ!ジャック、何が食べたいものある?」
「ハニーが作ってくれるものなら何でも大好きだよ
「もう、それが一番困るだから~。じゃあ私が当ててみようが、手を出して」
「なに?何ゲームなの?」
「いいからいいから」

 ジャックの手を掴み、ティファニーは目を閉じて意識を集中した。すると頭のなかに霧がかかった映像が浮かび、次第にカメラの焦点が合わせるように映像がはっきりになった。パイだ。丸くて、大きなパイ。ナイフを入れると、ふわぁとリンゴとシナモンの香りが鼻腔を刺激する……ティファニーは唾液が湧き出る唾液を飲み込み、目を開いた。

「わかった!アップルパイでしょう?得意料理だから期待していいよ」
「ワオ、すごいね!どうしてアップルパイが食べたいとわかったんだ?」
「ふふん、私はね、超能力があるの」ティファニーは得意げに笑った。「小さい頃から他人の体を触ると、何となく考えていることがわかるんだ」
「へー、それはまあ、すごいとしか……」
「どうせ信じてないでしょう?」
「いや、信じるさ。そしてありがとう、見せてくれて」
 ジャックは急にティファニーを抱きしめた。
「ちょっ、急ぎ過ぎだよ!やるのならせめて歯を磨いてからう゛っ」
 首が何かに刺され、急に強烈な眠気がティファニーを襲い、彼女の意識を暗闇へ押してやった。
「もっと時間が掛かると思った」ジャックは独り言ちした、さっきとは全く別人の、冷徹な声だった。その手に使い捨ての注射器が握られている。
ティファニーを床に寝かせ、ジャックはスマホを取り出した。「もしもし、おれだ。テレパシストの兆候を見せた女を確保した、車を手配してくれ。病院に運ぶぞ」
 スマホを持っている右腕の付け根に、三つ葉のクローバーのタトゥーがあった。

 これは自分はテレパシストであることがバレて、万年のあいだ人間の社会と秩序を異能者から守ってきた組織に狙われる案件です。彼らはどこにもいる。ミスターガラスは傑作。

 さあ、これであなたはバレンタインのNGワードについて十分に知ったはずだ。私の言葉を覚えて、あしたのデートに臨むといい。愛に満ちあふれたバレンタインを!Have a happy Valentine's day baby!💃♥️🕺

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