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140字小説 No.≠166‐170

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【No.≠166 花の記憶】
目を覚ますことはないけれど、確かに意識はあった。シロツメクサの花冠をくれた彼女は、何年も、何十年も、いくつもの季節が過ぎる間、ずっと僕の病室を訪れてくれた。僕の頬に彼女の手が触れる。「もういいんだよ」と涙を流すことしかできない僕を、どうか、最期の日まで許さないでほしい。

【No.≠167 黄昏時】
世界から夕陽が消えて何十年が経つのだろう。特異環境が原因なのか、出生率の減少や自殺する者が増えていった。平穏は静かに失われていく。亡くなった人達の命を弔うため、秋の終わりには精霊流しが行われる。友人を、家族を、誰かを乗せた船の揺らめく光が、消えてしまった夕陽にも見えた。

【No.≠168 ネイビーブルー】
絵描きになるのが夢だった彼女を思い出す。水彩絵の具で汚れた顔や、ペンだこの多い手が印象的だった。絵を描く姿を見られた彼女が小さく笑って、小さく涙を流す。描き終えた絵にタバコの煙を吐きかける癖が嫌いだった。「私の絵は綺麗じゃないよ」と、ゴミ箱に夢を隠す彼女が大嫌いだった。

【No.≠169 翳牢】
父の葬式で数年振りに従妹と再会する。昔、僕らは付き合っていた。倫理観や道徳観という、今となっては些末なことが邪魔をして気付けば疎遠になっていた。いや、僕らを拒んだのは僕ら自身だったのかもしれない。従妹の横顔を眺める。思い出にない表情が、僕らのすり減った時を物語っていた。

【No.≠170 波うつつ】
人魚が岩陰に身を寄せながら、小さな女の子に語りかけています。「私も昔は人間だったのよ。学生の頃は先生のことが好きだったけど、身分違いの恋だから諦めるしかなかったのね。だから、先生の側へと駆け出さないように、声を出して泣かないように、魔女にお願いして人魚にしてもらったの」

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652