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サヨナラと声を掛けるには勇気がいる その9
楽器屋で、その青いギターを見たのはもう5年も前か。
免許取り立てで、車を買えば良かったのに、なぜかギターを買った。
ギターを借りて少し弾けたことだけで、褒められた記憶が背中を押した。そんなに高くなかったし。3万円だったから、初心者にはそんなもんだろう。
ギターって不思議で弾けるだけで、何者でもない自分が何者かになれた気にさせてくれる。ギターを持ってよく出歩いたよ。公園で練習してれば、なんだか話し
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる その8
「月曜日、残業出来る?」
急に先輩から、言われる。
「えっ、。何時までになりますかね。時間にも寄りますけど。少し考えます」
「うん。お願い。」
私の少し考えます。はだいたい出来ますと言ってしまう3秒前だ。
でも、、私だけじゃなくて他にも居るでしょうと思ってしまう私は間違っているだろうか。他の人はお声がかかっていないらしい。
そもそも、先輩はやらないのか?なぜ、まわしてくる?
そして、その3日
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その7。
夢で見た景色は、なんでいつも、いつかの懐かしいような、ふわふわとした、何処か旅をしているようなそんな感覚なのだろう。
アラームが鳴る。
夢の中でも、自己主張はせずに、誰かに席を譲ってら。
休憩室。
缶コーヒーの安っぽい甘さ。
新しい手帳が欲しくて、雑貨屋に寄ったんだが、これだって、しっくりくるものがなくてな。
なんだっていいんだけどな。どうせ、仕事の予定しか書き込まない。
煮詰まるなぁ
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その6
髪を切ったと実感するのは、髪を洗う時だ。
ふと、自分で後ろの毛を触った時の感触。乾かす時の触り具合。乾く早さ。
私はあまり、ドライヤーの音が好きではない。
セミロング。このくらいがいい。ボブヘアだってまだ流行っている。
結べる長さ。
仕事の時は結ぶ。
帰る時はほどいて帰る。何がというわけでもないけど、オンとオフだよね。
裏表なさそうだよねって言われた。
そんな人いないでしょ?と心の中で毒を吐
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その5
「なんか、自動販売機みたいだよね。何処にでもあってそこにあるのが、ちょっと安心するっていうか」
人間に自動販売機なんて、例えなどあるか。
銀縁の眼鏡が人と距離を置かれがちだ。メカっぽいのかな。
まぁ、いいや。
自分にとって眼鏡はオンとオフの使い分けなんだよな。
ほら、女性だって髪を結ったりするあれと同じようなことだと思っているけど。
眼鏡は所詮伊達だしな。
違う自分になりたい願望だ。
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その4
その男性は、真剣に手帳のコーナーを見ていた。
なんだろう、目についてしまったのは。
あれ?でも、この人、他のフロアのテナントの方じゃないかな。違うかな。
「いらっしゃいませ。ありがとうございます」
私が女子高生のお客様のギフトを包んでいる間にその男性はいなくなっていた。気にいるものなかったのかな。
手帳を新調するには少し遅めの2月だった。
もう少ししたら、4月始めの手帳も少し入荷するけどなぁ。
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その3
1日のだいたいの時間を職場に費やす。それは大半の人も同じこと。
それなのに、彼氏が居たり、彼女が居たり、結婚していたり、みんな、そんな時間を何処で作り、育むのだろう。
テスト前の「えー全然勉強してないよー」現象じゃん。勉強してんじゃんかってやつ。
私は詰め込み派だった。
小さな雑貨店で、働く静かな人生。
今は閑散期だ。
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その2
「恋は盲目というじゃない?」
イヤホンを外して、耳に飛び込んできた会話。いくつになっても、人はそんな浮いたお話が好きだな。
好きなタイプだとか。
社員食堂のすみっこで、お弁当を食べるささやかな時間は音楽をお供にしている。
食堂のテレビは付いているけれど、人の喧騒で付いていても音はほとんど聞き取れず、そこに在る、光を放っているだけのように見える。
このテレビが活躍するのは甲子園と競馬と相撲の時
サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その1
部屋の散らかりが尋常ではない。捨てられないのだ。目に見えるこの部屋がこのありさまなら、私の心の中も、とっ散らかっている。きっと、忘れられない思い出で。
あの頃のあの人たちは、何処に行ったのだろう。
そんな風に気付くのはずっと後。そのくらい自然に別々な道を歩く様になる。
また、再会する時はあるのだろうか。
あの人は、私を思い出すことはあるのだろうか。
音楽を聞いていたイヤホンを外して、一息つく。