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組織の立て直しからダイバーシティ&インクルージョンがカルチャーになるまでの話

NPO法人みんなのコードに関わるようになって2年が経つが、大きく振り返ると、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の観点からも組織がパワーアップしたように思う。

みんなのコードは、フルタイム15名、パートタイムも入れると50名程度の組織だ。この規模の組織あるいはフェーズだからこそ、D&Iの観点でカルチャーにしていけることは何か

みんのコードがやってみたことをまとめたい。

Step0. コミュニケーション経路を立て直す

一般的に、たった数人で始まったチームが社会により大きな価値提供していくためには、どこかしらのタイミングで組織に進化する必要がある。

2年前のみんなのコードも、まさに組織化しようとするタイミングだった。しかし誰もやり方が分からず、阿吽の呼吸でやってきたコミュニケーションが徐々に噛み合わなくなり、特に若手メンバーが苦しんでいる状況だった。

D&Iの前に、コミュニケーションを立て直す必要があった。

役割と時間軸を見える化し、部署編成と会議体を見直した。特に最初の1年は、代表の利根川と対話を重ねて連携し、スケジュールを決めて取り組んだ。

Step1. 関係性の土台をつくる

並行して、ひとりひとりが対話する時間を設けてきた。ほかならぬ私も、メンバーと関係性を築く必要があった。

幸いにも、みんなのコードで働くメンバーは、組織化していくやり方が分からなかっただけで、もともとコミュニケーションをないがしろにしていなかった。

トリセツ

全社員が集まるオフサイトのアイスブレイクで使うために、メンバーの自己紹介シート(通称"トリセツ")を作成した。その後も、メンバーによって、いつの間にか項目が増えていたり、新入メンバーのオンボーディングに活用されたりして、2年経った今も活用されている。

トリセツは、本日時点、以下の項目で構成されている。

・名前
・呼ばれたい名前
・顔写真
・所属部署
・入社した理由
・人生でやりたいこと
・自分が思う強み/得意なこと
・自分が思う弱み/不得意なこと
・16personalities

あるメンバーによると「呼ばれたい名前」欄はナイスらしい。みんなのコードは、20代から60代までが働いていて、世代も多様だ。いくらフランクなカルチャーだからと言って、どうしても若手は、シニアなメンバーに気遅れしてしまうものだ。私も、ずいぶん年上のメンバーをあだ名や下の名前で呼ばせてもらうようになり、コミュニケーションのノリが変わったように実感している。

オフサイト

全国から全社員が集まる場のことで、年3回程度開催されている。私がオフサイトの設計をするようになってからは、午前中は相互理解の時間にあてている。仕事に関係のないお題で話したり、トリセツの内容で対話をしている。

新卒の頃から「議論の前に関係性」と叩き込まれてきたが、関係性の構築がD&Iにおいてもバネとなる。

原体験ドリブン

あるメンバーは、キャリアの文脈で、私が書籍『原体験ドリブン』を薦めたことをきっかけに認定ファシリテーター講座を受講。社内でも、オフサイトでのコンテンツをつくってくれたり、興味をもったメンバーを対象にした勉強会を開くなど、原体験レベルで対話をする機会をつくってくれた。

ダイバーシティには、性別、年齢や人種といった外見から識別可能な「表層のダイバーシティ」と、パーソナリティ、考え方や家族などといった外見から判断しにくい「深層のダイバーシティ」がある。

Step1は、深層のダイバーシティレベルで理解しあえるカルチャーをどうつくるか、と言い換えられるだろう。

Step2. 共通言語をつくる

コミュニケーションを重ねながら、少しずつ、D&Iの基礎となる共通言語も醸成してきた。

コーチング勉強会

私は、2019年にZaPASSでコーチングを勉強した。コーチという職業が途方もない深さと道であることを痛感した一方で、コーチングのスキルは職場でも取り入れていきたいという実感を持っていた。

ちょうどメンバーからコーチングに興味があるという声が出たこともあり、社内勉強会を開くことにした。「傾聴編」「承認編」「質問編」で構成し、全3時間で学べるようにした。昨年は代表を含むリーダー層が、今年は興味をもったメンバーが参加してくれている。

ダイバーシティ勉強会

私自身、「ベンチャー企業における意思決定層のダイバーシティ」をライフテーマに掲げてアクションしている。まだまだ勉強中の身だが、外部講座に参加したり、書籍で読んだことを社内でアウトプットさせてもらっている。企画した勉強会には代表やエンジニアも参加してくれ、「ダイバーシティ」「インクルージョン」といった言葉の定義から考える機会となった。

アンコンシャス・バイアス研修

昨年は、メルカリさんが公開された「無意識(アンコンシャス)バイアス ワークショップ」の社内研修資料を使って研修会を行った。全社員に参加してもらい、経験談をシェアする時間も設けた。みんなのコードは、D&Iが事業活動においても欠かせない観点になったため、継続的に研修を行う予定だ。

特にD&Iにおいては、共通言語をつくっていくことが大事な一歩だと考えているし、まだその段階だとも言える。

勉強会や研修をしただけで、何かがすぐに変わるわけではない。研修の目的を「共通言語をつくること」に絞り、開催後は、研修で使われた単語を積極的に使うようにしている。(単語が使われた瞬間を目撃しては、ニヤリとしている)

Step3. 事業を通じて実践する

みんなのコードは、公教育におけるプログラミング教育を支援する団体であるが、テクノロジー領域もまた、多様性に課題を抱える分野だ。

違和感を持てるようになる

もともとは、教材開発や研修提供のプロセスに男性だけが携わっているという職種属性の偏りに、大きな違和感を持っていなかった。そういうものだと思っていた。

しかし、Step1-2の積み重ねもあり、少しずつ以下のような議論がされるようになっていった。

  • なぜ教科書や教材の作り手に女性が少ないのだろう

  • なぜテクノロジーを自由に使える施設の利用者に女の子が少ないのだろう

  • なぜ理系科目を教える先生に女性が少ないのだろう

  • なぜ理系を選択する女子学生が少ないのだろう

  • 本当に、みんなのコードのミッションでもある「すべての子供」に届けられているのだろうか。

実際にやってみる

これらに対して、少しずつ実践が始まっている。

他に、子供たちがテクノロジーを無料で利用できる施設運営事業でも、いくつかアクションがされている。コンピュータクラブハウス加賀で「ガールズデー」が実施されたり、ミミミラボに生理用品の無料で設置されたり。

施設運営事業の取り組みには、利根川も私もプロセスにまったく関わっていない。各拠点で独自に取り組まれ、小さく実験がされている。

これはすごく良い傾向だと思うし、非常にありがたい。

相談の範囲が広がれば広がるほど、関係者の腹落ちまで時間がかかるものだ。D&Iを勉強してからますます、私は自分の価値観を信じていない。理解できないことも多い。だから、現場ドリブンでスモールスタートがされていくカルチャーは、非常にありがたい。

プロダクト・インクルージョン

さらに、プロダクト開発のプロセスも改善した。小学生向けに新しいプログラミング教材を作る開発プロジェクトでは、アイディア出しの段階に女性メンバーが加わった。

性別や役職といった参加者の属性よりも、深層のダイバーシティレベルで議論が進んでいったことが印象的だった。この時間を経て、「この教材なら女の子にも届くかもしれない」というアイディアにたどりついたのだが、それはとても感動的な瞬間だった。その後、実際にプロダクトを開発し、小学校での実践授業が始まっている。

この体感を経て、プロダクトだけでなく、各種提案や報告書作成のプロセスにおいても、複数の目は必要ないか、違和感を持てるようになった。

いちいち手間が増える印象を持つかもしれないが、このひと手間がいかに重要であるかを事業活動での実践を通してメンバーが腹落ちしている状態になるとは、2年前には想像もしていなかった。

いまや、みんなのコードでD&Iの観点で議論や点検をすることは当たり前となっているし、ジェンダーだけでなく、ミッションでもある「すべての子ども」に果たして届けられているのか、テーブルに上がるダイバーシティの観点が増えている

番外編 代表がD&Iの情報を浴びまくる

この2年間で一番変わったのは、代表の利根川だと思う。D&Iを語らせたら日本の男性経営者の中ではトップクラスだと思うまでに大成長を遂げた。

本人は、自身の原体験に何か強い理由があるというよりは、D&Iの情報を浴び続けたことが大きかったと言う。

みんなのコード出身のIT分野のジェンダーギャップ解消を目指す一般社団法人Waffle、ポジティブアクションを掲げるANRI、そして杉之原に囲まれたら、そりゃそうなるよね、とのことだ。

社会も会社も、すぐには変わらない。

決して一筋縄ではいかないが、しかし、トップダウンとボトムアップ、組織づくりと事業づくり、短期と長期、社内と社会の動きを行き来しながら、少しずつでも確かに変容していくものだと思いたい。

引き続き、小さな実験がボコボコと重ねられていくカルチャーをつくっていきたい


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