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第七章 後悔



私は、過去に一度。
産むことができなかった命がある。

22歳。

当時の彼。Nは、同い年。
長瀬智也似のイケメンで、
性格も控えめ。
感情に任せて、大きな声を上げるタイプでもなかった。

仕事もマジメに行くし、
タバコも吸わない。
時々ジョーダンも言ったりして、穏やかに笑う人だった。

私には、もったいない位に。
理想のひとだった。


付き合って1年半。
生理がこない月があった。

こんな事、初めてだった。

生理は規則正しく、くるタイプで
予定の日になっても...
1週間待っても…来なかった。

コッソリ自分で調べてみた。

妊娠検査薬での結果は…陽性。
産婦人科でも、小さな命が確認できた。


どうする?産む?育てられる?
病院からの帰り道。

答えなんて…出るわけもなく。

でも、本音をいうと『嬉しかった』




好きな人の赤ちゃん。
今、お腹にいるんだ。


22歳のワタシのココロ。
あたし、お母さんになるのかな。


そう考えちゃうよね。

Nは、なんて言うのかな。
困るのかな。喜ぶのかな。
とても、不安だった。

帰宅し、
Nに「大事な話があるんだけど」と伝える。

N「うん。どうした?」

A「赤ちゃんができたみたいなの」

N「え?.…あっそか。生理来てないって言ってたよね」

N「A子はどうしたいの?」

A「私は…」

答えられなかった。


過去の事もあるし、
いいのかな。

” こんな ”アタシが、
お母さんになってもいいのかな。

お母さんになれるのかな。
でも、授かった命を失くしたくない。

と、うまく言葉にできない感情が、
溢れてしまって答えられなかった。

それにね。
Nの感情がわからなかったの。


なんで、そんなに落ち着いてるの?
嬉しくはないの?それとも、困ってるの?
って、わからないでいた。


きっとわたし、この時。
喜んでくれないんだ…って、
ショックだったのかもしれない。


今のアラフォーのワタシにすれば、
22歳男子。

経済的にも、まだ覚悟を決めれる歳でもないし、
戸惑うよね、そりゃ。ってわかるのよ。

むしろ、落ち着いて
「どうしたいか」をよく聞けたね。って
褒めてあげたいくらいなのよ。

即座に、アメリカ人みたいに
オーバーアクションで喜べるわけないって、
今なら、わかるのよ。 今ならね。

でも、まだ若くて未熟な私は、
” 憧れ ”の方が大きかったんだろうね。

なんか、
悲しかったんだと思う。

『お母さんになるのかな』なんて、
チョットでも、思った自分が。

Nの感情が、” 見えて ”こないことで、
一気に不安になっちゃって。言葉がでなかった。


その後、若いふたりは、
産むか、産まないか、
育てられるのか、どうなのか、
話し合いはしたけど、決められないでいた。

それでも、時間は過ぎていくし
つわりもあり、体調も良くなくて、
結局、一度互いの親に伝えて、相談することになった。


Nの両親も、私の母も、意見は同じだった。

「経済的に育てていくのは難しいんじゃないか。
 今回は、諦めよう」と言われた。


もぅ今となっては、記憶もあいまいで
『本当に育てられない状況だったのか』も思い出せないし、
22歳の私には、みんなの意見を変えれるだけの
知識も、熱意もなかった。

守りきれなかった。
産んであげられなかった。


冷たい手術室。
目を閉じるのが怖かった。

今はお腹にいるのに、
もぅ次に目を開けた時には、この子は.…



空っぽになってしまった
ワタシの身体と、ココロ。

泣く事しかできなくて、
申し訳なくて。ずっと、ごめんね…って言ってた。


少しの間しか、一緒に居れなかったね。
抱きしめても、あげられなかったね。

ごめんね。

謝ることしかできなくて。

泣いて落ち込んでる私に、Nも戸惑っていた。

それでも、毎日は繰り返されるし。
生きていかなくては、ならない。

Nも、とても心配していた。

当時は、泣いてばかりで余裕がなく
Nを気遣う余裕もなかったけど。
今思えば。

Nも、葛藤していたと思う。
自分の財力がもっとあれば...とか。
不甲斐なく思っていたのかもしれない。

Nは、Nでキズついていたと思う。
彼なりに、色々と考えてくれていた。

そんな時、Nが真剣な顔でね。

「今回は、諦めなくてはならなかったけど、
 ちゃんと責任は取りたいと思ってる。
 籍をいれないか?」と言ったの。

泣いてばかりのワタシを
安心させたかったんだと思う。

ワタシも、何を頼りに生きていけばいいいのかも
見失ってしまっていて。

Nの優しさが、すごく嬉しかった。

私は「うん」と答えた。

安易すぎたかな。

でもね。

自分たちが
ちゃんとした大人になったとき。

夫婦でさえいれば、
次に授かる子を二人で、
今回の子の分まで、
大切に育てていけるかもしれないと、想ったの。


そして、同じタイミングで
たまたま本屋で見つけた、
一文にも背中を押されたんだ。

『ママ。泣かないで。
 だいじょうぶだから。
 生きられなかった、ぼくの分まで笑って。

 次に生まれてくる子に
 ぼくも分まで、あいしてあげて。

 それでいい。それだけでいいから』

Nの決心と、この一文。
うまく説明できないけど、助けられてると感じたの。


泣いてばかりだった私は、スッっと気持ちが
落ち着くことができた。

そんなすぐに。
完全元気とまではならなくて。

今回の事は、
決して忘れてはならないことだって
わかってるんだけど。


でも、Nがそばにいてくれて、籍を入れることで、
これからの未来も、一緒に過ごしていけるなら、
歩みだせそうな気になれた。

この時、見つけた一文は、
「運命なんじゃないか」とも思った。


自分自身が、そういった気持ちだから
アンテナを張っていて、目につくってことも
もちろん、あるんだけど。

この言葉は、スッと腑に落ちて、
温かく、大切にしたい言葉となった。

同じく心が、苦しくなった人がいたら、
伝えてあげられたらいいなと思ってる。


Nとは、その後
入籍をした。

だいぶ私自身も落ち着き、
Nに負担をかけた分、早く安心させたくて。

心機一転、バイト→正社員へと転職をした。


この転職。

この会社。


これがなければ、
Nとは別れずに済んだのかもしれない。

いや。自分の判断や誘惑に
警戒心を持てなかった私が悪いんだ。

Tさんや母親以外に、
人を疑うことをまだ知らなっかった22歳のワタシ。


実はこの会社が…



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