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ホラー140字小説まとめ③

【No.804 消えない願い】
消しゴムの箱に気になる人の名前を書いて、誰にも知られず使い切ることができれば願いが叶うそうだ。噂を聞いてから僕は、クラスで人気な女の子の名前を書いた。消しゴムが小さくなるほどに鼓動が高鳴っていく。目が合うと思わず笑みが溢れた。いつか、嫌いなあいつの存在も消えると信じて。

【No.811 成長を辿る】
久しぶりに帰省すると、縁柱に身長計代わりの傷を見つける。僕のではない。下から順に刻まれた跡は十歳、九歳、八歳と若返っていく。おかしい。普通、逆じゃないか。これではまるで──幼い頃、誰かに遊んでもらった記憶と、いつのまにか僕に弟がいたことは、まぁ、関係のない話なのだろう。

【No.835 プラナリア(露天帳簿⑥)】
仕事が嫌になって俯いていると、露天商のお姉さんが僕のクローンを売っていた。代わりにこいつを出勤させてやろう。後日、街には僕のクローンが何体も溢れていた。慌てて露天商の元へ向かうと僕が僕を買っている。「『自分の代わりに仕事してもらおう』という思考は、クローンも同じですよ」

【No.839 ブロックノイズ】
祖母がテレビの砂嵐を見つめて、真夜中に手を叩きながら笑っていた。振り向くと母が虚ろな目をして立っている。「おばあちゃんはもういないのよ」うわ言のように話すそれは、一体どういう意味なのだろう。濁った目の祖母がゆっくりと振り向く。「お前に子どもはいないんだよ」画面が乱れた。

【No.843 命風船(露天帳簿⑦)】
露天商のお兄さんからバルーンアートキットを購入する。息を吹き込むと人型に膨らんで、代わりに私の四肢が萎んでいく。寄生されたように空気を送り続けると、やがて風船に命が宿った。軋む音が嘲笑う声に聞こえる。薄れゆく意識の中、風船に向かって爪を立てる。破裂音と共に私の、体が──

【No.848 リペアレプリカ】
『人類の繁栄と衰退展』に訪れる。学芸員に案内されながら館内を回ると、額縁や台座には何も飾られていなかった。「ご存知の通り人類は滅びましたが、その原因としましては──」機械人形の瞳が揺れる。ガラスケースの向こう側で、顔の崩れた聖母マリアとキリストの絵がこちらを覗いていた。

【No.-175 退行の街(正しい街の破片⑤)】
小学校のチャイムが鳴り響く。駄菓子屋、塩素の匂い、ラジオ体操。どこか懐かしさを覚える。大人はいないのか、街は子供で溢れていた。景色が遠のく。きづけば私のからだがちいさくなっていた。こども達がてまねきする。はやくここからにげないと。わたしはよちよちとつぎのまちにむかった。

【No.-177 疑声の街(正しい街の破片⑦)】
蝉の声、祭囃子の喧騒、花火の音。「楽しんでいってくださいね」「……ありがとうございます」会話を交わす度に眩暈を起こしそうになる。猫の鳴き声や工事音には辟易していた。辺りを見回しても街は更地だというのに、私は誰と話していたというのか。まるで音だけが生活しているようだった。

【No.-180 複製の街(正しい街の破片⑩)】
見た目が同じ人間で溢れ返っていた。向こうから『私』がやって来る。いわく、本物を失ってもいいように複製を作る義務があるという。生命も、建物も、街自体も。複製が複製を作り出し、複製の複製が複製を作る。自分が本物なのか猜疑心が生まれて、確かめるために命を絶った者も多いそうだ。

【No.855 なめくじさい】
いつも明るい女の子が、最近は虚ろな目で性格もジメジメしている。ロングだった髪型は団子頭に変わって、よく見れば赤と青の紫陽花だった。遊びに来た女の子に塩を振ったスイカを差し出すと、一口食べた瞬間に体が縮んで倒れ込む。やがて、紫陽花から無数のナメクジがぼたぼたと落ちていく。

【No.863 虚し出す】
友人から怪談話を聞く。「“それ”の姿は肉眼で見ると変わらないのに、鏡に映すと違和感があってさ」床には鏡が置かれている。「目や口は普通なのに、耳と鼻はどこか少しだけおかしいんだよ」友人が“それ”を取り出して鏡の前に置くと、紙に書かれた『耳』と『鼻』の漢字が左右非対称に映った。

【No.885 幽か佇む】
友人の話では同僚が、病室の窓越しから高校を睨む老婆を見るらしい。ただ、その場所はもう廃病院になっているし、誰に聞いても同僚のことを知らないと話す。信じがたい話だけど友人の姿は僕にしか見えておらず、まぁ、そういった不可解なことだってあるのだろう。と、廃校から老婆を眺める。

【No.889 損属】
大切か。と聞かれたら蔑ろにした方だし、愛おしいか。と言われたら首を横に振る。それでも交通事故で亡くなった母を蘇らせるのは、もう一度会いたい気持ちがあるからだ。勝手に死ぬな。気まずそうに笑う母と、不格好に抱き合う。僕の握るナイフが母の腹部に刺さる。やっと自分の手で殺せた。

【No.-229 少女琥珀】
少女琥珀展を鑑賞する。琥珀糖で模した少女は色鮮やかで、気味の悪いほど生々しかった。怒っている少女は赤、泣いている少女は青。幸せそうな少女は緑。感情が、命が、不透明な体に混ざっている気がした。会場を満たす甘い香りが饐えていく。そういえば、最近は行方不明者のニュースが多い。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652