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会社の内部から変わるブランドマネジメント

これまで2回に渡り、ブランドマネジメントの新解釈として、自分なりの考え方を書いてきました。今回はAKINDとして、具体的にどのようなアプローチでブランドマネジメントを実践しているかについて、ご紹介したいと思います。この記事から読まれた方は、前回記事「企業変革のためのブランドマネジメント」も読んでいただければ幸いです。



会社の内部から変わるブランドマネジメント

VUCA時代のブランディングとは

NOTEで記事を書き出してから、社会変化が激しい時代において、ブランディングに求められる役割が変わってきたことをお伝えしてきました。AKINDのブランドマネジメントのアプローチに触れる前に、ブランディングの変化について、私なりに整理したものをまずは共有させてください。

ブランディングの進化について(作成:AKIND 岩野)

これまでの記事でも、今の時代におけるブランディングは、マーケティング戦略の領域を超えて、経営戦略として取り組む必要があるとお話をしました。上記の図は、その考え方を一覧にしたものです。「成熟した市場」の中では、マーケティングにて最適解に向かうアプローチだけだと、各社のサービスが似通ってしまうという戦略上のジレンマを克服するため、差別化を図り、独自価値を提供するブランディングの役割が重要視されていた時代背景を整理しました。

今の時代の「変化し続ける市場」におけるブランディングでは、商品やコミュニケーションという領域を超えて、企業が掲げるパーパスを体現するため、どのような顧客体験を創出するのか、どのような組織文化を醸成するのかといった視点が求められていると考えています。そして、変化し続ける市場に対応していくためには、一部の担当者がブランドを管理するのではなく、多様なステークホルダーを巻き込みながら、ブランドを共創していくプロセスが求められる時代になっていると考えています。


「組織の上流・内部・外部」の良循環

ブランディングに求められる役割が変化し、取り組むべき領域が幅広くなってきたことを前提に、どのように「ブランドの何を継承し、何を進化させていくか」と言う問いに答えていきたいと思います。

私は、「自社の本質的な強み(DNA)を覚醒させ、磨き続ける」というアプローチに注目しています。この言葉は、京都先端科学大学教授・一橋大学ビジネススクール客員教授の名和高司氏が書籍「学習優位の経営 〜 日本企業はなぜ内部から変われるのか」の中で、出会いました。以下に一節を抜粋します。

新たな成長を求めて新規事業開発に乗り出すより、本業でスマート・リーン型の変革を自ら仕掛けることができれば、確実に大きな成長が期待できます。言い換えれば、本業こそ次世代成長の宝庫、なのです。

名和高司氏・書籍「学習優位の経営」より

書籍の中では、持続的な成長を駆動していくための組織モデルとして、自社の本質的な強み(DNA)を見据え、自社の顧客やパートナーなどの外部資産も最大限に生かしながら、拡業による成長を加速させる。その過程で自社のDNAをより研ぎ澄まし、本業そのものもさらに強化し、深化させていく。そのような自社のDNAを基軸として、学習と脱学習の良循環を提唱しています。この考え方はブランディングに通じるものがあり、個人的にとても共感をしています。そして、「ブランドの何を継承し、何を進化させていくか」と言う問いへの答えにつながると考えました。

名和氏のモデルを参考にしながら、「組織の上流・内部・外部」の3つの領域を循環する組織全体での学習サイクルこそが、ブランドを深化させ、同時に進化させ続けられるアプローチとして有効であると考えています。組織の上流の領域では、顧客のフィードバックを組織DNAに照らして判断し、自社にとっての「顧客の声」の意味を明確化し、提供価値を定義する。組織の内部の領域では、定義した顧客価値をベースにスケーラブルな事業モデルを設計し、顧客への価値を廉価にデリバリーできるオペレーションを最適化する。組織の外部の領域では、最適なオペレーションを通じて、顧客接点において価値を着実にデリバリーし、市場の反応や顧客からのフィードバックを観察する。そして、実績を重ねることで、組織DNAが強化されていく。このような「組織の上流・内部・外部」の3つの領域の良循環を生み出す経営が企業変革に求められていると考えています。

組織の上流・内部・外部の3つの領域(作成:AKIND 岩野)


3つの視点の違いをつなげるブランド

それでは、「組織の上流・内部・外部」の良循環を生み出すために、どのようにこの3つの領域をつなぐことができるのでしょうか?データやシステムで連動させていくDXというアプローチがすぐに頭に浮かぶかもしれません。ただし、DXを進めていく上では組織や業務の仕組みを変革させていくことが求められています。では、組織や業務の仕組みを変革させていくために取り組むべきことは何でしょうか。私は、その答えが日本企業が苦手な傾向が強いコミュニケーション改善が鍵だと考えています。

「組織の上流・内部・外部」はそれぞれ、領域が違うだけでなく、視点が違います。組織の上流は、経営視点で企業方針を定め、戦略や計画を構築します。組織の内部は、現場視点で日々の仕事が営まれています。組織の外部は、顧客視点で商品やサービスを判断されていきます。私は、この立場が違う3つの視点を踏まえたコミュニケーションが重要であり、そのコミュニケーションを牽引できる存在こそが「ブランド」だと考えています。例えば、AppleやMUJIがごちゃごちゃしたデザインの商品をつくることがありえないように、強固なブランドがあれば、経営者も従業員も顧客もある一定の共通見解や期待を擦り合わせることが容易だと思います。この前提条件や文脈を自然と共有できている状態というのは、視点が違う人たちがコミュニケーションを取る上で、とても重要な役割を果たします。


3つの視点をつなぐブランド(作成:AKIND 岩野)


AKIND独自のブランドマネジメント手法

社会変化が激しい時代の中で、企業として変革し続けるためには、「組織の上流・内部・外部」をつなぐ取り組みが重要であることをお伝えしました。そして、その取り組みをコミュニケーションで推進するアプローチこそが、ブランドマネジメントだと考えています。

ブランドの究極の目標は、顧客や従業員にとって他では換えが効かない唯一無二の存在となること。そのためには、顧客や従業員が信じていることや大切にしている価値観とブランドのそれが共鳴することが大切です。また、顧客や従業員の未来にとって必要な存在と認識してもらうためには、ブランドの社会的な存在意義に共感してもらうことが重要です。それは、「組織の上流・内部・外部」の3つの視点をつなぐことと言い換えても良いかもしれません。

では、ブランドマネジメントの視点から、「組織の上流・内部・外部」の領域で行うブランディングについて解説します。

Change Branding! (作成:AKIND 岩野)

組織の上流では、企業価値の研鑽を目的とした「企業ブランディング」を実践していきます。具体的には、企業の哲学、成功ストーリー、経営計画や事業戦略を踏まえて、会社の方針をビジョン・ミッション・バリューズとして言語化し、社内外へコミュニケーションへと繋げていきます。あくまでも商品やサービスレベルではなく、経営視点での取り組みとして、企業価値を高めるための取り組みとなります。昨今では、SDGsなどの流れも含めて、どのように社会に貢献できるかを体現することが求められている領域となります。

組織の内部では、組織文化の醸成を目的とした「社内ブランディング」を実践していきます。具体的には、組織の上流で定められた会社の方針に沿って、日々の仕事が最適に行われるだけでなく、従業員の働きがいにも繋げていくような社内活動を行なっていきます。特に、会社の方針を事業現場に落とし込みながらも、新しい挑戦や変化に向けて、チームを率いるリーダー層が重要な役割を果たすため、リーダー育成が取り組みの中核を担います。リーダーの意識や行動が会社の方針と共鳴させていくためには、会社の方針に沿った人事評価制度の更新や、社内広報活動などの環境整備をおこなっていくことも含まれます。

組織の外部では、顧客価値の創出を目的とした「事業ブランディング」を実践していきます。具体的には、組織の内部の取り組みが適切に顧客接点を通じて、価値を着実にデリバリーできるようにカスタマージャーニーを踏まえた顧客体験のデザインを行います。また、既存の商品やサービスのオペレーションだけではなく、イノベーションを推進するための新しい商品やサービスの実証実験やプロトタイピングを行い、市場の反応や顧客からのフィードバックを観察する体制を整えることで、組織内部の新しい挑戦の実践の機会を提供していくことも重要です。

ブランドマネジメントは、一部の部署だけが携わるものではなく、組織全体で取り組む必要があると考えています。マーケティング、人事、経営企画など、各部署の役割の中で、ブランディングを実践していくためには、ブランド資産を最大限に行かせる環境や仕組みを整え、組織全体でブランドを深化させ、同時に進化させ続けられるような組織文化が重要だと思っています。

AKINDでは、このような「組織の上流・内部・外部」の3つの領域のブランディングをつなぐブランドマネジメントを提供しています。そして、「ブランドの何を継承し、何を進化させていくか」という問いに対して実務レベルで答えながら、社会変化が激しい時代における企業変革を推進するお手伝いをしています。


おわりに

3本の記事にて、私なりの「ブランドマネジメントの新解釈」をお話しさせていただきました。今後は、それぞれの領域におけるブランディングについて、3つの領域の接続の仕方について、ブランドマネジメントの自走化について、私なりの手法を少しづつ書き溜めていきたいと思います。引き続き、興味を持っていただければ幸いです。

株式会社AKIND 代表取締役 岩野翼

<この記事を書いた人>
岩野 翼 | Tasuku Iwano
株式会社AKIND 代表取締役 CEO / 神戸在住 / 二児の父
英国のBrunel University ブランディング&デザイン戦略修士課程終了。2014年に神戸にて株式会社AKINDを創業。ブランディングという手法は、より良い社会を創り出すために貢献できるのではないかと信じて、神戸から新しい試みに挑戦しています。