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140字小説 No.≠226‐230

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【No.≠226 海標】
数年に一度、この国は満潮によって海底に沈む。潮が引く数日の間、私は彼の住んでいる国まで避難することになった。遠くには入道雲がそびえ立ち、中を突っ切ればやわらかな雰囲気と、おだやかな波音が広がる。水面が高くならないと辿り着けない国を目指し、彼との再会を道標に舟を漕ぐのだ。

【No.≠227 不恋不愛③】
不要不急の恋が解除されてから数ヶ月が経つ。街には恋人達が溢れているけれど、その幸せの背景にどれだけの関係が失われてしまったのだろうか。結局、恋愛のままごとなのかもしれない。会えない時間が愛を深めるなんて妄言だった。それでも、だけどもう一度、隔離病室で眠る彼の果てを願う。

【No.≠228 魂の行く末】
もの悲しい鳥の鳴き声に目を覚ます。茫然としながらも灯台守が鐘を鳴らすと、住民も祈るように手を合わせた。この島では亡くなった者を全員で偲ぶ風習がある。魂が迷わず彼岸に辿り着けるよう光を照らす。何十年も鐘を鳴らし続けてきた灯台守は、その夜、息子の死を知って静かに涙を流した。

【No.≠229 ラピッドダンス】
文化祭で僕達のクラスは創作ダンスをすることになった。誰もセンターをやりたがらないのに、内気で、長い前髪のせいで表情が見えない女の子が手を上げる。みんなは驚いていたけど僕だけは知っていた。放課後の教室で踊る女の子の澄んだ月のような瞳と、結った髪から覗く笑顔が美しいことを。

【No.≠230 乾き渇く】
美容師である彼が私の髪を梳く。ふいに「私の髪が綺麗じゃなかったら別れる?」なんて聞くと無言のまま髪を乾かす。「君はさ――」彼の言葉に棘はあったけど、私も、ドライヤーの音で聞こえなかったことにする。知らない女を抱いた彼の手が、浮気に気付いてないと思っている私の頭を撫でた。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652