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生き物140字小説まとめ④

【No.855 なめくじさい】
いつも明るい女の子が、最近は虚ろな目で性格もジメジメしている。ロングだった髪型は団子頭に変わって、よく見れば赤と青の紫陽花だった。遊びに来た女の子に塩を振ったスイカを差し出すと、一口食べた瞬間に体が縮んで倒れ込む。やがて、紫陽花から無数のナメクジがぼたぼたと落ちていく。

【No.860 わたしのアール】
「『苦虫を噛み潰したような顔』って言うけどさ、見たことある人っているのかな」いつも屋上にいる女の子が私に話しかける。「だって、噛んだ人がいないとそういう顔ってわからないじゃんね」何と返したらいいのかわからずに戸惑う。「私はあるよ。苦虫を噛み潰されたこと」女の子が笑った。

【No.861 中二猫】
吾輩は猫である。名前はMurder Night(マーダーナイト)だ。初めて膝の上に乗って人間をキュン死させた夜から、野良猫達にかわいさの化け物。キュートモンスターと呼ばれ恐れられている。マタタビの力を封印した右脚が疼く。きっと誰かが吾輩の噂を「あっ。タマにノミが付いてる!」

【No.871 昆虫戦争】
苦手な虫を克服するために虫語を覚えたものの、四方八方から声が聞こえて嫌になる。無視すると怒った虫達が迫ってきた。「こっちだよ!」捕食される瞬間、黒に蠢く虫が僕を誘導する。「よかったね!」羽音を立てて嬉しそうに近付く命の恩虫を、申し訳ないけど落ちている新聞紙で叩き潰した。

No.880 亡き声
「鈴虫の鳴き声が好き。他の虫も綺麗に鳴くようになったらいいのに」「でも、蜘蛛が鳴いたら嫌だろ」弟のからかいに彼女は「そうかも」と身震いする。「鳴くのも素敵なだけじゃないのね」そんなことはない。僕が亡くなった日の夜、人知れず泣いていた彼女の声は、とても美しかったのだから。

【No.919 不正交業】
歯列矯正で控えていたガムを、終わってからも噛んでいないことに気付く。瓶に詰めたノミが蓋を外しても飛び出さないように、私も条件付けされてしまったのだろう。禁煙か、コンプレックスの克服か。何のために始めたのか思い出せずにいた。綺麗になった歯並びを、いびつになった笑顔で隠す。

【No.-205 アルカレミア】
人間の自然破壊によって、私たち人魚の泳ぐ海は暮らせる環境ではなくなってしまった。逢瀬を遂げるため、魔女に犠牲を払ってまで人間になる。声や尾を失っても彼女は美しい。やっと結ばれたのに、人間は同性で愛し合うのを非難する。彼女の瞳から流れる涙を掬う。口に含むと故郷の味がした。

【No.-221 最後の晩餐】
「くらえ!ケチャップライス!デデンデンデデン」夜は食材達の時間だ。ご主人様が眠っている間、野菜や肉がキッチンを暴れ回る。どうせ食べられるのなら、最後に好き勝手やるつもりらしい。「また散らかして!」と怒られるのは私の役目。耳と尻尾を垂らして、あなた達の責任を取りましょう。

【No.-224 捨て箱】
紙に『拾ってください』と書かれたダンボールが捨てられていた。「さよなら」飼えないお詫びに餌のパルプを与えると雨がぽつぽつ降ってくる。「だーん、ぼー……」切り傷でいっぱいの体を私の頬にすり寄せた。「……さよならって言ったじゃない」まぁでも、晴れるまでは家に入れてあげるか。

【No.-227 虹焦がす命】
人間は亡くなると傘に変化する。遺された者が涙で濡れないように、後悔で身を焦がさないように。あの日、豪雨による自然災害で多くの犠牲者が生まれた。夏になると故人の魂を弔うため、傘を一斉に飛ばす行事が行われる。色とりどりの傘がふわり浮かぶと、薄暗かった空に大きな虹が架かった。

【No.-228 人魚水葬】
人魚に恋した青年は海で暮らしたいと願います。美しい声も、鰭も、失うにはかけがえのないもの。ならば、代償を払うのは醜い自分の方。青年は魔女に祈り、感情を犠牲にして海に潜りました。人魚は悲しみます。同じ世界で生きられなくても、ありのままの青年と過ごせるだけで幸せだったのに。

【No.-229 少女琥珀】
少女琥珀展を鑑賞する。琥珀糖で模した少女は色鮮やかで、気味の悪いほど生々しかった。怒っている少女は赤、泣いている少女は青。幸せそうな少女は緑。感情が、命が、不透明な体に混ざっている気がした。会場を満たす甘い香りが饐えていく。そういえば、最近は行方不明者のニュースが多い。

【No.-239 凪晴るる】
家も学校も辛いとき、私は岬に住む魔女の元を訪れる。「昔は人魚だったけど、人間のせいで汚れた海を捨てて魔女になったのよ」お姉さんはいつも色んな話をしてくれた。庭に咲く風鈴のこと、散った夢は金平糖になること。「逃げてもいいなんて綺麗事だけどね、苦しくなったらいつでもおいで」

【No.≠228 魂の行く末】
もの悲しい鳥の鳴き声に目を覚ます。茫然としながらも灯台守が鐘を鳴らすと、住民も祈るように手を合わせた。この島では亡くなった者を全員で偲ぶ風習がある。魂が迷わず彼岸に辿り着けるよう光を照らす。何十年も鐘を鳴らし続けてきた灯台守は、その夜、息子の死を知って静かに涙を流した。

【No.≠231 兎月】
小学生のとき、学校でウサギのラビ太を飼っていた。飼育委員だった僕は一生懸命お世話したのに、近所に住む高校生に小屋から逃がされてしまった。あれから何十年が経ったのだろう。ふいに、ウサギの鳴き声を聞いた気がして夜空を見上げると、月には安らかに眠るラビ太の模様が浮かんでいた。

【No.≠233 樹海守の鳴く】
人生に疲れて樹海を彷徨う。木の間に多くのロープが括ってあった。遺書を用意して滝から飛び降りる。水底には同じ末路を辿った人間達が沈む。命を投げ捨てた者がいないか、樹海を守る鹿が僕を見つめる。大層な角を傍らに置く。憐れむように、弔うように、鹿の悲しい鳴き声が山の中に響いた。

【No.≠238 ニーア】
雨風を凌げる場所もなく、寒さで震える私をあなたは保護してくれました。ご飯を与えて、何度も頭を撫でてくれます。初めてのぬくもりは愛しいですが、その優しさを失うことが不安で遠い街に走り出しました。もう二度と会えないあなたに向けて、私は身勝手にも「にー、にー」と鳴き暮れます。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652