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140字小説 No.≠216‐220

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【No.≠216 樹祷】
妻が植物状態になって数十年が経つ。少しでも感情を揺り動かすように、僕達が小学生のときに演じた『花咲じいさん』のビデオを見せる。「かれきにはなをーさかせましょー」木の役の妻に幼い僕が呼びかける。花のような笑顔が戻るまで、僕は一体、どれだけの涙を妻に与えればいいのだろうか。

【No.≠217 夢灯籠】
レンタルショップで夢を借りれば、誰でも等しく夢を見ることができる。私は『誰かと一緒にいたい』という夢を運よく手に取る。昔は日常だった現実が、今では常に貸出中の夢になってしまった。誰かと会って、声を出して笑い合いたい。そう思うこと自体はきっと、悪いことじゃないはずなのに。

【No.≠218 薄明】
地球温暖化から逃れるために、世界は防熱壁に囲まれていた。夜には人工の月が浮かぶ。偽物の光を纏ってから何百年が経ったのだろう。身を少しずつ灼かれながら、防熱壁の整備に赴く彼の笑顔が月の灯りにも似ていた。彼の犠牲の上に成り立つ息苦しい世の中で、それだけが私の本物の光だった。

【No.≠219 涙花】
感情的に娘を叱ってしまい布団に塞ぎ込む。いつのまに眠っていたのか、目を覚ますと折り紙のチューリップが置かれていた。拙い文字で『まま、ごめんね』と書かれた紙を見つけて身勝手にも胸が痛む。娘を叩いた手で、娘の折った花を撫でる。ふいに溢れた涙が、鮮やかなチューリップに流れた。

【No.≠220 忘景】
両親との仲が悪くなり、なかば家出のように一人暮らしを始める。二十歳の私が生活費と学費を稼ぎながら生きるのは難しい。バイトの帰り道、河川敷に落ちていた空き缶を拾う。誰にも必要とされない私みたいだったから。見上げた空に映った夕日は少しだけ寂しい。けれど、少しだけ救いだった。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652