見出し画像

140字小説 No.≠221‐225

タイトルからツイッターで載せた作品に飛ぶことができます。
お気に入りの作品にいいね、RT、感想などしてもらえると幸いです。

【No.≠221 夕融け】
夕方になると街は数年から数十年前の姿に戻る。今日は私が生まれる前の時代だから、知らない街並を散歩できて嬉しい。今は商業ビルに変わった駄菓子屋。廃校になっていない小学校。思い出の間違い探しみたいだ。いずれ私の家が建つ田んぼの前でぼぅっとしていると、秋風が私の体を揺らした。

【No.≠222 ミナレ】
大学の演劇部で合宿に訪れる。海が苦手な私は砂城作りに勤しんでいた。「泳がないの?」男の子が興味なさそうに聞くと、他の子に名前を呼ばれて去っていく。伸ばした掌が汚れていて、思わず引っ込めた瞬間、強風に飛ばされた砂が目に入る。涙が流れたのは痛かったからじゃなくて。きっと――

【No.≠223 凪ぎ声】
雀の鳴き声で目が覚める。カーテンを開けて目が合うと雀は電柱から飛び立った。寝起きの悪い僕を叱るように、毎朝同じ時間に起こしてくれる。このひとときが好きだけど、街の景観のために電柱は埋め込まれてしまった。今でも雀の鳴き声が聞こえる度に、無意識にカーテンを開けてしまうのだ。

【No.≠224 やわらかな体温】
口も聞いてくれない。目も合わせてくれない。昔は温かい人だったのに、今ではとても冷たくなってしまった。つれないあなたにもう一度振り向いてもらうため、私は豪雨の日だってお百度参りを重ねた。病室で無機質な管に繋がれたあなたの手を、同じように雨で冷たくなった私の手で優しく握る。

【No.≠225 ノーヒットノーラン】
流行り病によって甲子園が中止になる。野球部員がグラウンドに集められて監督が土下座した。必ず大会に連れて行くという約束を守れなかったと涙を流す。誰のせいでもない。じゃあ、一体、何を恨めばいいのか。高校最後の夏が終わる。ふいに問われる疑問を、誰も打ち返すことはできなかった。

オリジナル版の140字小説はこちらから!

この記事は有料ですが全編公開になっています。私の活動を応援してくださる方がいましたら投げ銭してくれると嬉しいです。また、サポートやスキのチェック。コメント、フォローをしてくださると喜びます。創作関係のお仕事も募集していますので、どうか、よろしくお願いします。

ここから先は

0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652