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青春140字小説まとめ③

【No.790 ルックバック】
仕事を終えて電車に乗り込む。携帯から目を逸らすと窓に夕陽が映った。思えば私が高校生のとき、画面ばかり夢中になって、彼に手を引かれながら歩
いていたっけ。だから、不注意な私の代わりに彼は亡くなってしまったのだ。携帯を閉じる。目の前の青春より大事なものってなんだったんだろう。

【No.792 星の降る夜】
ベランダにお揃いのマグカップを用意して、ふたご座流星群を双子の妹と眺める。互いの手が冷えないように、手を繋ぎながら夜空を仰いだ。「流れ星が見えなくても、お願いしたら叶うかもね」けたけたと笑いながら、妹の瞳から涙が流れる。気付かれないように、そっと、僕達の行く末を祈った。

【No.-142 レンタル彼女】
レンタル彼女の常連になっていた。料金は固定ではなく、選んだ女の子によって変わる。無邪気で、料理がおいしく、少し臆病な僕の彼女は最安値だった。楽しい時間を、涙が溢れるほどの幸せを与えてくれるのに。機械人形にレンタルした命を埋め込む。見た目以外は、亡くなった彼女そのものだ。

【No.-154 恵方に進む】
お皿を用意しながら、彼女が「恵方巻きは『ええ方マーク』が由来なのよ」と豆知識を披露する。日本発祥の文化に英語は使わないだろと茶化せば、気まずさをごまかすためなのか恵方巻きにかぶりつく。無言で食べ切れば願いが叶うという言葉を信じて。僕達の素晴らしき行く末よ、南南東へ進め。

【No.-156 恋の一手】
高校の帰り道、幼なじみが急にグリコじゃんけんを始める。グーかパーしか出さないので僕の圧勝だった。けれど、ポケットから覗く小箱に気付いてとっさにパーを出す。チョキで勝った彼女が「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト!」と頬を染める。あと、数歩の距離感。次に出す僕の手はもう決まっていた。

【No.-162 恋の一口】
「ドーナツのまんなかをくり抜いたら鈴かすてらになるんだよ」バレンタインのお返しに、幼なじみから手作りの鈴かすてらをもらう。「二つが合わさったらあんぱんになるんだ」今はまだ微妙な距離感だけど、いつか、一緒になれることを信じて。ドーナツみたいに甘い、彼の片割れを口に含んだ。

【No.-163 まっさらな虹】
日々のやるせなさと、しがらみが光って宙を舞う。将来をテーマに作文を書きながら、足下に落ちた消しゴムを拾うと最高のボロボロ靴が視界に映る。「夢はいつか本当になる」って誰かが歌っていた。悔し涙に目が霞み、だけど前を向く。ポケットの中に隠した夢から、蕾がいつか花ひらくように。

【No.-236 しによん!】
彼女のお団子頭がチョコミントアイスになっていた。どうやら食べたもので変わるらしい。エスカルゴなら紫陽花、おにぎりならサッカーボールといった具合に。疲れた顔で就活に向かう前、彼女がポンポンに変わった髪を揺らして応援してくれる。そういえば、昨日の夕ご飯はトンカツだったっけ。

【No.-237 青春を描く】
砂浜にイーゼルを置いて、キャンバス代わりの海を眺めた。修学旅行中の高校生のために『青春』を描く。水彩絵の具でさざ波を、雲形定規で入道雲を現実に生み出す。どこかで風鈴が鳴った。私自身が美しくなくても、私の描いた物語が誰かの光になれたら。そう信じて、今日もまた絵筆をふるう。

【No.≠156 夢うつつ】
高校最後の夏、彼が深い眠りについてから数十年が経ちました。時の流れまで止まったのか、少年の姿から成長することはありません。今日も一人で夜と朝の狭間をまどろみます。夢の中の彼は私と同じ老人の姿をしていました。「過ぎ去った青春だ」と笑っています。夢だとは承知です。夢だとは、

【No.≠163 深海症状】
観光名所となったダムに訪れる。数十年が経った今では、そこが集落だったなんて誰も知る由がないだろう。「君と過ごした場所で生きていくんだ」彼は退去要請に応じることなく故郷に住み続けた。命を捧げた彼の声が、放流に紛れて聞こえてくる。私の叶わない恋も、青春も、水底に沈んだのだ。

【No.≠165 記憶の花】
ずっと目覚めないあなたの為に、今日もシロツメクサを摘んでは花冠を作ります。やがて、何度目の春が過ぎたでしょうか。頬を撫でる私の手にあなたの涙が落ちました。「もういいんだよ」という、あなたの声が聞こえた気がします。私自身に言い聞かせるように。病床に伏せた、あなたの声が──

【No.≠166 花の記憶】
目を覚ますことはないけれど、確かに意識はあった。シロツメクサの花冠をくれた彼女は、何年も、何十年も、いくつもの季節が過ぎる間、ずっと僕の病室を訪れてくれた。僕の頬に彼女の手が触れる。「もういいんだよ」と涙を流すことしかできない僕を、どうか、最期の日まで許さないでほしい。

【No.≠170 波うつつ】
人魚が岩陰に身を寄せながら、小さな女の子に語りかけています。「私も昔は人間だったのよ。学生の頃は先生のことが好きだったけど、身分違いの恋だから諦めるしかなかったのね。だから、先生の側へと駆け出さないように、声を出して泣かないように、魔女にお願いして人魚にしてもらったの」

【No.≠182 秋の甘さ】
好きな男の子が京都旅行から帰ってきた。お土産にもらったもみじの天ぷらは、塩漬けした葉っぱに、ゴマが入った衣をつけて揚げた伝統的なお菓子らしい。口に含めばやさしい甘さと香りが広がる。叶いっこない恋のような味だなんて。喉の奥に堰き止めている、彼への気持ちが溢れそうになった。

【No.≠183 春の病】
大学の卒業式が終わり、親しくしてくれた先輩達の姿を見つける。新たな旅立ちを祝福するべきなのに、なぜか私の心は騒がしく唸って輪に入れずにいた。声をかけず遠くから様子を眺める。一歩前に出そうとしたその足が、桜の花びらを踏まないように。誰に対して言い訳してるのかもわからずに。

【No.≠185 花冷え】
成人式が終わってから、タイムカプセルを掘り出すために小学校を訪れる。僕を好きだと言ってくれた女の子には、控えめな面影なんて残っていなかった。茶髪で、ピアスを開けて、子どもを連れている。女の子の気持ちはもうわからないけれど、梅の花を眺める横顔が、とても、とても美しかった。

【No.≠191 愛し芽吹く】
部活のメンバーや同級生達に、私が彼を好きだという噂が立っているらしい。ただの幼なじみなのに、勝手なことを言われて意識してしまう。私は彼の顔も、歩き方も、性格も、食べ方も、趣味も、人生観も、寝相も、話し方も、夢も、思い出も、昔から何もかも嫌いだ。……嫌い、だったのになぁ。

【No.≠204 ボイジャーレコード】
この世界では思いを声にした瞬間、記憶から言葉を失ってしまう。愛の告白も、出会いの称賛も、別れの挨拶も交わすことは叶わなくなる。それでも、君はまっすぐ「好き」と言ってくれた。きっと、君の、気持ち、きらきら、消えちゃうのに。口を開く。私も、最後の「好き」を最後の人に捧げた。

【No.808 星を編む】
寒さに震えながらも彼女は星を編む。夜空に浮かぶ星達を糸で結べば星座の出来上がりだ。かみのけ座は適当に考えたのか聞くと、あれは最初期の作品だからと頬を膨らませた。彼女の手が弧を描く。銀河のキャンバスを彩る。過去と未来を繋げたら、未だに形のない僕も光ることはできるだろうか。

【No.826 白叙伝】
若くして活躍しているのを羨ましいと思わないが、若い内から同じ分野に触れていたことは羨ましく思う。もっと早く関わっていれば、もっと先に知っていれば。好きなものに多く向き合ってきた事実が何より悔しかった。嫉妬も、叱責も、失望も糧にして。今、白紙だった僕の0ページ目を始める。

【No.828 四色問題】
兄に忘れたお弁当箱を届けると、幼なじみの先輩を見つける。最後列の左端。教室は違うけど私の隣の席だった。あと一年、私の誕生日が早かったら。あと一年、先輩の誕生日が遅かったら。私達は隣同士の席になっていたのかな。家も、クラスも、関係も、隣じゃなくて一緒だったらいいのに。

【No.844 美しい鰭】
療養中の僕のために、友人達がカーテンを買ってきてくれた。マリンブルーの生地に貝殻模様があしらわれている。カーテンを開ければ窓の外に砂浜と青い海が広がった。いつかもう一度、また光の下を歩けるように願いながら。風でカーテンがなびく。波を泳ぐように揺れる裾が美しい鰭に見えた。

【No.846 こい妬き】
たい焼きは頭から食べるか尻尾から食べるか、フードコートで真剣に話してる高校生のカップルがいた。初めは喧嘩していたのに、やがて頭と頭、尻尾と尻尾を組み合わせた最強たい焼きを生み出す。そんな愉快なやりとりを疎ましく思いながら、私は一人で寂しくたこ焼きを頬張るのだ。あちちっ。

【No.850 編纂式】
彼の遺品整理を手伝っていると、古い辞書が目に入る。何度も確かめたのか、よれた紙の『青春』の単語には、蛍光ペンで線が引かれていた。後悔をなぞるように、指で触れるとインクが滲む。随分くすんでしまった色の青春だ。この感情を表す言葉は、あと、何ページめくれば見つかるのだろうか。

【No.851 サークルゲーム】
同級生の女の子は、図書室で借りた本にこっそりと自作の帯を巻く。歴史、星座図鑑、ホラーと多種多様なジャンルを好むのに、恋愛物だけは想像できないから苦手だと話す。いつか、自作の帯を作ってもらうために。僕は女の子をモチーフにした小説を、今日も授業中にひっそりと書き進めるのだ。

【No.864 青春賛夏】
高校生になれば、自動で青春が始まると思っていた。部活も、恋愛も、将来も、大人達が思うような眩しさだけではないし、赤の他人が羨むほど適当に生きているわけでもない。だから、私の手で青春とやらを灯すのだ。「花火、買ったんだけどさ」幼なじみの男の子に話しかける。夏が騒ぎ出した。

【No.881 デザートデイズ】
ファミレスで店員さんが大盛のハンバーグを太った私に、苺パフェを小柄な女友達の前に置く。見た目的にはそう思うのが普通だろう。落ち込む私をよそに、若鶏のグリルを「これ、私が食べます!」と大声で頼む。女友達が私を見て悪戯っぽく笑った。一口、苺パフェを含めば甘酸っぱさが広がる。

【No.901 記念撮影】
カメラを構えると彼女は不機嫌になる。気分転換に『はい、チーズ!』の由来は、撮影者が「配置、良いっす!」と褒め、思わずにっこりしたのが始まりという雑学を披露する。「嘘だけどね」「なにそれ」呆れながらも、少しだけ口角が上がるのを見逃さない。彼女のほほえむ姿を、写真に収める。

【No.904 恋るつぼ】
サラダを取り分けると褒められたけど、野菜嫌いだから私の量を減らしたいだけだ。なのに、男の子は「もっと食べれば?」と勝手によそう。空気が読めない癖に、左利きの私を左端に座らせたり、飲めないお酒をソフトドリンクに変えたり。私の気も知らないで、そういうところが全部……嫌いだ。

【No.908 夜紛い】
目が見えない彼女のために点字の勉強をしている。思えば、指先で言葉を感じるなんて不思議な体験だ。モールス信号、手話、背中になぞる文字。声以外に気持ちを伝える方法があることを幸せに思う。人差し指で不器用にも机を叩く。ツーツーツートンツー、ツートンツートンツー。彼女が笑った。

【No.924 感情連理】
人は一生で笑う時間より泣いている時間の方が圧倒的に長いらしい。今がどんなに幸せでも、どうせ悲しいことが多いから毎日を楽しめなくなってしまった。「でも、嬉し泣きもあるから不利じゃん」彼がよくわからない文句を垂れる。「そういう問題?」切った玉ねぎに涙を流しながら、少し笑う。

【No.925 晩年】
「玄冬、青春、朱夏、白秋と言って、人生を四季に当てはめた考え方があるそうよ。まるで、出世魚みたいね」金婚式を迎えても慎ましく、ブリの照り焼きを食べながら妻が微笑む。齢八十にも満たない若造の僕らは、今、どの季節にいるのだろう。記憶や、髪の色が、例え白くなっても。お前と――

【No.930 星をめぐる】
私と彼女で人生初のスタバに訪れる。「抹茶、イチゴクリーム、フラペチーノ、トールで」注文を間違えないように何度も呟く姿が愛おしかった。「飲み切れないから」を言い訳に、一本のストローで分け合う飲み物は甘酸っぱく、どこかほろ苦い。この緊張は慣れない雰囲気のせいか。それとも――

【No.-172 残響の街(正しい街の破片②)】
誰もいないはずの路地から会話が聞こえてくる。驚く私に老夫婦のおばあさんが『この街は声が遅れて届くのです』と紙にペンを走らせた。そのとき――「ジジイになってもお前のこと好きだからな!」どこからか無邪気な男の子の声が響く。咳払いを一つして、おじいさんが恥ずかしそうに笑った。

【No.-173 色災の街(正しい街の破片③)】
街に足を踏み入れた瞬間、私のつま先から色が失われていく。古い写真のようにモノクロになった体と景色を眺める。過去に色の大洪水が街を襲ったそうだ。身を寄せ合い、少しずつ色を取り戻しながら復興を目指す。目の色も、肌の色も、この街では等しく。そこに人種や国境なんて関係なかった。

【No.-174 浮力の街(正しい街の破片④)】
浮力の街では気持ちが浮つくと、重力を失って空に放り出されてしまう。全ての生活を施設内で完結できるように、外には娯楽と呼べるものがなかった。それでも、地上から離れるのを厭わない高校生のカップルを見つめる。幸せそうに飛び立つ二人に向かって、伸ばした両手の行く末がさまよった。

【No.-204 フラワーウォール】
育ての母は私を「ひまわり畑で拾った」と話す。血の繋がらない妹の向日葵も似た笑顔が、私には眩しくてつい日陰に隠れてしまう。それでも、白菊みたいな細い腕を、妹が褒めてくれたから少しだけ楽になれた。今は花霞の向こうに消えてしまったけど。祈るように、また、夏の匂いを閉じ込める。

【No.-215 ゆめいっぱい】
「ちびまる子ちゃんの食卓を囲む場面って、いつも一人足りない気がする」日曜の夜にアニメを観ながら彼女が呟く。幼少の頃から側にあった光景だから、自分も家族になった気分なのだろう。幸せそうにご飯を食べる姿を見てお腹が減る。憂鬱な月曜日も笑うために。手を合わせて、いただきます。

【No.-216 ありあまる富】
一緒に買ったペアリングを眺める。同じ趣味で付き合ったなら、接点を失えば終わってしまうのだろうか。それでも人生は、続く。不安を振り払うように、二つの指輪を重ねて永遠を象った。ぽんこつな魂だって、青臭くもなれない赤い春だって、自分にとってはありあまる富だ。どうか、良い旅を。

【No.-226 恋慕喫茶】
大学の後輩に告白するため高級喫茶店に訪れる。この緊張は大正浪漫あふれる内装のせいだろう。「僕と付き合ってください」嫌いなコーヒーを飲む手が震えた。後輩がカップに角砂糖を落とす。「苦さも、パンケーキも、不安も半分こ」声が上擦る。「幸せも、お会計も半分こです」優しく笑った。

【No.-235 恋琴術】
高校の修学旅行で沖縄に訪れる。泳げないので砂浜で休んでいると、委員長が頬にペットボトルを当ててきた。「炭酸、苦手なんだけどな」「知ってるよ」いつもは暗い表情なのに、熱に浮かされてか意地悪く笑う。体が火照る。海がさざめく。嫌いだった夏から、彼女が恋とキラキラを生み出した。

【No.≠229 ラピッドダンス】
文化祭で僕達のクラスは創作ダンスをすることになった。誰もセンターをやりたがらないのに、内気で、長い前髪のせいで表情が見えない女の子が手を上げる。みんなは驚いていたけど僕だけは知っていた。放課後の教室で踊る女の子の澄んだ月のような瞳と、結った髪から覗く笑顔が美しいことを。

【No.≠236 光の破片】
当たって砕けろの精神で挑んだ結果、私は見事に振られてしまう。傷心しながら浜辺を眺めていると海に三日月が映る。その様子が光の破片にも感じた。私と同じように、月も太陽に告白して砕けたのだろうか。彼を思い出しては涙が伝って、惑うような波形を生み出す。半分の月が瞳に映り込んだ。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652