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140字小説 No.≠151‐155

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【No.≠151 待ち人知らず】
紅葉を踏み鳴らしながら、私は無人駅で飼い主様の迎えを待っています。お手製の待合室は草の網目が荒いので、夜露が体に染み込みます。「冬を越えて、春を過ぎる前には必ず戻ってくるからね」あれから何年が経ったのでしょうか。飼い主様はまだ訪れません。私の被毛は涙で濡れるばかりです。

【No.≠152 残夏】
社会人になって数年が経つ。実家に干されていた夏服が、職場へと向かう私を見送ることはなくなった。代わりに、黒いスーツが記憶の中の白い夏服をより映えさせる。ふいに、もう子どもじゃないことを思い知らされた。どこかで蝉が鳴く。季節も、人生も、いつのまにか春を過ぎてしまっていた。

【No.≠153 夜ひさぎ】
月が大接近してから、少しずつ夜が長くなりました。今では朝が訪れることはありません。満ち引きの影響なのか、人類は眠りの淵へと沈んでいきました。彼が目覚めなくなってから、どれほどの時間が経ったのでしょう。夜明けの来ない世界で、今日も私は、瞳を閉じることに怯えるのでしょうか。

【No.≠154 白を凪ぐ】
苦しいことや辛いことがある度に、私は観光地の海岸へと赴く。さざ波の立つ気持ちで見つめる海の方が、おだやかに、透明に感じるのはどうしてだろうか。遠くの島に佇む灯台を覆い隠すように、雪がしんしんと降り積もる。溶けた水が海に流れて、空に還って、私の心と足下をやさしく濡らした。

【No.≠155 声の行先】
ひと夏の恋なんて呼べば聞こえは良いだろう。実際は欲に身を任せただけである。持て余した命を抱えて山へと踏み入った。あれから数年後、罪を償うために山を歩いていると、鹿の鳴き声が彼方から聞こえてくる。その度に悲しそうな誰かの泣き声と重なって、身勝手にも私の心は苦しくなるのだ。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652