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「熱い風」「月の糸」「実験的に、白とは」(詩)



【熱い風】


いつも甘えてばかりね ごめん
そのやさしく吹くかんじに
だまされているっていうのに
あなたときたら
私の爪を色に沈めて喜ぶの
あぁ 熱い風が行く
その胸に泣いた日々は乾く
あなたの大きすぎた足跡は崩れ
やがて吹きさらされて平らに
もっといっしょにいられたら
草生えて 生きる いつかを目に写せたのに
残念だって
思ってよ
いつか甘えたことを返したら
あぁ 熱い魂を開いて
大丈夫 私が内側から縫い閉じてあげるから
あなたの足あとの中身におりて
今度はもっと深く
あの土と与え合う 散歩を学びにいきましょう


【月の糸】


月の光のつよい光を浴びていると
空気ごと 重力が弱まる気がするよ
知っているあの木にも
見なれている花弁にも
触れると不思議はうつる気がする
小さな蟻なら浮かびそう
でも
あの子はあの子の現実と結びついていて
きっと同じ重さの中で
小さな不思議に共感してる
そうね
月の垂らす幾万の
白い糸に絡まって
夜の褥に埋まりながら
不思議の頬はうずめられている


【実験的に、白とは】

白を維持することは難しい
それと同様に
私を保つことも
また難しい

損なわれることは 嫌だけど
それも私を保つことには
必要なのかも
鳴り続けた鈴は いつか 銅を割ってしまうものだ

または砕けて 土へと
玉は転がるのだと思う
もう縁には戻らないまま

それでも全てを抱えて
私は私を保つため
たくさん食べて(とりたての文字も長く熟した名文も美味しく)
たくさん眠るだろう(深く暗い森の少し湿った空気をまとって)

あなたが流した川も
今は私のものになった
あなたとの思い出のひとつひとつが
きれいに沈んでいったから
この川は流れ続け 私に水を与え続けてしまう

白であることはできない
私が一滴であったから

私は私を保つ
どこまでも(私にとってとっておきの)ありきたりを行く
(つまりは)どこへでも 行く
この地平は(あなたの地平とも連なって)
私を抱いて(色のない猫のように)まるまっている

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