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【書籍紹介】『Google流 ダイバーシティ&インクルージョン』がガツンときた

ずっと、経営とダイバーシティ&インクルージョンの関係をどう説明するかを考えてきた。私が取り組もうとしている「意思決定層のダイバーシティ」ひとつとっても、その必要性を共通理解する手前にいる。たしかに、ダイバーシティに取り組んだほうが良いっぽいけど、取り組まなくても、いますぐ業績は下がらないのだ。

インクルージョンはその先の話だ。

『Google流 ダイバーシティ&インクルージョン インクルーシブな製品開発のための方法と実践』を読み、組織のダイバーシティが事業活動に活かされ、その事業が社会を良くしていくという文脈を自分事として実感することができ、大きなヒントをもらった。

本書を読んで気づいたことを、五月雨に書きたい。

ダイバーシティの必要性に気づけない私たち

ダイバーシティとインクルージョンを説明するとき、スリーエムジャパン昆さんがインタビューでおっしゃっていた定義が好きだ。

ダイバーシティ:%で分かるもの
インクルージョン:互いに刺激を受けながら成長する関係性のこと

本書では、なぜダイバーシティ&インクルージョンが大事なのか。さらには、なぜGoogleがプロダクトインクルージョンに取り組むかが丁寧に綴られている。

一方で、プロダクトインクルージョンは、同質性の高いチームでは実現できない。

ダイバーシティの観点から違和感が課題提起されることは、これまでの慣行がかき乱されるのであり、正直めんどくさい。一般的に、ダイバーシティを推進することは、相互理解をする時間がかかり、コミュニケーションコストが上がる。

しかし、逆もまたそうだ。

どうせ言っても経営層は分からない。言っても自分が疲れるだけだ。上位職に伝えるというコミュニケーションコストを払ってもらえない。

この連鎖の結果、同質性の高いチーム、たとえば取締役会では、自分たちで気づけないし、まわりもわざわざ教えてくれない

この一節がズシンとくる。

意図的に、じっくりと積極的に包摂しなければ、無意識に排除してしまう

経営層で言えば、ほかならぬ私たちが、ダイバーシティの文脈から排除されている集団であることを胸に刻みたい

インクルーシブなプロダクトをつくる最も簡単な方法は、協力者の力を借りること。これまで疎外されてきた人たちは、意思決定の場となる会議室にはおそらくいないでしょう。

逆に、経営層の構造に関わらず、製品開発プロセスを通してダイバーシティ・インクルージョンに取り組んでいけるのは、すごく希望があると思った。

プロダクトインクルージョンに肩書は不要

本書には、どのように製品開発プロセスにダイバーシティを組み込み、インクルーシブなプロダクトをつくっていけるかが具体的に書かれている。

Googleの場合、プロダクトのデザイン・開発のプロセスの優先事項の高い領域を以下の4つとしているそうだ。

・アイディア出し
・ユーザーエクスペリエンス(UX)
・ユーザーテスト
・マーケティング

インクルーシブな製品を開発するためには、プロダクトインクルージョンがプロセスに組み込まれる可能性が早いほど良く、特に「アイディア出し」のフェーズが重要だと言う。たしかに、さまざまな決定がなされた後に、変更するのはコストがかかりすぎる。

アイディア出しにおいてダイバーシティ&インクルージョンの威力を感じた経験を共有したい。

私はNPO法人みんなのコードでも働いている。公教育におけるプログラミング教育を支援する団体であるが、テクノロジー領域もまた、経営と同じように多様性に課題を抱える分野だ。

みんなのコードでは、テクノロジー領域におけるダイバーシティの課題が共有されていて、その上で、新しいプログラミング教材を作る際のアイディア出しに女性メンバーが加わった。ブレストでは、性別や役職といった参加者の属性よりも、それぞれの人生を引き出しながら議論が進んでいったことが印象的だった。本書を読む前の出来事だった。

結果として、もともと仮置きしていたイメージを超えてとても良いプロダクトのアイディアにたどり着くことができた。

仮にコミュニケーションコストが上がったとしても、ダイバーシティを取り入れる。そのほうが良い製品になる。これまで届けられていなかった人に届けられる感覚がする。そんな実感を持つことができた。感動的だった。

そして気づいた。プロダクトインクルージョンにおいて求められているのは、肩書きではない、個人のストーリーなのだ。

簡単なはずなのに、取り組まれてこなかった

さて、Google関連の本はこれまでも数冊読んできた。『How Google Works』、『Work Rules』に『Search Inside Yourself』。どれも素晴らしい書籍だ。しかし、頭では分かるんだけど、まあ言っても世界の上位クラスの話だよな~とか、どこか一線を引いてきたように思う。

それと比較して、本書は、難しいことはひとつも書かれていない。

実際、文中にもこのように書かれている。

インクルージョンには、量子物理学の学位のようなものは必要ない。必要なのは、配慮と意識だけ。

必要な配慮と意識を持てれば、誰でもできる。

誰でもできたはずなのに、多くがやってこなかった。そうやって見落とされてきた領域に手付かずの痛みがある。新しいチャンスがある。

「選ばれなくなる」という感覚

そして、必要な配慮と意識を持って眺めたならば、世界はもっと複雑で、もっとチャンスが潜んでいる。

ダイバーシティの交差が加わると、個々のユーザーの違いは飛躍的に大きくなる。たとえば、30歳の女性を自認するエチオピア系黒人弁護士のニーズや好みと、50歳のノンバイナリーを自認するジャマイカ系黒人経営者のニーズや好みは大きく異なる。たとえ、2人は同じ人種だと見なされていたとしてもだ。

ダイバーシティの手前で足踏みしている日本企業がどう変わっていけるか。

プロダクトインクルージョンの最低限の基準さえ満たせないようなグローバル・プロダクトをデザインしても許される時代は、とっくに終わった

たとえ決裁プロセスがほとんど男性だったとしても、また違う角度から取り組める可能性があるプロダクトインクルージョンの世界。

ぜひ多くの人に手に取っていただきたい1冊です。


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