'95 till Infinity 141
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【 第8章 - ②: Story of His Life 009 】
けど、その日は違った。よっぽど大事な金だったんだろうね、婆さんはバッグに必死でしがみついたんだ。
俺は構わずにバッグを引っ張った。
いくら俺が痩せ細ったジャンキーだからって相手は骨と皮みたいな婆さんだ。力いっぱい引っ張ったら、がりがりと音を立てていたローヒールの靴が脱げてすっ転んだよ。
それでも婆さんはあきらめなかった。婆さん特有のしゃがれた甲高い声で泥棒、泥棒と叫びながらしがみついたバッグから手を離すことはなかった。
ああいのってリスクマネージメントスキルが大事だからさ、俺は考えたんだ。このまま引っ張り続けるか、さっさと見切りをつけるかって。
俺はもう一回引っぱってダメならあきらめることにしたんだ。
婆さんはまた立ち上がろうとしてた。
俺が思いっきり引っ張ったのと同じタイミングで婆さんが立ち上がった。バッグのストラップがぶちっと音を立てて切れた。体勢を崩した婆さんが2mほど後ろに吹っ飛んでいくのを俺はスローモーションで見たよ。
吹っ飛んだ先にはベンチがあってさ、叫び声がしたと思ったら、婆さんの目の上あたりからぴゅっと血が吹き出したんだ。
傷口から溢れ出す血が傷口を抑えた両手を伝わって肘からぼとぼとと婆さんのスカートに落ちて、赤に染まったぼさぼさの白髪が顔にへばりついてた。
それまでそんなことは一回もなかったからさ、俺は逃げることも忘れて呆然とそれを見ていたよ。
気づいた時には騒ぎを聞きつけた向かいのデパートの警備員が後ろから俺のベルトを掴んでてさ、俺は別に抵抗もしなかった。
駆けつけた警官に事情を聞かれた婆さんは興奮してきちんと喋れなくてさ、どろどろとした血の塊がついた手で俺を指差して、「あの男が、あの男が」って叫んでたっけ。
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