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コメディ140字小説まとめ②

【No.738 金塊くじ】
スクラッチくじを100円玉で擦っても削れなかった。なんでも、当選金額以上のものでしか削れないそうだ。試しに100万円の時計で削ると50万円が当たった。やがて、金塊でも削れないスクラッチに僕と店員さんは目を丸くする。「この金塊の価値って?」「今だと500円ですね」

【No.757 やみつき居酒屋】
やみつきキャベツを頼むと、女性店員さんが僕を睨みながら「こんな葉っぱに塩だれをかけただけのおつまみで幸せになっちゃって」と鼻で笑う。変に思い指で隠れたメニューの文字を確認したら『いやみつきキャベツ』と書かれている。不思議と嫌な気持ちにはならず、僕はやみつきになっていた

【No.759 目標の目標】
職場では貴重な休憩時間を使って、月の目標を決める会議が行われる。なかなか良い案が浮かばず、ひとまず『五月の目標を考えるのが四月の目標』になった。五月には六月の目標を、六月には七月の目標を考えるのが目標になり、来月の目標を。来月の目標を。気付けば無意味な時間となっていた。

【No.≠068 機械の手】
目を覚ますと狭い空間にいた。イヌやネコが窮屈そうに閉じ込められている。長い間ここにいるのか、表情を失っていた。透明な壁の向こうでは巨人がにやにやと笑う。上空から機械の手が迫って私を掴む。穴に落とされた瞬間、私は巨人の声を聞いた。「やった! ひよこのぬいぐるみが取れた!」

【No.≠071 ヒヨコの国】
天気予報士が「今日は晴れのちヒヨコです」と告げる。ふと、頭の上に一匹のヒヨコがぶつかった。ぴよぴよ鳴くのを合図に、空から色とりどりのヒヨコ達が降り注ぐ。今では人間よりもヒヨコの数の方が多いくらいだ。ヒヨコ小学校。ヒヨコ遊園地。ヒヨコ株式会社。世界中がヒヨコの国になった。

【No.≠076 鳴き声問題】
「『ンメ〜』これは羊の鳴き声です」「はい」「『メェ〜』これはヤギの鳴き声です」「なるほど」抑揚の位置で見極めればいいのか。「では次に上級問題です。『ンメェ〜』これは誰の鳴き声でしょうか?」「……ヤギ、ですか?」「いいえ。これはおいしい物を食べたおばあちゃんの鳴き声です」

【No.≠085 ひよこのこ】
ヒヨコは初めて目にしたものを親だと思い込む習性があります。ある日、二匹のヒヨコが産まれて、同時に相手の姿を確認しました。すると、お互いの背中をトコトコと必死に追いかけます。円を描くように、その場でぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐ──

【No.767 窮屈な仕事】
求職中の僕にぴったりな仕事が見つかる。高層ビルの清掃は危険だけど、その分お給料も高かった。僕の吸盤を使えば落ちる心配もない。さらさらとした墨は汚れを綺麗にしてくれる。大活躍の僕に上司は「やるじゃねーか、このタコ!」と罵声を浴びせてきた。そんな、せっかくがんばってるのに。

【No.≠099 ねこギター】
河川敷で『ねこギター』を弾く。ねこのヒゲで作られた弦を、肉球型のピックで掻き鳴らせば、にゃにゃーん!と鳴き声が響いた。へたくそな歌声に人は集まらないけど、気付いたらねこの大軍に囲まれていた。にゃにゃーん!僕のギターにふんわりとした合いの手が加わる。かわいいお客さん達だ。

【No.≠103 オンガエシガメ】
罠にかかった亀を助けた晩、道に迷った女性が泊めてほしいと家を訪ねてくる。「お礼をしたいので、絶対に襖を開けないでください」部屋の奥からガタガタと鳴る音が気になって、思わず襖を開けてしまう。すると、大きな甲羅を背負った女性が裏返しになっていた。「……あの、助けてください」

【No.-081 説明書の説明書】
最近のゲームや玩具は遊び方が複雑になってきた。面白さが増した分、操作方法を記した説明書も分厚くなっていく。一目読んだだけでは理解できないため、説明書の説明書が発行されて、それでも難しいから説明書の説明書の説明書が発行される。やがて説明書の説明書の説明書の説明書の説明──

【No.≠119 底推し沼】
女性が底なし沼にはまっていた。「大丈夫ですか?今、助けますから」「いえ、このままで大丈夫です」「え?」もう顔しか出ていない状態なのに。「推し活や二次創作をしていたらいつのまにか沼にいたんですけど、なかなか気持ちよくて」そう言って女性は、幸せそうにズブズブと沈んでいった。

【No.784 ダイエットの心得】
ダイエットには決心が不可欠だ。諦めないという気持ちも必要。最後まで貫く意志も必要。健康的な細さを手に入れるために、無理や我慢をしないことも大切だ。途中で挫けないようにとにかく体力がいる。これは私が自堕落だからじゃない。よぉし、痩せるためにがんばって食べて栄養を蓄えるぞ。

【No.≠143 優良音階】
その不良は指を鳴らすと音階を生み出します。今日は気分が良いのかパキ、ポキと高音が響きます。調子が良いとカエルの合唱を奏でました。けろ、けろ、けろけろけろ。敵の不良も間の抜けた曲を聞くと戦意喪失します。みんなもにこやかな顔になります。街は今日も、不良のおかげで平和でした。

【No.≠148 超上級問題】
『超上級問違い探し』「めめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめ」

【No.787 自己肯定缶】
自己肯定缶が売っていた。千円と高めだけど何事もチャレンジである。なかなか入らないお札に苦戦して、取り出し口に引っかかった缶を意地でも取り出す。プルダブは頑丈で爪が剥がれそうなくらいだ。酷くまずい味にむせながらも飲み干すと、がんばった僕の心は自己肯定感で満たされていった。

【No.793 怠惰の言い訳】
やらなくてはいけないことがあるのに、どうでもいいことに目が向いてしまうのは、出番を待っている物事達が優先順位を争っているからだ。漫画の並び替え、ネットサーフィン、SNSの確認。それぞれが声なき声を発している。無視をするのもかわいそうだから、本当は嫌だけど構ってやるのだ。

【No.797 フレンドパーク】
ダーツゲームに挑戦する。景品のパジェロに目が眩んだけど、その国ではタワシが最高級品らしい。観客も「タ・ワ・シ!」と盛り上がる。僕の投げた矢は見事タワシ一個のパネルに刺さった。「今やタワシはパジェロを売っても百個しか買えないですからね」じゃあパジェロでよかったじゃないか。

【No.-143 目的地案内人】
人助けの仕事に向かう。四六時中、国内外を問わず駆け巡るにはスタミナが必要だ。二人一組の作業で、負担になる方は先輩である僕が担う。大きなピンを持って、後輩の立つ位置から指定の場所まで全速力で辿り着く。ピン同士の間に張られたテープの色を頼りに、迷子を目的地まで案内するのだ。

【No.-149 寝正月】
年越しカウントダウンに大勢の人が集まる。「3、2、1──」だけど、いくら待っても新年を迎えることはなかった。年末が繰り返されてから三日後、国中に緊急速報が流れる。「寝正月が目を覚ましたようです!今、この瞬間から1月4日になりますので、急いで平日の準備を始めてください!」

【No.824 無形文化遊具】
親父には駄洒落を現実にする力がある。いつもは発言に気をつけているけど、寝ぼけながら「太陽にぶつかって痛いよう」と呟く。瞬間、太陽が近付いて体中に痛むような熱が生まれた。慌てて起きた親父が叫ぶ。「そ、そんなシャレはやめなシャレ!」接近は止まり、親父の不思議な力は失われた。

【No.829 決着の3歩目】
おいしいのはフライドチキンか卵かけご飯か、ニワトリとヒヨコが揉めていた。飼育小屋の中で決闘になった2匹を大勢のハトが見守る。背中合わせに3歩進んだら、お互いの方を向いて毛弾を飛ばす。「1…2…」ハト達が息を呑む。「3!」勢いよく振り返り、相手の頭を狙って──「?」「?」

【No.-170 煙言葉】
「本を読んでもよろしいですか?」「どうぞ。一日に何冊お読みに?」「二冊ですね」「読書年数は?」「三十年ですね」「ところであそこに文学賞を取った本がありますね」「ありますね」「もしあなたが読書の時間を執筆に充てていたら、あれくらい書けたんですよ」「あれは私の小説ですけど」

【No.-176 格付の街(正しい街の破片⑥)】
街に着くなり二種類のウェルカムドリンクが振る舞われる。どちらが高級だったかAとBの部屋に入って、間違えるとおもてなしのランクが落ちていく。世界中の料理、社交ダンス、鼓笛隊の演奏。二択を外し続けると、最後には偉い人が怒鳴り出す。「滞在する価値なし!」私は街を追い出された。

【No.-182 作法の街(正しい街の破片⑫)】
役場で出されたお茶を飲むと係員に怒られる。作法を何回かミスすると街を追い出されるそうだ。滞在許可証にハンコが必要なときは、お辞儀するように押さないといけない。役場を出ると中年達が這い蹲っていた。名刺は相手が差し出した位置よりも、低く渡すのがマナーだからこうなったという。

【No.858 不必要な間合い】
『袋いりませんの間合い』をついに極める。買い物カゴを置いて、商品がレジを通るのを真剣に見つめた。空っぽになった瞬間「袋いりません」と断りを入れる。タイミングは完璧だ。これで確認の手間を取らせることもないだろう。ふいに店員さんが口を開く。「ポイントカードはお持ちですか?」

【No.859 夕陽に向かって】
失恋した悲しさを紛らわすため、僕は夕陽に向かって「バカヤロー!」と叫ぶ。怒ったのか橙色だった夕陽が真っ赤に染まっていく。次第にこちらへ迫ってきて、灼熱の痛みに思わず「ごめんなさい!」と声を上げる。やがて、夕陽がいそいそと海に沈んでいく。波音が悲しそうな泣き声に聞こえた。

【No.861 中二猫】
吾輩は猫である。名前はMurder Night(マーダーナイト)だ。初めて膝の上に乗って人間をキュン死させた夜から、野良猫達にかわいさの化け物。キュートモンスターと呼ばれ恐れられている。マタタビの力を封印した右脚が疼く。きっと誰かが吾輩の噂を「あっ。タマにノミが付いてる!」

【No.865 りんごかじり】
りんごをかじるだけのバイトを始める。高収入だけど求める条件はすごく厳しい。歯並びが綺麗なこと。一口が多くもなく少なくもないこと。最低でも千個以上はかじること。気持ち悪くなりながらも次の作業場に運ぶ。職人がスマホの裏側に押し込むと、食べかけのりんごか小さくプリントされた。

【No.871 昆虫戦争】
苦手な虫を克服するために虫語を覚えたものの、四方八方から声が聞こえて嫌になる。無視すると怒った虫達が迫ってきた。「こっちだよ!」捕食される瞬間、黒に蠢く虫が僕を誘導する。「よかったね!」羽音を立てて嬉しそうに近付く命の恩虫を、申し訳ないけど落ちている新聞紙で叩き潰した。

No.903 幸せの勘違い
「今、幸せ?」美容院のお兄さんからふいに訊ねられる。鏡を見ても彼はのんびりと髪を梳いてるだけだ。確かに私は惰性的な日々を過ごしているのかもしれない。それでも大好きなお兄さんといる時間が、指にふれている瞬間が私にとっての特別だ。「はい。しあわ、」「いらっしゃーせー」「あ」

【No.-211 食材の声】
私は食材の声を聞くことができた。初めこそ楽しかったけど、仲良くなった野菜達は調理するのが憚られるし、ご飯をよそえばお米達が「たった一粒の妹だったのに…」と涙を、いや、でんぷんを流すから食べにくい。プリンに愚痴をこぼしながら「僕でも食べて元気を出しなよ」のお言葉に甘える。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652