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『アプリ道場サロン』が開発するのはアプリだけじゃない――主催者あきおの頭の中

『アプリ道場サロン』って?道場×サロンが導くゆるやかなつながり

Slackをベースとした『アプリ道場サロン』は、iOSエンジニアのあきおさんが設立したサロン型クローズドコミュニティです。現在参加者は開発未経験者からプロまで多種多様なメンバーがそろい、日々Slackでの情報交換やオンライン飲み会を行っています。

宿 木:そもそも『アプリ道場サロン』はどうして生まれたのでしょうか?

あきお:『アプリ道場サロン』は、アプリ開発を学ぶ『アプリ道場』から生まれたサロンです。

2011年1月、自由大学にて講義を持ったことがきっかけで『アプリ道場』が始まりました。アプリ開発に興味のある人へスキルを伝授する場ではあるものの、そのスキルを己の力にできるかどうかはその人の努力次第です。だからこそ、志の高い者に門を叩いてほしい。そんなイメージから、大学側のキュレーターさんと議論し、“道場”という名前を冠しました。

宿 木:そんな『アプリ道場』を今回サロン化したということですが、“道場”と“サロン”に抱くイメージはちょっとズレますね。サロンと聞くと月額料金を支払ってオンライン上のコミュニティに入ることを連想します。

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File:Salon de Madame Geoffrin.jpg - Wikimedia Commons より引用

あきお:最近はそういったオンラインサロンの印象が強まっていますが、もともとサロンの起源は中世ヨーロッパの社交界にあるそうです。
文学や哲学、演劇といった分野を扱い、男性優位であった社会で初めて女性の参加も許された開放的な社交の場だったと聞いています。拘束力を持たず、ゆるやかなコミュニティのなかで議論や表現を交わせる場は、当時の文化の発展に寄与したそうです。
僕はこの当時のサロンの定義をもとに『アプリ道場サロン』を育てていきたいと思っています。

宿 木:ということは、アプリ開発を主軸にしつつ広い分野で議論しあえる、ゆるやかなコミュニティということですね。たしかに実際に運営されるSlack内には、開発以外の雑談ができるチャンネルもあります。

あきお:メンバー同士が理解できるきっかけや、他の文化と出会う場を作りたいと思っています。

例えば、エンジニアとデザイナーはときどき対立構造のなかで語られることがあります。でも、僕はエンジニアとデザイナーが対話することで生まれるものがあると信じています。ですから、あえてSlack内にデザインチャンネルを設けています。

また、Slack内にはファッションのチャンネルも作りました。これは一見開発と関連性の低いトピックがコミュニティ内にあることで、化学反応が起こることを期待したものです。

「エンジニアの服装はダサい」と言われることがよくあります。でも、全員がダサいわけではありませんよね。そもそも服装で仕事の質が変わるわけでもないですから、昔は「見た目で人を判断するやつはろくなもんじゃない」と思っていました。

けれどニュートラルな気持ちで触れてみると、ファッションってなかなか面白いんですよ。私はファッションの魅力にハマってコーディネートにこだわっていたことがきっかけで、ファッション関連のアプリの仕事をいただいたり、アプリの配色について深く考えるようになったりもしました。

一般的にはプログラミングと関連性が高くない話題にも日々触れることが、最終的に自分の糧になり、仕事のヒントになるような場にできたらと考えています。

宿 木:サロンのゆるやかさと、道場のストイックさを掛け合わせたコミュニティ。それが『アプリ道場サロン』なんですね。

アプリ開発なのに歯医者が二人!?多種多様な参加メンバー

宿 木:『アプリ道場サロン』は誰が入ってもOKなんですか?エンジニア以外でも大丈夫?

あきお:もちろんです。開発に興味が少しでもあるなら、誰でも歓迎します。歯科医のメンバーが自己紹介をしたところ、『私も歯科医です!』っていうレスがあって……アプリ開発のコミュニティに歯医者さんが二人いるの、偶然にしてもすごいですよね。

宿 木:たしかに。とは言っても開発未経験者が“道場”に入るのは、なかなか勇気が……。

あきお:前身の『アプリ道場』では、参加希望者に試験制度がありました。プログラミング言語や変数・関数などの説明ができるか複数の問題を用意していて。

宿 木:(私だったら絶対に落ちる……)

あきお:全問不正解の人だけが『アプリ道場』に入れるようにしていました。

宿 木:えっ!?正解じゃなくて、不正解ですか!?

図3

あきお:だって初心者に門を開きたかったから。iOSの開発にはMacが必要なのですが、Mac Bookを購入するところから始める受講者も少なくありませんでしたよ。当時は開発以前のMacの使い方から説明していました。MacのキーボードにはCommandキーやOptionキーがあり、それぞれのマークが独特なのですが、マークの由来や意味に関する説明のスライドも用意しています。

宿 木:そんなに手厚く初心者を迎えてくれるんですね。

あきお:そういった『アプリ道場』の精神を継いだサロンですから、『アプリ道場サロン』も完全な未経験で大丈夫。ぜひ飛び込んでください。

宿 木:職種も開発経験もバラバラなメンバーが一同に集うコミュニティ。どうしてこんなに裾野を広げているのでしょうか?

あきお:いろんな人がいたほうが面白いからです。
僕は高校時代、初めてオフ会に参加しました。そこに集った大人は、親や先生が教える、僕らがなるべきちゃんとした“大人”じゃなかった。でも全員とても面白い大人でした。その姿を見たとき、ルールや条件で人を限定するコミュニティって面白くないなと思ったんです。

あと『少女革命ウテナ』という大好きなアニメ作品の影響も大きいです。この作品は監督のトップダウンではなくスタッフそれぞれの意見を活かして制作されているらしく、その多様性が作品の質や独自性を高めているんですよ。

宿 木:なるほど。『アプリ道場サロン』のメンバーもそんな化学反応が起きる何かを秘めているわけですね。考えてみれば、私も開発未経験のライターだもんなぁ……。

道場の先に――卒業生たちのその後と『アプリ道場サロン』の未来

図4

あきお:『アプリ道場』の門を叩いた今までのメンバーは、大きく分けて3種の目標があります。一つは「エンジニアになりたい」、もう一つは「エンジニアと近しい職種(人事・デザイナー等)に就いているからエンジニアや開発についてより深く知りたい」、そして最後が「個人で開発したい」というものです。

いずれにしろ、夢を叶えた人、目標を達成した人はこれまでに数多くいました。例えば、スーパーの鮮魚コーナー従業員からエンジニアへのキャリアチェンジを成功させた人がいますし、67歳でiOSアプリ開発にチャレンジして完成させた人もいます。

宿 木:67歳で!?それはすごい。

あきお:その方は、手書きのノートに開発中の問題点や発見をつぶさに書き記し、僕に相談するときはそのノートを開いて見せるような勉強熱心な方でした。年齢や背景を問わず、目標に真摯に向き合える人を、『アプリ道場サロン』のコミュニティは全力でサポート・応援していきます。

(参考記事:シニアアプリ開発者蒲池さん(68歳)のその後。Apple Watch発売と同時にアプリをリリースし、今はRealmにチャレンジ中!

宿 木:エンジニアになったメンバーとは、その後も交流が続いているのですか?

あきお:現在の『アプリ道場サロン』の参加者の一部は『アプリ道場』からの付き合いですし、そのまま一緒にアプリ開発の仕事をすることになった方もいます。

宿 木:『アプリ道場』や『アプリ道場サロン』を続けてきて、どんなことを感じますか?

あきお:教えるほうも学びが多いです。一般的な学校は『知識のある人がない人に教えてやろう』という上下関係が生まれがちですけれど、本来であれば学びは教師と生徒、相互で対等なものだと考えています。ヨーロッパ最古の大学と言われているボローニャ大学の起源について調べてみたところ、大学は学問を目指して集まった人たちの自治組織であり、学びたい人が知識を持った人を招くところから始まったのだそうです。

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ボローニャ大学における1350年代の講義風景を描いた写本挿絵。
Laurentius de Voltolina 001 - ボローニャ大学 - Wikipedia より引用

僕の場合、サロンのメンバーから質問を受けると、だいたい調べなおして答えています。そのおかげで、知識を整理できます。iOS開発に限ったことではありませんが、教えるという行為を通じて僕も学べることが大きいですね。

宿 木:ではサロンのメンバーやエンジニアにとって、コミュニティはどんな価値があると思いますか?

あきお:僕は『アプリ道場サロン』に3つの願いを持っています。

①変わりたいと願う人が変われる場にしたい
②外的要因でプログラミングを嫌いになる人を減らしたい
③『アプリ道場サロン』を“第三の場所”にしたい

まず、人が変わるためには「付き合う人を変える」、「時間の使い方を変える」、「居場所を変える」という3つの手段しかないと言われています。人はただ「変わろう!」と意気込むだけでは変われません。『アプリ道場サロン』は、一つめの「付き合う人」を広げる効果があるので、メンバーは何らかの変化のきっかけを得られるはずです。

また、過酷な労働環境や人間関係が原因でプログラミングが嫌いになる人も少なくありません。サロンのゆるやかな人間関係のなかで、純粋なプログラミングの楽しさや魅力を知ってもらえたらうれしいです。

最後に、僕は『アプリ道場サロン』をオフィスと自宅の間にある、第三の場所にしたいんです。例えるなら部活動のような、日常とは少し異なる刺激をもらえる空間や時間。そこがあることで精神的なゆとりを感じたり、モチベーションを高めたりする機会を作れればと考えています。

宿 木:あきおさん、たくさんお話いただきありがとうございました!聞き手になれてとても楽しかったです。これから『アプリ道場サロン』により幅広いメンバーが増えるといいですね。

あきお:はい、メンバー数は今のところ決めていませんので、皆さんの参加をお待ちしています。

―アプリ道場サロンが気になった方はこちらもチェック!―
アプリ道場サロン概要・参加申込ページ

―今回の登場人物―
アプリ道場サロン主催者:あきお│Twitter


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