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抖音vs快手 徹底比較(前編)

中国ショート動画アプリの2強といわれる、抖音(ドウイン、Tiktok本国版)と快手(クァイショウ)。2020年に入り、それぞれのDAU(1日あたりのアクティブユーザー)は抖音は4憶、快手は3億を超えた。コロナウイルスの影響による在宅時間の増加が、その成長をさらに後押ししている。

今でこそ双方ともに商売色の強いマーケティングツールとなっているが、実は2つのサービスには本質的な違いがある。前編ではサービスコンセプトおよびアルゴリズムについて、後編ではECでのマーケティング活用について解説する。 

メディアvsコミュニティ

まずは、それぞれのスローガンを並べてみよう。

抖音:“记录美好生活”(Make Your Day)
快手:“记录世界纪录你”(Capture the world, share your story.)

言葉は非常に似通っているが、抖音は「美しい生活」を、快手は「世界、そしてあなたのストーリーを」シェアするとしていることから、根底にある価値観の違いが浮かび上がってくる。

まずはターゲット層の違いに目を向けたい。抖音は大都市の若い男女、快手は地方都市の庶民的なユーザーがメインターゲット層である。KOLの都市別分布をみると、抖音は7割以上が1・2級都市であるのに対して、快手は約半数が3級都市以下に属する。

図1:抖音・快手のKOL都市分布(出典:卡思数据)

ただし、フォロワーの都市分布から分かるように、実は快手だけでなく抖音も“地方都市化”が進んでおり、どちらも3級都市以下のユーザーが半数以上を占める。

図2:抖音・快手のフォロワー都市分布(出典:卡思数据)

メインターゲットの違いから、2つのサービスにおけるKOLとフォロワーの関係性は大きく異なる。抖音のフォロワーは、プロであるKOLがレベルの高い投稿をするのは当然という認識をもつ傾向がある。一方快手のKOLは、フォロワーのことを“老铁(親しい友人に対する呼び名)と呼ぶ。フォロワーもKOLのコンテンツに対して比較的寛容で、積極的に盛り上げる傾向にある。例えるなら、抖音における相互の関係は「俳優と観客」であるのに対して、快手のそれは同胞意識を持った「親友関係」なのである。

つまり、抖音は、煌びやかなライフスタイルや価値観を発信する“コンテンツ”重視の「メディア」であるのに対して、快手はある種泥臭い、地に足のついた生活を記録し交流する“人”重視の「コミュニティ」の色が強いといえる。

特化型KOLによる“种草”の展開

人気動画のカテゴリとしては、「イケメン・美女」「ドラマ・お笑い」「音楽」が依然として鉄板コンテンツ、且つレッドオーシャンである。ただし今後は“カテゴリ特化型”のKOLが主流となる傾向にある。具体的には、抖音は「車」「情感」「グルメ」「メイクアップ」、快手は「グルメ」「ゲーム」「ペット」「ファッション」が急成長カテゴリとなっている。

図3:KOLコンテンツTOP10(出典:卡思数据のデータをもとに筆者作成)

図4急成長コンテンツTOP10(2019年)

昨年からの傾向として抖音・快手で共通して言えるのは、各領域における“种草”とよばれるコンテンツが増えている点である。“种草”とは、商品やサービスの流行を生み出すための啓蒙活動のことを指す。ここにもプラットフォームによるライブコマースやEC強化の影響が色濃く表れている。

「公域流量」と「私域流量」

アルゴリズムの比較に入る前に、中国のコンテンツマーケティングを語る上で避けては通れない概念である、「公域流量(パブリック・トラフィック)」と「私域流量(プライベート・トラフィック)」の定義について説明する。そもそもこの概念は2016年にアリババが打ち出したものであり、バズワード的に様々なコンテクストで異なる解釈がされているのも事実だが、一般的には以下のように定義される。

「公域流量(パブリック・トラフィック)」:プラットフォームから付与される、おもに単発の有料トラフィック(例:天猫・淘宝等の大手ECプラットフォーム、Weibo、今日头条等)
「私域流量(プライベート・トラフィック)」:長期的に直接ユーザーと接点を持ち、コントロール可能な低コストのトラフィック(例:WeChat公式アカウント・WeChatタイムライン・グループチャット等)

下図が示すように、中国のオンラインにおけるCPA(顧客獲得単価)は、近年ECの成熟とともに高騰している。新榜の統計によると、天猫・淘宝のTOPブランド1%が全体のGMVの約40%に貢献しているという。言い換えると、プラットフォームから「公域流量」を買い続けることのできる体力のある大企業のみが生き残れる構図となっており、中小企業は苦戦を強いられてきた。

図5:オンラインCPA推移(出典:新榜研究院&国信证券经济研究所)

このCVRが低くCPAが高い「公域流量」に依存する従来のマーケティングは、もはや限界を迎えている。そこでキードライバーとなるのが、ユーザーとの信頼関係の上に成り立ち、きめ細かなCRM施策を行うことのできる「私域流量」なのである。

本記事で取り上げる抖音・快手はというと、「公域流量」「私域流量」の両方が融合したプラットフォームであると考えられる。KOLのアカウントはフォロワーとの閉じた関係のなかで長期的な接点を持ち、商品やサービスへのCV誘導も見込める「私域流量」であると言えるだろう。

抖音:中央集権型アルゴリズムと受動的UX

上述のトラフィックの概念を踏まえて、実際に双方のアルゴリズムとUIを考察していきたい。

まず、抖音は独自の機械学習アルゴリズムによるレコメンドに基づいて、ユーザーにおすすめ動画を表示している。プラットフォーム側が良質と判断しエンゲージメント率が高いコンテンツには、一定期間大量のトラフィックが付与されるため、新規ユーザーでもバズを生み出しやすい仕組みとなっている。

また、レコメンドされる動画のクオリティが担保されることに加えて、ユーザーへの負荷が最小限となるシンプルなUI設計になっている。アプリ起動と同時に、全画面でおすすめ動画が再生され、画面を上にスワイプしていくと、次々と動画が切り替わっていく。左にスワイプすると、KOLの個人ページに遷移する。いわば、絶えず流れてくる番組を見ているような、受動的でストレスフリーなユーザー体験を提供しているのである。 

図6:抖音画面遷移図(出典:筆者による抖音APPキャプチャ)

このように、抖音はプラットフォームがトラフィックの多くを掌握しているため、いわゆる「公域流量」に強い中央集権型のメディアであるといえる。商用展開を一層加速していく過程で、この傾向は今後も続くことが予想される。

快手:トラフィックの平等分配と能動的UX 

一方で快手は、プラットフォーム主導のレコメンドよりも、ユーザーによる能動的なフォローに重きを置いたアルゴリズムとなっている。WalktheChat Analysisのデータによれば、快手はアプリ内の「発見」タブであっても、表示される動画のうち、フォロー中のKOLによるコンテンツが40~50%を占めるという。対する抖音の場合、フォロー中のKOLによる動画は10~20%にとどまり、それ以外はすべてプラットフォームによるおすすめ動画である。

トラフィックの分配構造についても、大きな差異が存在する。抖音が良質と判断したコンテンツには、継続的にトラフィックを付与するのに対して、快手は特定の動画のトラフィックが一定水準に達すると、付与の制限がかかる。つまり、TOPのバズコンテンツだけでなく、中間~下層コンテンツにもある意味“平等”に分配されるのである。

快手はアプリを起動すると複数のおすすめ動画が表示され※、ユーザー自身に好みの動画を選択させるUIになっている。別の動画を見る場合、下(もしくは右)にスワイプして退出し、再度動画を選ぶ必要があるため、抖音に比べるとユーザーの操作の負担は大きい。また、KOLからすれば、ユーザーに選んでもらうために動画のサムネイルを工夫する必要がある。
※設定によって、抖音のような全画面表示にすることは可能。 

図7:快手 画面遷移図(出典:筆者による快手APPキャプチャ)

また、動画再生画面で上にスワイプすると、動画は停止状態(いわば主役の不在)でコメント欄が全画面で表示され、フォロー外のユーザーともグループチャットのやり取りができる。対する抖音のコメント欄は動画再生中のポップアップ表示、グループチャットは相互フォローしているユーザー同士のみにとどまる。

トラフィック付与のアルゴリズムやユーザー中心のUI設計から、快手が「コミュニティ」特性を強調していることがうかがえる。抖音と比較すると、よりロイヤリティの高いユーザー同士の関係性を重視した「私域流量」のエコシステムが確立しているといえる。

後編に続く~


参考:
「互联网私域流量行业研究报告」新榜,国信证券 2020年
「直播带货专题研究:电商MCN的新一轮江湖」长江证券 2020年
「抖音和快手最大的区别是什么?」张抗抗的回答 知乎 2020年
「快手记录“世界”,抖音要记录“美好”了 」新京报 2018年


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