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フランスで家探し 《後編》

フランスで初めて家を買うことになった話、後編です。
前編はこちら

パリから車で一時間半。辿り着いたのは、一言で言うなら個々の割当てを広く取ったキャンプ場のような場所だった。野鳥がいる水辺があり、木々で覆われた広い敷地を、区画ごとに低い塀や生垣で囲ってある。ログハウス、トレーラーハウス、平家、二階建て、大きさもスタイルも様々な、思い思いの住まいが並んでいた。
入り口は開放されているものの、一応私有地なので、たまに車が通っても歩行者に配慮しているのが感じられる。基本的に住人がほとんどだろう。すれ違う人がのんびり散歩している様子が、本当にキャンプ場を思わせる雰囲気だった。私達夫婦は、ひと目でこの場所が気に入った。

訪問した家は、鉄骨で出来た平家の簡易住宅で、居間に薪ストーブがあり、道路に面した側に広々としたベランダ(フランスではガラス張りのサンルームのこと)があった。寝室が二つあり、バス・トイレ別で、80m2弱。十分広い。うねうねした可愛い葉っぱを持つ、背の高いナラの木が庭の周りを囲んでいて、敷地に足を踏み入れてすぐ、これらの木々の明るい緑に惹きつけられた。

そして、実はここに来る直前に寄った小さな村のレストランで知り合った、隣のテーブル客の一人が、この家から少し離れた場所にあるログハウスに住んでいると言っていた。ロックダウンの合間にパリから引っ越して来て、しばらく二拠点生活をしていたが、ここが気に入ってパリのアパートは既に引き払ったそうだ。ここでの生活にとても満足しているらしい。

これは幸先がいいね、と後で夫と話した。家探しの際、これはと思う土地に出会ったら必ず、その辺のカフェやバーで居合わせた人の話を聞くことを繰り返していたが、ちょっとしたエピソードの中には、懸念事項と取れる内容もあったからだ。例えば、訪問した家が学校に続く通りと交差するT字路にあり、その場所は毎朝多くの子供や見送りの親で溢れるのだとか、半年前に引っ越して来たばかりの人が、閉鎖的な土地柄で溶け込むのに苦労しているとか。

このレストランで出会った男性とは、その後も家を選ぶ際のアドバイスをもらったり、もう一組知り合ったイタリア人夫婦もとても感じのいい人達で、自分達で建てたという立派なログハウスに住んでいた。更に後で知ったことには、この二組は友人同士でもあった。住人達の仲が良さそうなのも好印象である。

さて、この平家の家の購入に向けて、前向きに検討し始めたのが5月末。そこから2週間経たないうちに、この話は頓挫した。よく調べると浄化槽の工事が必要なことや、窓の規格が特殊で二重窓に取り替える時の費用が割高なこと、アスベストが床の一部や倉庫の屋根に使われていること等が分かり、工事代を計算に入れて値段の交渉をしたが、合意には至らなかったのだ。

それから間もなく、車で数分の場所に大きなベランダと白いテラスが印象的な家を見つけた。大きさは前とほぼ同じ、平家なのも同じ。水辺に面した庭の眺望が最高なことと、広々したキッチンが設置されたベランダが、居間同然に居心地が良くとても気に入ったのだが、結論から言うと、こちらも契約の最終段階で頓挫してしまった。値段の合意の後、断熱工事の見積もりに来た業者さんに、それまで全く気づかなかった屋根や壁の問題点を次々と指摘され、それらが全て納得の行く説明だった為、元々高めの値段だったことに未知の工事代が加わり、結果的に予算を超える危険性がある、と判断せざるを得なかった。

毎朝、この庭を眺めながらコーヒーを飲む所まで具体的に想像していた私達は、実現直前の夢を手放すのは辛かった。既に手続きにキャンセル料がかかるタイミングだったことも追い討ちをかけたが、仕方がない。工事代が膨らんで行く不安を抱えながら、こんな大きな買い物をする訳には行かないというのが、二人の結論だった。

その後しばらく、家探しにうんざりしていたように思う。夏が来るというのにバカンスの予定も立たないし、喜んだりガッカリしたりの繰り返しで、二人とも精神的に疲れてしまっていた。それでも、他の場所も含めて、広い範囲でアノンスをチェックし、時々訪問もした。色々見回してみて改めて、あの場所の良さをしみじみ感じることに気づいた時、私は以前一度訪問した、ある家を真剣に検討してみないかと夫に提案した。

最初の家から徒歩数分の距離にあった、三角形の可愛い家。白川郷を思わせる外観で、Aフレームの家と言うらしい。私はアノンスの写真を見た時点で一目惚れだったが、構造上二階部分が小さく、内部がこじんまりしていることや、古い建築で採光に難がある(最近のものは一面ガラス張りで明るいことが多い)のは確かで、夫はピンと来ない様子だった。ただ、ベランダ部分を居間として快適に過ごせるように作り替えれば、生活するのに問題は無さそうに思えた。これは二つ目の家から得たアイデアだ。

庭は最初の家と同じ位の広さで、値段も同じ。しかも木で覆われた隣の敷地が一緒に売りに出されていて、両方合わせても、二つ目の家より安く済む。ちゃんと管理出来るかはともかく、これだけ敷地が広く木で覆われていると、居間の暖炉で使う薪を敷地内で拾い集めることも出来るし、他にも可能性が拡がりワクワクする。これは買いなのでは?と、夫に売り込んでいた所、訪問した際は調査中だったDPE(エネルギー効率を測る調査で、フランスでは家の状態の目安の一つ)の結果が出て、予想以上に良かったことから、夫もその気になったようだ。

そうして、数ヶ月に渡る家探しも、ここにようやく終わりを迎えた。
いよいよ明後日には最後のサインをして、家の鍵をもらうことになっている。その数日後には引っ越し。新しい家での暮らしが始まる。今までとは全く違う環境に飛び込んで行くのだ。順応性には割と自信がある方だけれど、さてどうなるか。
一番近いパン屋まで4kmなので、いずれ車の免許にも挑戦することになるかもしれないが、それはまた別の話。引っ越しって冒険だな、とふと思った。



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