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数学ラノベ『君と紡ぐソネット』作中問題の考察(2)

この記事では数学と東大受験を題材にしたライトノベル、講談社ラノベ文庫『君と紡ぐソネット ~黄昏の数学少女~』(暁社夕帆 著)に登場する作中問題で、特に難しいと思われるものについて解法を考察します。わたしは数学科などは出ていないので、あくまでも厳密性は欠く略解としてご容赦ください。なおこのライトノベル、学術系YouTuberヨビノリたくみ氏が帯の推薦文を書いています。ヘッダー画像はAmazonより。

電子書籍特典

電子書籍版の特典で、算数オリンピック(小学生が解く!)本戦の問題として登場します。

【問題】

【電子書籍特典】
1から10の数が一つずつ書かれた10個のボールがあります。これらを中身の見えない箱に入れてよく混ぜ、箱から取り出した順に1から10までの数を一つずつ書き足しました。ボールに書かれた二つの数の差が、10個とも全て異なることはありますか。
「ある」ならば、その具体的な例を一つ書きなさい。
「ない」ならば、その理由を説明しなさい。

『君と紡ぐソネット』電子書籍特典

【具体例(1)】

場合の数や確率の問題っぽい設定ですが、内容は整数問題です。
問題文を簡略化すると「『10個のボールに1から10までの異なる数字を無作為に一つずつ書いていく』という作業を二巡したとき、『ボールに書かれた二つの数字の差が全て異なる』ことはあるか?」という問題。
例えば……
一巡目:《1 3 7 6 9 2 5 4 8 10》
二巡目:《2 7 9 5 6 3 8 1 4 10》
となった場合、10個のボールにはそれぞれ[1 2], [3 7], [7 9], [6 5], [9 6], [2 3], [5 8], [4 1], [8 4], [10 10]と書かれていることになりますね。小学生が解く問題であり負の数は考慮しないので、このとき書かれている数字の差は、
二数差:《1 4 2 1 3 1 3 3 4 0》
となります。1と3が3回ずつ、4が2回も登場してしまいました。次は、意図的にもっと差をバラつかせてみましょう。
一巡目:《1 2 3 4 6 9 7 8 5 10》
二巡目:《2 4 6 8 1 3 9 7 5 10》
二数差:《1 2 3 4 5 6 2 1 0 0》
……と、前半で頑張ってはみたものの、今度も1、2、0という差が重複してしまいましたね。
このように考えたとき、果たして「10個並んだ差が全て異なることはあるのか?」という問題になります。

【略解】

ない。

以下、解答および解説として、簡単にこの問題の仕組みを書いていきます。少し背理法チックになります。

まず、「1から10までの整数同士の引き算から出現しうる差」には、0から9までの10通りが存在します。当たり前ですが極めて重要です。
この事実を踏まえると、もし10個のボール全てで「一回目に書いた数」と「二回目に書いた数」の差が異なる場合、この10通りが全て出現するはずですよね。つまり順番はさておき、もし答えが「ある」ならば、
二数差:《1 2 3 4 5 6 7 8 9 0》
のように、0から9までの数字が一回ずつ出現するはずです。

今、「一回目に書いた数」と「二回目に書いた数」の合計はどちらも1から10までの和である55となり、等しいはずです。したがって「一回目に書いた数の方が大きいボールの二数の差の合計」と「二回目に書いた数の方が大きいボールの二数の差の合計」は等しいはずです。
先ほどの例で考えてみましょう。
一巡目:《1 2 3 4 6 9 7 8 5 10》→ 和は55
二巡目:《2 4 6 8 1 3 9 7 5 10》→ 和は55
二数差:《1 2 3 4 5 6 2 1 0 0》
太字にしたものが「二回目に書いた数の方が大きいボールの二数の差」、細字のままなのが「一回目に書いた数の方が大きいボールの二数の差」です。両方とも合計は12となっていますよね。これは負の数を導入すると分かりやすくなり、
一巡目:《1 2 3 4 6 9 7 8 5 10》→ 和は55
二巡目:《2 4 6 8 1 3 9 7 5 10》→ 和は55
二数差:《1 2 3 4 -5 -6 2 -1 0 0》 → 和は0
このように、「一回目に書いた数」と「二回目に書いた数」の合計が同じである以上、その差はどこかで相殺されなければいけません。

この時点ですでにそれなりの思考力を必要としていますが、最後のステップはさらに重要な発想の転換をします。

思い出してください。今回、出現する二数の差は10通り(0から9)であり、この合計は45です。45は奇数です。これは、「一回目に書いた数の方が大きいボールの二数の差」と「二回目に書いた数の方が大きいボールの二数の差」が等しくなり得ない(45が奇数 = 2で割れない = 等しい値に二分できない)ことを意味しています。
言い換えれば、出現するべき「二数の差の合計値」が奇数である場合、相殺するように等しく二等分できないのです。

よって、書かれた二数の差が10個とも異なることはありません

【具体例(2)】

もっと簡単に、5個のボールで考えてみましょう。
一巡目:《1 2 3 4 5》
二巡目:《5 3 1 4 2》
二数差:《4 1 2 0 3》
のように、「二数差」に0から4までの5つの数字を1回ずつ登場させることができましたね(0から4までの合計は10であり、偶数)。

では9個のボールではどうでしょうか。
一巡目:《1 2 3 4 5 6 7 8 9》
二巡目:《8 5 9 6 4 2 7 3 1》
二数差:《7 3 6 2 1 4 0 5 8》
と、同様にして「二数差」に0から8までの9つの数字を1回ずつ登場させることができました(0から8までの合計は36であり、偶数)。

【Yahoo! 知恵袋の回答】

上記の解説とは別のアプローチを、問題文で検索したところYahoo! 知恵袋で見つけました。考え方は異なりますが、偶奇に着目するという本質は同じです。むしろ、こちらの方が直感的に分かりやすいかも。

ベストアンサーを抜粋します。

これは「1~10の数が2個ずつあって、それらを組み合わせて『差が0~9の組を1つずつ作る』という問題です。 この差のうち、1、3、5、7、9に関しては、「奇数と偶数の差」でしか作れません。 ここで、「奇数5個と偶数5個」を使いましたから、残っているのは「奇数5個と偶数5個」です。 残りの差の0、2、4、6、8に関しては「奇数と奇数」「偶数と偶数」の組み合わせでしか作れません。 しかし残っているのが「奇数5個と偶数5個」なので、奇数同士、偶数同士を組みにしていくと、最後に「奇数と偶数が1つずつ」残ります。 従って、答えは「ない」です。

Yahoo! 知恵袋 q11279732411

「偶奇の処理」は論理パズルなどでよく題材にされます。学年を問わず小学生でも解けますが、大人でも苦戦するものが多いですね。
本問はフィクションですが、類題は算数オリンピックで実際に出題されているようです。やはり、小学生のトップ層バトルですね。

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