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餅は餅屋、画材は画材屋。

突然ではあるが、家で食べるご飯に関しては特にこだわりがある方ではなくて。冬の家ご飯の定番は大体『うどんに野菜や肉などを入れ、卵でとじたもの』か『野菜をいっぱい入れたお味噌汁とごはん(+スーパーの総菜)』になる。

そんな私でも休日に少しは料理らしいことをしよう!と、気合を入れて台所に立つ事もある。その日はシチューを作るため、先ずは野菜を炒めようとターナースプーンを取り出しした。数か月前に「これから料理のレベルが上がっていくから」と100円均一で購入。プラスチック製ではあるが、ちょっとオシャレに見え、料理の際テンションが地味に上がるデザインのものであった。

ところが、スプーンの先を見てみると溶けた跡がある。

火に直接当ててもいないし、プラスチックが溶けるような高温料理を作った覚えもない。使用頻度は数回。使えないことも無いので「また新しいのを買えばいいや」と思いながら料理を続けた。今度は購入するときは100円均一ではなくホームセンターで少々高くてもきちんとしたものを買おうと。(もちろんシチューは美味しかった)

前振りが長くなってしまったけど、今回のお話。

Twitterでツイートを検索すると『100円均一で画材を買いました!』と見ることがある。らくがき帳やクレヨン、筆などは昔からあったが、最近は「日本の色をモチーフにした水彩絵具」や「イラスト用の油性マーカーペン」など画材屋に勤めている私もほほぅ、と思う商品も出てきた。中にはきちんとした画材メーカーが出している商品もあるのでそちらに関しては販路の拡大と新規ユーザーの獲得につなげているのかな、と思う。

…とはいえ。
これは考えれば考えるほど画材屋としては考えてしまう問題である。

100円均一は画材屋に比べると全国どこにでもあるし、なんてったって1アイテム100円。初めて『絵を描いてみようかな』と思った人達にはとても手に取りやすい。購入して使いこなせなくても「100円だったからま、いっか」という一種の諦めもつく。

ん?いい事ばかり?
いやいやいや!『満足』も『諦め』も画材屋としては困る!!

一旦満足してしまえばよっぽどの向上心や好奇心が無い限り、100円より高価な画材を手に取ることはないと思うし、逆に上手に絵を描けないからと諦めてしまえば画材を手にする事すらやめてしまう可能性もある。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、全くないとは言い切れない。画材屋としては、絵を描こうという気持ちがあるのなら上を目指して色々な画材を使って欲しいし、何よりも『絵を描くこと』自体を好きになって欲しい。

数年前、こんな事があった。
私がお店にいると小さな女の子とお母さんがお店に入ってきた。様子を見るとお母さんは付き添いで何やら女の子の方が「何かを探している」感じだったので、女の子に話を聞いてみた。お母さんの話では絵具で絵を描いているのだけど、紙がボコボコになってしまうのが嫌という事で、紙を探しに画材屋である文房堂に来たという事だった。

それぞれの画材には作品の魅力を最大限に引き出す紙があって、腕は同じだったとしても紙を変えるだけでも色の発色や作品自体の見え方が変わるという事がある。

彼女は単純に『紙がボコボコしたのが嫌』と思ったから文房堂に訪れたわけなのだが、疑問を持った彼女も素晴らしいし、その悩みをを汲み取ってあげ、専門店である文房堂へ足を運ぼうと思ってくださったお母さんも素晴らしいと私は思った。ここでお母さんが「我慢しなさい」とも言おうものなら、彼女は水彩紙の存在を知らないまま…もしかしたら絵具で絵を描くことが楽しくなくなってしまったかもしれない。(ちなみに私が水彩紙すごいやばい!って思ったのは文房堂に来てからである。)

皆様には100円均一で画材が買える便利な時代ではあるが、絵を描く材料の専門店は『画材屋』という事を頭の片隅に入れておいて欲しい。そして、絵を描いていて何か疑問に思ったり、自分の思う表現が出来なくなった時はぜひ画材屋へ足を運んで欲しい。

専門店で手に入れた画材はきっとあなたの世界を変えてくれるから。
『餅は餅屋』というではないか、同じように『画材は画材屋』なのである。

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