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秋田柴子
2023年2月9日 18:18
「よう、兄さん。待ちなよ」仕事帰りの雄司が疲れた体で振り返ると、薄汚れた身なりの老人が、既に日も暮れた道端で店を広げていた。怪しげな物売りかと素通りしかけると、後ろからしゃがれ声が追いかけてくる。「そう邪険にしなさんな。あんたは今、ちょいと毎日が辛いんじゃねえのかい?」思わずぎくりとして足が止まる。「ほうら、図星だ。顔と歩き方見てりゃ、それぐらいのことは判るさ。そんな兄さんにはうっ
2022年9月16日 10:48
【おことわり】2024年5月の文学フリマ東京38で発売した短編集『夜半舟』に収録されている『ミッション・テンパッシブル』は、旧作を大幅に改稿したものです。本記事は2022年に執筆した旧作の『ミッション・テンパッシブル』であり、短編集に収録したものとは異なる内容です。ご了承ください。以下は2022年当時の記事となります。――もう耐えられない。私は真夜中のダイニングで、ひとり涙をこぼし
2022年7月1日 19:25
「――おまえ、また山に来たのか」不意に後ろで声がした。木の陰に座り込んでしゃくり上げていた佐助は、泣き腫らした目をこすりながら振り返るや思わず声を上げた。手を伸ばせば触れられそうなすぐ近くに、一匹の狐が座ってじっと佐助を見つめている。「き、狐がしゃべった……!」腰が抜けたようにへたり込んだまま、手だけでずりずりと後ろに下がる佐助を見て、狐はおかしそうに笑った。「驚くことはない。我