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おかずの瞬間移動

私の小学生時代の実話です。給食は席の近い四人が机をくっつけて食べるスタイルでした。小学校四年の九月半ばから、奇妙な現象が続きました。その日の給食のおかずが机の中に勝手に入るのです。筑前煮とか、ほうれん草のおひたしとかです。給食の後、十五分ほどの掃除があり、掃除が終わると午後の授業が始まります。机は引き出しが無いタイプで、教科書がむき出しになっています。教科書を出そうと机に手を入れると、なにやら水気のあるものに手が触れました。

「気持ちわるっ。なに……?」机を覗くと、ひとくち分のその日のおかずが、入っているのです。最初の日は、しっかり覚えていますが筑前煮でした。筑前煮など煮物系の場合は汁で教科書がべちゃべちゃになるので、その都度、ティッシュペーパーで教科書を拭いていました。

私は最初、掃除の際に誰かがイタズラで入れたものと思っていました。そこで次の日、給食が終わってすぐ机を覗いて確かめました。するとやはり、おかずが、入っているのです。掃除中のイタズラではない……。では、机をくっつけている横の同級生が、私が目を離した隙に入れているのかも?

私は横の〇〇君との机をそれとなく離して(といっても二センチほどですが)、給食を食べながら頻繁に机を覗き込み、いつおかずが入るのか? 確認していました。給食中、私は他の三人の話を聞きながら、自分からはひとことも話さない子供でした。極度の人見知りで友人の一人もいなかった私は、こんなにおかしな現象を、先生にも親にも誰にも相談することができなかったのです。

都度覗き込んだ際は何も入っていないのに、給食が終わりごちそうさまをした直後に覗くと、やっぱり入っているのでした。翌日私は、ごちそうさまをしながら机の中を見張りました。この日は何も入りませんでしたが、別の日、机から目を離した瞬間に、やっぱり入っているのでした。本当に、「おかずが容器から机の中に瞬間移動した」としか思えないのです。

現象自体も不思議ですが、この現象が起こるのが毎日ではないのが、また不思議でした。おかずの種類によるのか? と思ってそれとなく観察していましたが、規則性は見受けられませんでした。誰にも言えない怪奇現象に毎日怯えていましたが、一ヶ月ほど経ったころ、なぜかぱったり止みました。当時のことを思い出すと、今でも不思議で仕方がありません。



この話、覚えておいでの方がいらっしゃるかもしれません。
以下のエッセイを怪談小説化したものです。

この小説が、竹書房怪談マンスリーコンテストで最終選考に残りました。うー、嬉しい😂 全文載っけてもらえるまでもう少しだ~✨



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