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言語140字小説まとめ④

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【No.922 煙る感覚】
音に触覚を感じたり、匂いに形を覚えたり、文字に色が見えたりすることを共感覚と呼ぶらしい。昔から憧れてた僕も、大人になってから別の感覚が伴う。3ならアメスピ、86ならメビウス、105ならセブンスターといった具合に。数字を見るとタバコの銘柄が思い浮かぶようになってしまった。

【No.-218 花曇り】
花農家の私達は声の代わりに花言葉で想いを交わし合っていた。けれど、一つの花にいくつもの意味があるせいですれ違ってしまったのだろう。花言葉なんて誰かが作った勝手な祈りだ。私達もそれに倣う。最後の共同作業として、新品種の花に「貴方と出会わなきゃよかった」という願いを込めた。

【No.-219 信葉】
「信じたからな」が親父の口癖だった。夢を言い訳に大学を辞めたときも、一人暮らしは楽しいか聞かれたときも、言葉を濁す俺に頷いてくれたのに。『親だから』という信頼が鬱陶しくて、あの日は感情的になっただけなんだって。だから「死ねよクソ親父」なんて冗談、信じてほしくなかったよ。

【No.-220 クオリア】
「私だって少しくらい過去を見世物にして、オイシイ状態になったっていいじゃないか」彼女の台詞からも、表情からも、それが真実であることは容易く想像できた。同時に昏い傷を雨曝しにして、創作を穢すことが許せないようにも感じた。彼女の書く物語が、どうか、未練とならないように祈る。

【No.-238 さやかな、ささやか。】
「『さやかな』と『ささやか』って、言葉は似てるのに意味は正反対なのね」彼女が夜空を見ながら話す。「『サイレン』と『サイレント』もか」そう思うと不思議な気分だ。「あ、流れ星」ささやかな時間に、さやかな光が降り注ぐ。僕達の日々だって似てるけど、退屈とは程遠いのかもしれない。

【No.-241 想い編む】
半年に一度、人類は選んだ一つ以外の言葉を忘れてしまう。その度に僕は恋を、彼女は愛をお互いに教え合う。好きだから一緒にいるのが恋で、嫌いだけど一緒にいたいのが愛だそうだ。言葉足らずで傷付けてしまうかもしれない。でも、思い出せるならきっと僕達は大丈夫なはず。

【No.≠210 夢ひさぎ】
小説家になる夢を捨てきれずに、故郷から逃げ出した僕の元に母から手紙が届く。挫折してもすぐに帰れると思っていた故郷が遠くに感じた。あの日から数年、手紙は読むことができずにいる。何か不幸があったのかと思うと母を言い訳に、中途半端な夢を諦めてしまいそうになるのが怖かったのだ。

【No.≠214 エンプティー】
小説家としての人気が落ちてきた頃、不幸話をエサにして、暴露本で炎上を狙って、夢もプライドも捨ててどうにか知名度を保つ。誰かを蹴落としても、誰かに恨まれても、有名になれるならそれで良かった。不安で濁っていた視界が澄み渡る。そのくせ、鏡に映る僕は随分と薄汚れてしまっていた。

【No.≠219 涙花】
感情的に娘を叱ってしまい布団に塞ぎ込む。いつのまに眠っていたのか、目を覚ますと折り紙のチューリップが置かれていた。拙い文字で『まま、ごめんね』と書かれた紙を見つけて身勝手にも胸が痛む。娘を叩いた手で、娘の折った花を撫でる。ふいに溢れた涙が、鮮やかなチューリップに流れた。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652