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遠隔作用


君は規格化されたフォントの連結であり
君は有節音の連なりであり
君は液晶上における光の明滅であり
君は君のいた息の痕跡である

光が横波であるとして
明滅が振動であるとして
音が縦波であるとして
文字が物理運動であるとして

二点間の遠隔がいま
その隔たりを一定に保ったまま
深さを増し暗闇へとひらかれて
ぼくたちを見上げつつ
また見下ろしている
ぼくたちの光の明滅は
二点間の遠隔をかるがると股にかけて
君とぼくに届き
音声は焦れったく無明を裂いて
ある暗がりから別の暗がりへ
死屍累々を淵に置き去りながら
君とぼくの情欲を掻き立てる
ぼくたちがそれぞれの暗闇におちるころ
死して遠隔の淵に落とされたぼくたちの言葉が
燐光のようにおのづから光を放ちつつ舞い上がって
ぼくたちの朝を呼び寄せるだろう
ぼくたちは光を憾む
鳥の囀りに声を憎む
君とぼくとを乗せて行くことのない
すべての遠隔作用を呪う
はしたなく光に照らされ
とめどなく音に追いたてられながら
両極に沈むぼくたちのなかで
発されない声と
いまだまたたかない光とが
ぼくたちを次の夜まで
かろうじて生かしてしまう

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