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秋田でデートなう #本当は教えたくないトゥルトゥルの湯

◆はじめに

おばんです!(秋田弁で“こんばんは“の意味)
「カメムシが大量発生した年には大雪が降る」という噂が秋田にはあるのですが、今年は沢山のカメムシを見かけ、大雪が降るのではないかと冬の準備に勤しむ秋田市地域おこし協力隊の重久です。
今回、私がご紹介するのは、秋田市中心部から車で約20分あれば訪れることのできる自然豊かな場所にある「貝の沢温泉」です。秋田市に移住した夫婦を主人公として小説風に書いてみました。主人公になった気分で温泉を楽しんでいただけたら嬉しいです。


◆小説風に秋田の温泉をご紹介!

◇◇◇◇
季節が変わろうとしている。そんな時期の秋田は決まって雨が長く続く。
雨が降っても外出することを億劫に感じていないであろう彼女の気分が、準備の手際良さから読み取れる。
『すごいトロトロのお湯なんだって。もう9時になっちゃう。早くしなくちゃ。』
嬉しそうに彼女は言う。
「別に急がなくても。街中から20分で着くじゃないか。」
『100%源泉かけ流しだし、折角だから朝から楽しみたいの。オープンと同時に駆け込むわ。』
「そんな。混まないから大丈夫だよ。」


秋田にUターンしてきてからというもの、なんとなしに顔付きも柔らかくなった。“秋田に帰って弟と新しく会社をたち上げる”そう告げたときは、生まれ育った都会を離れることに難色を示していたのに、何回か準備で帰るうちに、自分で行きたい場所を探しては連れていけと言うようになって、結局、無事に付いてきてくれた。

“これまで見てきた空は、ビルの合間の小さなスモークスカイだったのに、ここは視界を邪魔することのない360度ビューの空で、片意地張っていた自分がいたことに気が付いたかもしれない。”と、いつだか言っていたっけ。


 秋田市内からおよそ車で20分。市内は市内でも、まるで別世界のような空間に“貝の沢温泉”※はある。市内から宿泊者専用バスも出ているようだが、あちこち寄って帰りたいからとの要望で今回は車にした。
コンパクトシティでもある秋田市は、住宅街を抜けるとすぐに山間部の景色へと移り変わる。車窓から見える景色は紅葉シーズンに入ろうとしており、色づく様子を眺めることが僕たちの生活の“当たり前”となった。

徐々に農村部を抜けたがそれでも到着しないので、若干ナビを疑う。進むのが不安になってくるタイミングで、温泉への案内板が出てきた。視界は100%森林と田畑に囲まれ、黄金色の稲穂が天からの恵みを十分に浴びる様子を横目で楽しみながら、進む。

『なんか、となりのトトロのメイちゃんの家が出てきそうだよね。』
「本当だね、俺も秋田市出身なのにこんなところに温泉あること知らなかったな。」
『知っている地元だと思って調べないからじゃない?有名人もお忍びで来ているらしいよ。』
「どこで調べたのそんなこと。」
『インスタ。』
「若いね。」
……電車と違って、周りを気にせず喋れるのもいい。
 
そうこうして、くだらない会話を楽しんでいるうちに目的地にたどり着いた。

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≪雰囲気ある看板が僕たちを迎え入れてくれた≫


『広い敷地ね~。』
「東京ドームの約8個分あるらしいよ。」
『お庭の散策も楽しめるんだね。まず入りましょう。』

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≪立派な門を抜けると温泉の湯気や匂いが楽しめる≫


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≪趣のある扉は今は懐かしい手動で、なかなか緊張する≫


温泉の香りに誘われるように、歴史を感じる建物の扉をそっと開ける。
「いらっしゃいませ。」

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≪笑みを絶やさない店主のお人柄も、また魅力的だ≫

マスクの奥からでも分かる温和な紳士が僕らを迎え入れてくれた。今回は宿泊コースを予約したのだが、“湯治コース”なる、家庭料理を振る舞ってくださるお得すぎるコースもあるようだ。

「本日のお部屋をご案内します。こちらへどうぞ。」
『趣ある雰囲気ですね。』
「はい、こちらは1980年に建てられており、奥は日帰りのお客様も入浴可能な大浴場へと繋がっております。宿泊棟は2018年8月にリニューアルしました。」


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手入れの届いた広い廊下を抜けると、客間の棟へと続く。
「本日のお部屋でございます。夏になると蛍が飛び交い、それは美しいんですよ。」
『30万人都市の秋田市で蛍が見られるんですか、すごい、私見たことないです。水がきれいな証拠ですね。』
「毎年、6月下旬から7月にかけて楽しむことができますので、是非見にいらしてください。綺麗ですよ。それから、温泉ですが、100%源泉かけ流しの温泉となっております。職員が毎日清掃し、温度62.5度というめったにない高温度質の源泉を夜間にためて翌朝まで自然に冷ましております。時間帯によって温度が異なりますので、そちらも楽しんでいただければ。」

 そう言って、深々と頭を下げ立ち去るご主人の後ろ姿を見送ってから彼女はすかさず言った。
『よし!入ろう!上がったら各自部屋集合で。』

◇◇◇◇


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※写真提供:貝の沢温泉

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≪優しくヴェールを纏うように肌を包み込む≫

味のある脱衣所を抜けると、広い大浴場があり、庭園を一望できるような形になっている。庭園を通り抜けると解放感あふれる露天風呂へと繋がっていた。
 “どれ”と言わんばかりに先にお湯を確かめると、熱めのお湯が冷えた身体を溶かしていくのが感じられた。
 お湯はトロトロとした肌触りで、泉質はナトリウム塩化物泉らしい。つかればすぐに身体の芯から温まり、とろみを帯びた湯で湯上がりはしっとりとし、肌につやがでる。まるで“マイナス10歳肌”になったかのようなお湯だ。
 風呂から上がっても尚、身体は湯冷めすることなく、足先まで温かさが続く。当たり前だが、スーパー銭湯などとは比べ物にならないくらい、良い。

 部屋につくと、彼女は先に上がっていて、夏は蛍が見られるであろう外の景色を楽しんでいた。どうやら、長湯しすぎたようだ。


『なんか時間忘れちゃうよね。館内も静かだし、本とか読みたくなっちゃう。…温泉どうだった?湯上りもしっとりしていて、身体拭いても効果が残っている感じがするね!』
「本当だね、いい湯だった。客間にも別で温泉がついているみたいだよ。そっちも入る?」
『お夕飯後に行こうかな。ところで、庭園散策しに行かない?』
「雨だよ。」
『いいよ、明日も雨だし、折角だから。』

◇◇◇◇

…庭園に出ると、太平山麓に位置するこの温泉園内には、かえでやどうだん、栗が見事に色づき、雨を吸って頭を垂れていた。三十三観音をはじめとした、十二支観音、すりこぎ地蔵堂、七福神などがあり、回遊しながら森林浴を楽しめるようだ。
店主が言っていたのだが、観音菩薩は、どうやら先代が温泉掘削の際に山中より発掘されたらしい。貝の沢温泉自体も、先代が趣味を兼ねてコツコツと開拓していかれたとか。

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≪ほのかに色づく木々を楽しんだ≫

『栗がたくさん落ちてる!これ食べられるの?』
「そうだよ。」
『私、栗の木、初めて見たかもしれない。』
「なかなか東京じゃ見かけないからね。」

僕ら秋田の人間が当たり前に思ってみる景色も、当然のように触れて育ったモノも、そうではないということを彼女の言葉が気づかせてくれる。
『恵まれた環境で育ってきたんだね。』
「そうかな?」
『そうだよ。さっ、沢山歩いたし、ちょっと休憩して、晩御飯だ!』
そう言って、自分から散歩に行くと言い出したくせに、先陣きって先に中に入ってしまって、僕は慌てて追いかけた。

◇◇◇◇


温泉施設には、玄関から大浴場に入る広い廊下に庭園を楽しめるように椅子が置いてあり、その後ろには大広間の休憩所とランチも楽しめる食事処もついている。

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≪どこにいても時間を忘れてゆっくりくつろげる≫

『あぁ~疲れた!というか、ここの温泉は滞在中に別に車で出かけなくても、余暇を過ごせるように工夫してあっていいね~。駐車場から温泉宿の直線しか歩かない、みたいな感じじゃなくて、ちょっと足を延ばしてみようかなと、そんな感じで。』
「そうだね。最近、ワーケーションとかも言われてきているから、温泉入って仕事する。その合間に散策するっていうのもいいよね。」
『確かに。』
そう言うと、彼女は思いついたように部屋に戻り、パソコンを抱えて大広間に腰を据えた。

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『いいね、いいね、気分良くて仕事もはかどりそう!畳でパソコンも良いね。』
自然の音に耳を傾けながら、作業にも集中できそうだ。


「お食事の時間です。お持ちしましょうか?」店主がやってきた。

『あ、お願いします。』
「お願いします。」

そうこうしているうちにあっという間に夕食の時間となった。ここに来てから時計を見ることを忘れている。
◇◇◇◇

 『わ!すごいボリューム!美味しそう。』

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※写真提供:貝の沢温泉

「肉の盛りがまたいいね。」
『地産地消、新鮮にご飯を食べられるってすごいことよ。秋田に来てから、ご飯が美味しくて困っちゃう。さっ、いただきます!』
う、うまい。酒も進みそうだ。
『ひと様が作ってくれたご飯をいただくって、最高だよね!』
「美味しいね。こうなったら湯治コースも気になるね。また来ようか。」
『そうね、落ち着いたら東京から友だちも呼んで、連れて来たいな。ね、見てこれ。さっき店主から見せてもらったんだけれど、冬も良さそうよ。』
そう言いながら、冬景色の写真を見せてくれた。

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≪柔らかい積もる雪に足跡をつけながら温泉へと急ぐのも、またいい。≫ ※写真提供:貝の沢温泉

「おぉ。別世界だね。いつの間にそんな話、宿の人としていたの。」
『行く先々で出会う人とのコミュニケーションも、また想い出よ。いいなぁ。なんか、あんまり人に知られたくないというか、独り占めしたくなっちゃう。』

時間を忘れ、五感で楽しめる貝の沢温泉。次は彼女が里帰りしているときにでも、連泊してみよう。

◆おわりに

いかがでしょうか。秋田の秘湯を想像し、訪れた気分になれたでしょうか。今度は是非、皆さんの足で貝の沢温泉に遊びにいらしてくださいね。

*注*登場人物は架空の人物です。写真の人物と物語の登場人物とは一切関係ありません。
※引用元:Google社「Google マップ、Google Earth」


◆インフォメーション

貝の沢温泉
所在地: 〒010-1106 秋田県秋田市太平山谷長坂66−96
電話: 018-838-3838
HP:https://www.sekiya-akita.com/kainosawa/
Facebook:https://www.facebook.com/kainosawa/
※大広間の利用は有料となります。

【撮影:成田舞子】
Instagram
https://instagram.com/maicolo_kiiro_photo?utm_medium=copy_link

【著:秋田市地域おこし協力隊 重久愛】
Instagram
https://www.instagram.com/yoga_okoshi.akita/


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