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抖音vs快手 徹底比較(後編)

前編では中国のショート動画アプリである抖音・快手のサービスコンセプトやアルゴリズムについて比較しながら解説した。

後編にあたる本記事では、マーケティング活用におけるプラットフォーム特性および最新動向を理解することをゴールとする。

成熟期を迎えるライブコマース

人民日報は4月22日、「直播带货*は消費行動にイノベーションをもたらした」という記事を掲載した。ライブコマース、および動画コマースはもはや中国人の消費と切っても切れない関係にある。
*ライブコマースを通じて商品を販売すること

iResearchによると、2019年のライブコマースの市場規模は14.8億元(約222億円)に到達し、2020年の春節(1月下旬)からコロナウイルスの影響により利用ユーザーが昨年対比で8~10倍となっている。この期間に獲得した新規ユーザーのうち25%が定着すると仮定し保守的に見積もっても、2020年には35億元(≒525億円)規模となる見込みだ。

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特にその影響が顕著なカテゴリのひとつが化粧品であるが、ショート動画に言及しているECサイトの商品レビュー数は、2018年から2019年で約4.7倍となっている。これはショート動画が消費者の購買を促す重要なトリガーとなっていることを意味する。

伝統的なマーケティングに取って代わる、比較的CPAの低い手法として企業に恩恵をもたらしてきた動画・ライブコマースだが、現在新たな成熟期を迎えている。多くの企業が参入する激戦区となっていく過程で、コンテンツや商品に対する消費者の目は肥える一方だ。いわゆる“种草(種まき)”から“拨草(刈り取り)”までの時間が非常に短い”「衝動型消費」から、“种草”のあと一定の比較検討期間を経て“拨草”に至る「理性型消費」へ移行する傾向がみられる。またKOLによる商品選定はより一層シビアになり、強気の姿勢で値引き要求の主導権を握る。

とはいえショート動画・ライブコマースには、伝統的ブランドが数年かけて築き上げた認知や信頼を数か月、あるいはもっと短期間で手にすることのできる側面が確かに存在する。

競合ひしめくEC事業への参入

抖音のEC事業参入は、淘宝や快手と比べると後発である。快手は2016年年初にライブ配信機能をリリースし、翌年2017年にライブコマースを始動。抖音は一歩遅れて2017年11月ライブ配信機能を実装、2018年にライブコマースをスタートしている。

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ライブコマースの遷移先チャネルは、おもに第三者プラットフォーム・ミニプログラム・自社プラットフォームの3つに分類される。第三者プラットフォームでは2社共通して淘宝・天猫・京东と提携している。さらに抖音は唯品会・网易考拉・苏宁、快手は拼多多および有赞・魔筷星选などのSaaSがエクスクルーシブなチャネルとなっている。このうち快手と拼多多はどちらも地方都市のユーザーを主なターゲットとしており、強力なタッグといえるだろう。2社ともに自社ECである「抖音小店」「快手小店」を保有するものの、依然として第三者プラットフォームに売上の多くを依存している状況である。

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しかし、それでは抖音や快手にとって“うまみ”が少ない。2社ともに大手プラットフォームよりも販売コミッションや固定費を抑えることで出店ハードルを下げる動きが目立ち、虎視眈々とEC領域でのマネタイズを強化しようとする野心が見え隠れする。

過去にもこうした“小細工”があった。2019年の年末、快手で一時的に淘宝のリンクが貼れなくなるという事態が発生。また今年の1月には抖音がカート機能付きのショート動画の配信制限を実施している。このような動きについて快手は「システムアップデートによる一時的なもの」、抖音は「ユーザー体験の向上を目的とした調整」と説明しているが、自社EC強化の一環とみる言説も少なからずささやかれた。

フォロワー数≠販売力

KOLのフォロワー数と“带货能力(販売力)”は必ずしも比例しない。動画・ライブコマースを行うKOLのフォロワー数分布では、抖音・快手ともにフォロワー10~100万人のKOLの割合が最大である。この背景にはTOPランクに行けば行くほどKOLの人数が少なくなるヒエラルキーが存在する。そして着目すべきは、抖音のデータにおいてフォロワー0~10万人のKOLの割合が10.25%となっていることである。

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また販売数TOP10にランクインした面々をみても、抖音のTOP1を含む40%、快手の30%がフォロワー数50万人以下のKOLとなっている。

DKOLランキング
KKOLランキング

これらのデータが示すのは、「適切なKOL」が「選び抜かれた商品」を「良質なコンテンツ」を通じて発信するという条件が揃った状況では、フォロワー数に関わらず販売につながり得るということである。

コスパ重視から付加価値重視へ

それでは実際にどのような商品が売れているのだろうか。まず抖音は日用雑貨、食品・飲料、スキンケア、アパレルの4カテゴリがトップ100の約70%を占める。価格帯としては0~50元(≒750円)の割合が最も高く、全体の8割が200元(≒3,000円)以下の商材となっている。そのため200元が衝動買いの一定のボーダーラインとみて良いだろう。ただし抖音では約5,000元(≒7.5万円)の手編みニットなどの手工芸品がランクインすることも多々あり、ユーザーの消費力は高く価格に対する抵抗感は比較的少ないといえる。

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動画・ライブコマース初期と比較すると商品カテゴリの幅は広がっているものの、依然としてすでに業界で一定のポジションを得ている一流ブランドがメインストリームという傾向は否めない。とくに化粧品カテゴリに関しては大手競合ブランドが大量の広告を投下する激戦区のため、商品ページのPVを稼ぐことは可能だが人気商品ランキングにランクインするのは至難の業である。参入する場合はまずKOLの“种草(種まき)”によって認知を拡大することを目的とし、“拨草(刈り取り)”までは一定期間の忍耐への覚悟が必要だろう。

一方快手は農村都市の利用ユーザーが多いこともあり、とにかくコスパや実用性重視であることがデータからも見て取れる。トップカテゴリの傾向は抖音と類似しており、アパレル、日用雑貨、スキンケアがTOP3となっている。ただし抖音ほどトップカテゴリへの集中度は高くなく、人気カテゴリは比較的分散している。価格帯でみると50元(≒750円)以下の商品が全体の6割以上を占め、100元(≒1,500円)以上の商品に至ってはわずか5.57%に留まる。

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快手の“老铁(快手ユーザー同士の呼び名で同胞の意)”はブランドの知名度や商品の口コミよりも、KOLの推薦を信頼する傾向にある。快手の売上トップ商品を分析すると「ブランド」は抖音ほど重要ではなく、ノーブランドや認知の低い商材でも爆発的に売れることがある。言い換えると、現状認知が低い商材にとって比較的参入しやすいプラットフォームなのである。

ライブコマース初期段階においては、セールスポイントはあくまでもコストパフォーマンスというのが実情であった。ただし李佳琦をはじめとする、自身が“スター”としての性質をもつKOLがブランド価値向上に大きく寄与するようになり状況は一変した。今後いかにユーザーの客単価を引き上げることができるかが、抖音と快手の勢力図を占う重要なポイントの1つであるといえるだろう。

「ストーリー型消費」vs「老鉄経済」

ここからは、それぞれの“带货”における戦法の違いを読み解いていきたい。ライブコマースは早い段階から快手の“ドル箱事業”として浸透していた。KOLとフォロワーの関係が強固な快手のコミュニティ特性との親和性が極めて高いためである。卡思数据によるとフォロワー100万人以上のKOLの約9割がライブコマースを行っており、その頻度は平均週5回、1回のライブ時間は平均2時間近くだという。

下図は今年の春節期間前後における、主要動画アプリにおける快手と抖音のライブコマースのトラフィックシェアを示すデータである。今年2月にはコロナウイルスによる外出禁止措置の影響で抖音が前月比4.2ポイント増の28.2%と成長傾向にあるものの、ライブコマースにおいては先行する快手が50.4%と圧倒的なポジションを築いていることが分かる。抖音は有名人やトップKOLを積極的にライブコマースに起用し、大量の「公域流量(パブリック・トラフィック)」を集中的に投下する戦略で追い上げをはかる。

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快手がライブコマースを通じた商品レビューやVlogなど、いわば“正攻法”をメインとして勝負をかけるのに対して、抖音における勝ちパターンと言えるのが「ショートドラマ」と呼ばれるタイプのコンテンツである。ユーザーを引き込む緻密なストーリー性を持たせたショートドラマの中に商品の広告訴求を自然に溶け込ませることによって、“広告っぽさ”を排除しつつも商品を強く印象付け、結果として質の高いユーザー体験を実現する。こういった高クオリティなコンテンツにプラットフォームの「公域流量」が掛け合わさることによって、通常の商品レビュー動画にカート機能をつけた動画よりもはるかに高いCVRが見込める。

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まとめると、独特な“老铁”の信頼関係に支えられた「私域流量(プライベート・トラフィック)」の後押しによって、ライブコマースにおいては快手が優勢である。一方で抖音はユーザーをエンターテイメント体験に引き込むドラマ形式の広告や、有名人を起用したライブコマースに「公域流量」を集中的に投下することで勝ち筋を見出す。

ショート動画アプリのEC参入はアリババの脅威となるか

ここまで抖音と快手を比較してきたが、各社EC事業がまだ手探り状態にあるなかで今後ECの巨頭アリババにとっての脅威となりうるのだろうか。

アリババは当初「淘宝直播(タオバオライブコマース)」の内部で販促と刈り取りを完結させ、外部からの流入を制限する戦略をとっていた。しかしショート動画の活発化を受け「あらゆるサイトで“种草(種まき)”し、アリババ系ECで刈り取る」という戦略に転換している。つまりアリババにとって、抖音と快手はあくまでもトラフィック誘導の手段のひとつに過ぎなかったのである。

もちろんアリババが長年築き上げてきたECのサプライチェーンは短期間では代替不可能だが、淘宝直播と比較しても抖音・快手のコンテンツや強力な独自IPによる集客力は圧倒的に高いといえるだろう。今後淘宝の売上を形成する主要流入元としてショート動画アプリの割合が増え続けることは必至であり、かれらが自社ECに舵を切れば大きな打撃を受けることは想像に難くない。

5月27日には、JDと快手がライブコマース事業における戦略的提携を発表した。これにより快手の「EC化」のさらなる成長加速が見込まれるが、やはりショート動画アプリの首位争いの背後にもアリババとテンセントの影がちらつく。EC市場の勢力図を塗り替えかねない今後の動向に注目したい。


為替レート:1元≒15円
参考:
「2020短视频内容营销趋势白皮书」火星文化,卡思数据 2020年
「互联网私域流量行业研究报告」新榜,国信证券 2020年
「2019年短视频平台数据报告 抖音&快手」面朝 2020年
「快手平台美妆行业营销价值研究」明略科技 2019年
「大风口!直播电商“人货场”趋势解读」东北证券股份有限公司 2020年
「直播带货专题研究:电商MCN的新一轮江湖」长江证券 2020年
「抖音VS快手 30日红人电商研究报告」火星文化,卡思数据 2019年
「抖音正在限制网红带货行为,这是必然的选择」凤凰网 2020年

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